ご予約はこちら
045-932-5151
2023年8月3日

フィラリア予防

毎年春になるとフィラリア予防という言葉を耳にすると思います。なんとなくわんちゃんに害がありそうだから、健康診断のついでにやっておこうかな?本当にフィラリアの検査って必要なの?毎月お薬飲まなきゃいけないの?など様々な疑問を持つ方もいらっしゃると思います。

今回はそんなフィラリアについてご説明致します。

 

  

<フィラリア症とは?>

フィラリア症とは犬糸状虫症とも呼ばれ、犬糸状虫(Dirofilaria immitis)と呼ばれる寄生虫(=フィラリア)が原因で引き起こされる病気です。主にによって媒介され、食肉目(犬科、イタチ科など)などの動物を宿主として寄生します。このフィラリアは最終的にわんちゃんの心臓や肺血管に寄生して症状を引き起こす非常に恐ろしい病気です。

フィラリア症は熱帯、亜熱帯、温帯に多く、感染自体は世界中で認められます。日本でも全国的に感染が報告されていて、発生率自体は低下しているものの、依然発生は認められています。

  

  

<どう感染するの?>

フィラリア症は、感染動物と蚊によって生活環というものが維持されています。(下図)

  1. 感染しているわんちゃんの体内に存在するL1(第1期幼虫=ミクロフィラリア)が蚊の吸血によって、蚊に取り込まれます。
  2. 蚊の体内で2回の脱皮をして、L1(第1期幼虫)からL3(第3期幼虫)に成長します。
  3. 感染した蚊が他のわんちゃんを吸血することで、蚊の体内からわんちゃんの体内にL3が皮下組織に侵入します。
  4. L3は約2~10日程度で1回脱皮してL4(第4期幼虫)となります。L4は約1~2ヶ月程度で、皮下の筋肉や脂肪を移動しながら、さらに1回の脱皮をして、L5(第5期幼虫)に成長します。
  5. L5は血液中に侵入して移動することで、肺や心臓に到達し、L6と呼ばれる成虫になり、大量のL1を産出します。

 

地域によって異なりますが、蚊はだいたい3月から11月頃まで発生するとされています(下図参照)。

また、蚊の体内で成長するミクロフィラリアは、環境気温に依存しており、平均気温が14℃未満では成熟できないとされています。

  

<発症してしまうとどうなるの?>

症状の軽い場合は乾いた咳が出る程度ですが、病態の進行に伴い、運動時の呼吸困難や疲れやすさ、食欲低下などが見られ、お腹の張り(腹水や胸水の貯留)、四肢浮腫などが認められることがあります。

未成熟虫が肺の血管や心臓に寄生してしまうと、死んだ虫体による塞栓症肺高血圧症といった病態を引き起こすことや、突然の虚脱や血色素尿を示すような大静脈症候群といった非常に重篤な病態を引き起こすこともあります。

  

  

<治療はどうなるの?>

フィラリア症の治療としては内科治療と外科治療があります。治療の目的はどちらも、わんちゃんの症状を改善しながら、あらゆるステージの犬糸状虫を駆除することとなります。

内科治療(駆除療法):駆除薬(メラルソミン)を用いることで、フィラリアを駆除する方法です。しかし、この方法では、死んでしまった虫体が肺の血管に詰まることで塞栓症を引き起こし、状態が悪化してしまう可能性もあります。また、最悪の場合、死に至ってしまうこともあります。

2014年以降、国内ではフィラリア駆虫薬の販売が中止されていています。また、用いている駆除薬は予防薬として用いている駆虫薬とは異なります。

 

外科治療(摘出術):X線や超音波検査ガイド下にて、金属の鉗子(アリゲーター鉗子)を用いて、心臓や肺血管に寄生している成虫を摘出する方法になります。

 

フィラリア症は発症してしまうと治療は難しく、最悪の場合死に至ってしまうほどの非常に恐ろしい病気となります。しかし、きちんと予防してあげることで、発症する可能性は限りなく少なくできる病気でもあります。そのため、毎年の検査、毎月の予防がとても重要となります。

 

  

<フィラリア検査>

フィラリア検査には、血中のミクロフィラリアを検出するミクロフィラリア検査、専用の検査キットを用いる抗原検査などがあります。

ミクロフィラリア検査:末梢血中のミクロフィラリアを検出する方法です。顕微鏡を用いて血液中にミクロフィラリアがいないかを見る検査になります。

 

抗原検査:専用のキットに数滴の血液を垂らすことで、血液中に含まれるフィラリア成虫に特有の抗原を検出します。

  

  

<なんで予防の前に検査をするの?>

フィラリアの予防薬は主にL3とL4の幼虫に効果を示しますが、L1やL2に対しても効果を示します。もし、検査を行わずに体内に大量のL1がいる状態で予防薬を投与してしまった場合、大量のL1の死骸が発生することとなります。この死骸から発生される毒素をわんちゃんが体内で吸収することで体調を崩してしまったりショック症状を示してしまうことがあります。また、お薬の飲み忘れなどですでに成虫に成長してしまっている場合もあり、飲んでいた予防薬がきちんと効いていないこともあります。

そのため、まずは検査により体内に成虫がいないことを確認してから予防薬を投与してあげることが大切となります。

  

  

<予防薬>

わんちゃんの予防薬には”ノミ・ダニ・フィラリア”が一緒に予防できるオールインワンのものや、フィラリア予防のみのものなどがあります。また、お薬のタイプにも、錠剤タイプやチュアブルタイプ、スポットタイプなど様々な種類があります。

獣医師と相談して、わんちゃんに合ったお薬をお選びください。

※副作用として、ぐったりしたり、吐いたり、顔がはれたりすることがあります。

<おわりに>

罹ってしまうと大変な病気ですが、きちんと予防してあげれば発症のリスクはほとんどなくなります。

大切なご家族のためにも、期間を守ってきちんと予防してあげましょう。

その他の記事

  • 内視鏡 異物除去

    内視鏡症例をご紹介いたします。 果物の種を飲み込んでしまったワンちゃんで内視鏡によって摘出を行いました。 異物、誤食の中で桃の種など果物の種は高確率に腸…

    4年前
  • 犬の弁膜症:僧帽弁閉鎖不全症(MMVD)

    犬の弁膜症:僧帽弁閉鎖不全症(MMVD)   僧帽弁閉鎖不全症(以下 MMVD)は犬の心臓病の代表的な疾患です。犬の心臓の構造は人と類似しており、2心房2心室で…

    9か月前
  • 犬の脾臓腫瘍

    犬の脾臓腫瘍は中・高齢で好発し、1/3~1/2が悪性とされています。腫瘍破裂や出血により劇症を呈することもあれば、症状が認められない場合も少なくありません。今回紹介…

    12か月前
  • 胆嚢破裂を起こした胆嚢粘液嚢腫の犬

    胆嚢粘液嚢腫は犬の代表的な緊急疾患の一つです。以前にも当院で胆嚢摘出術は数例行っておりますが、今回は胆嚢が合破裂し胆嚢内要物が腹腔内に播種した症例をご報告いたします。 …

    1年前
  • 犬の椎間板ヘルニア

     椎間板ヘルニアは、犬において最も遭遇する頻度の高い神経疾患の一つです。椎間板は椎骨間(背骨と背骨の間)の緩衝材として存在しています。この椎間板が変性し、脊髄を圧迫すること…

    8か月前
  • 炎症性腸疾患<IBD>、慢性腸症

    炎症性腸疾患<inflammation Bowel disease:IBD>
    慢性腸症<chronic entropathy:CE> 小腸または大腸の粘膜固…

    4年前
  • 膝蓋骨脱臼

    膝蓋骨脱臼とは、子犬に最も多いとされる先天性疾患であり、その割合は7.2%にも及びます。特に小型犬種に多く発生し、大型犬と比較するとその発生リスクは12倍とも言われています…

    4年前
  • 腫瘍科

     獣医療の発展に伴いペットの長寿化が進み、ペットの死因でも悪性腫瘍(ガン)が上位を占めるようになってきました。   犬の平均寿命 14.76 歳、猫の平…

    8か月前
  • 低侵襲手術(内視鏡を用いた膀胱結石の摘出)

     膀胱結石は犬、猫ともに発生頻度の多い泌尿器疾患です。体質により再発を繰り返すことが多いですが、手術時に細かな結石を取り残してしまうことによって術後早期に膀胱内に結石が確認…

    1年前
  • 混合ワクチン

    コロナの影響によって”ワクチン”という言葉をよく耳にするかと思います。わんちゃん、ねこちゃんと一緒にいると、はがきなどによって混合ワクチンのお知らせが届くと思います…

    10か月前