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2020年8月31日

肺高血圧症

今回の症例は『肺高血圧症(pulmonary hypertension)』です。
肺高血圧症は肺動脈圧の上昇を主として、様々な疾患から2次的に生じることの多い疾患です。
認められる症状として頻呼吸呼吸困難など重篤な呼吸器症状が認め、突然呼吸不全で死に至ることもある病気です。この病気を疑う症状として突然倒れる失神や運動中のふらつきも特徴的です。

アメリカ獣医内科学会でこの肺高血圧症におけるconsensus statement(医療的公式声明)が発表され以下の6つに分類されることが提唱されました。

1、肺動脈性/先天性
2、左室機能不全にともなうもの
3、慢性呼吸器障害
4、血栓
5、フィラリア症
6、複合型/腫瘤

症例 ヨークシャテリア 15歳 去勢雄
朝お散歩のときに突然失神したとのことで緊急来院されました。来院時は虚脱、努力性呼吸、チアノーゼを呈していました。
動脈血酸素分圧(spO2)は60程度まで下がっており、一刻を争う状況でした。レントゲンでは右心の拡大、肺血管の拡張および後肺野に間質パターンが認められ、肺エコーでは同じく後肺野にB-lineを認めたため肺高血圧に伴う肺水腫を考えました。

右心の拡大 後肺野間質パターン
肺エコー B-line

緊急治療により呼吸状態安定後に心エコー図検査を行ったところ、重度三尖弁逆流(4.7m/s)、肺動脈弁逆流(2.7m/s)および左室の圧迫が認められ、肺高血圧症と診断いたしました。
(分類は、1、4以外は除外できました…)

三尖弁逆流 4.7m/s
左室の圧迫

全身の循環動態は維持されていたため酸素室内にて安静化し、シルデナフィル(肺血管拡張薬)および利尿剤にて治療を行い、緊急的な状態は改善しました。その後シルデナフィルの量を調整し、ご家族との面会時にも吠えるようになり、徐々に食欲ももどり無事退院となりました。

おうちでは酸素室をレンタルしてもらうことになりましたが、元気に帰っていきました!

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