猫の子宮蓄膿症は若い子でも発症する?原因と治療について。
「子宮蓄膿症」とは、避妊手術をしていない女の子の犬/猫ちゃんの子宮に細菌が感染し、膿が溜まってしまう病気です。
今回は猫の子宮蓄膿症について詳しく解説します。
============================================
【 発祥のメカニズム 】
猫の子宮蓄膿症は発情期での発症が多く、これには卵巣から分泌されるプロジェステロンが深く関係しています。
プロジェステロンとは、別名黄体ホルモンと呼ばれ、卵巣内に形成される黄体から分泌される性ホルモンです。
プロジェステロンの一番の役割は「妊娠維持」であり、
◎子宮内膜の増殖・・・着床のためにベッドをふかふかにする
◎子宮の運動低下、子宮頚管の収縮・・・着床した受精卵が出ていかないように動きを抑え、出口をふさぐ
◎子宮内の免疫を低下させる
◎乳腺の発達
といった妊娠に向けた変化を起こします。
この状態で子宮内に細菌が入り込んでしまった場合、「細菌が増えやすい環境が整っている」+「膿が外に出にくい」ため、細菌感染が進行し子宮蓄膿症となってしまうのです。
子宮蓄膿症には、1⃣開放型と2⃣閉鎖型の2つのタイプがあります。
1⃣開放型
外陰部から臭いのするあずき色の膿が出てくることで気づかれることが多いです。血便や血尿と間違えられることもあります。
2⃣閉鎖型
膿が外に出てこないタイプ。そのため気づかれずに進行してしまったり子宮が破裂してしまう可能性もあり、開放型と比べて危険性が高いです。
子宮蓄膿症になると、敗血症と呼ばれる状態に陥ることあります。細菌などの微生物の感染による全身性の激しい炎症反応で、早期に治療をしないと命を落とす危険性が高い病態です。
============================================
【 検査 】
飼い主様は、「食欲の低下」「ぐったりしている」「呼吸が速い」「吐いている」「お尻から臭い液体が出ている」といった主訴で来院されることが多く、先述の通り血便や血尿と間違われることもあります。
子宮蓄膿症の診断には、超音波検査が有用です。
超音波検査では子宮内膜の肥厚や子宮内の液体(膿)の貯留が確認でき、これにより子宮蓄膿症のおおよその診断がつきます。
また、外陰部からの分泌物を顕微鏡で見ることで細菌の感染を確認できます。
============================================
【 治療 】
治療は、大きく1⃣内科治療と2⃣外科治療に分かれます。
1⃣内科治療
細菌感染が原因ですので、抗生物質の投与を行います。しかし、内科治療では完治しなかったり再発を繰り返す場合が多く、子供が欲しい等の強い要望がない限りはお勧めしません。
2⃣外科治療
手術で子宮と卵巣を摘出します。この方法が最も確実であり、再発の可能性もほぼありません。
こちらの写真は9ヵ月齢猫の子宮蓄膿症の手術写真です。犬と違い、猫では若齢での発症も多く、本症例のように1歳未満で発症することもあります。
============================================
子宮蓄膿症は非特異的な症状が多く、気付かないうちに進行し短期間で命を落としてしまう危険性がある病気です。
避妊手術を完全に推奨するわけではありませんが、避妊手術をすることで防げる病気もあることを知っていただければと思います。
当院での避妊手術についてはこちらで詳しく解説しておりますので是非ご覧ください。
その他の記事
-
肝生検
健康診断で『肝臓の数値が高いですね』と言われたことや過去に『黄疸があり大変厳しい病気です』と動物病院で診断されたことはありませんか? 猫ちゃんの肝臓の病気は栄養性、感…
5年前 -
泌尿器科
泌尿器とは泌尿器とは、腎臓、尿管、膀胱、尿道などからなる器官の総称で、血液をろ過して尿を作り、体内の水分や塩分のバランスを調整する働きをします。 高齢になると腎臓…
1年前
-
副腎腫瘍・副腎腺腫摘出
副腎腫瘍は当院で手術が可能な腫瘍です。この腫瘍はその特性上 ①腫瘍の分類 ②副腎皮質機能亢進症の有無 ③血管への浸潤や位置関係 …
11か月前 -
尿管結石摘出術
尿管結石は文字通り腎臓と膀胱をつなぐ『尿管』に結石が詰まってしまい、二次的に腎臓に損傷が生じる疾患です。片方の尿管に閉塞しただけでは主だった症状は認められませんが…
1年前 -
猫の心筋症:肥大型心筋症(HCM)
心筋症には4つの代表的な分類が存在します。①肥大型心筋症(HCM)、②拘束型心筋症(RCM)、③拡張型心筋症(DCM)、④不整脈源生右室心筋症(ARVC)の4つに分類されて…
1年前 -
ワクチンによるアナフィラキシーショック
毎年たくさんのワンちゃんネコちゃんが予防接種のために来院しています。 病原体の病原性を弱めたり無毒化したものをワクチンとして接種することで、 恐ろしい感染症に対…
6か月前 -
狂犬病予防
”狂犬病予防接種”、皆さんは毎年きちんと接種されていますか?どうして毎年接種しないといけないの?接種の必要はあるの?と思う方もいるかもしれません。狂犬病は皆さんが思…
2年前 -
犬・猫の去勢手術
【去勢手術のタイミングは?】 去勢手術をするにあたって、この時期・この年齢に必ず受けないといけないというものはございません。しかし、子犬・子猫ちゃんの場合は、性成熟を…
1年前 -
腹腔鏡下避妊手術
開腹手術では上からの視点のみで、傷口を大きく開かない限り腹腔内をよく観察することは難しいです。 胆嚢や肝臓 膀胱 …
7か月前 -
肺高血圧症
今回の症例は『肺高血圧症(pulmonary hypertension: PH)』です。
肺高血圧症は肺動脈圧の上昇を主として、様々な疾患から2次的に生じることの多い…4年前