肝中央区域の腫瘍および胆嚢を一括切除した犬の一例
近年では、獣医療の発達とともに犬猫の長寿化が認められるようになり、腫瘍と診断される子も増えてきています。腫瘍の中でも肝臓腫瘍は稀であり、肝臓自体は”沈黙の臓器”とも呼ばれ、腫瘍が発生しても症状が出にくいことが多く、発見された際には大きくなっていることもあります。
今回は肝臓の中央区域に腫瘍ができた犬の症例についてご紹介していきます。

📌目次


症例情報
症例は13歳4カ月のトイ・プードルの避妊済みの女の子です。
肝臓腫瘍の手術の目的で受診しました。


検査
CT検査では、内側左葉および方形葉に動脈相で不均一に造影増強される4.0×4.6×3.5cmの腫瘤性病変が認められました。
腫瘤が大きいため、減容積の目的で外科手術を実施することとなりました。


実際の手術写真










病理組織学的検査
病理組織学的検査の結果は、肝細胞腺腫および結節性過形成と診断されました。
犬の原発性肝臓腫瘍の発生は稀であり、犬の全腫瘍の1.5%未満とされています。結節性過形成を含む肝細胞増殖性疾患は原発性腫瘍の80-90%程度を占め、肝細胞腺腫は悪性腫瘍である肝細胞癌よりも発生が多いとされています。しかし、肝細胞癌と肝細胞腺腫は2つは明確には区別できない場合もあるため注意が必要です。


まとめ
術後3カ月が経過しましたが、この症例は現在も元気過ごしています。
肝臓は上記でも述べたように、”沈黙の臓器”と呼ばれ、病気が進行するまで症状が出にくく、早期発見が遅れることもあります。そのため、早期発見・早期治療のためにも、定期的な健康診断を行うことが重要となります。
いつもと様子が違うなど、気になることがあれば早めにお近くの動物病院にかかるようにしてください。
※他の腫瘍疾患について⇨こちら

Q&A
Q. 高齢でも手術は可能ですか?
A. 高齢でも手術は可能です。手術前に全身的な検査をさせていただき、麻酔リスクの判定をさせていただきます。麻酔リスクが低い場合には高齢でも安全に手術が可能となる場合があります。
Q. 手術以外の治療方法はありますか?
A. 単発性の腫瘍であれば、外科手術による摘出が最も一般的になります。外科手術による摘出が困難な場合は、放射線治療や肝動注治療(カテーテル療法)も選択肢となります。しかし、手術ほどの確実性はなく、実施出来る施設が限られます。
Q. 肝臓腫瘍ではどのような症状が出ますか?
A. 初期の段階では症状として出ることはほとんどありません。そのため、腫瘍が大きくなってきたなどの病態が進行した場合に症状として出てくることがあるため注意が必要です。
Q. 治療したらどれくらい生きられますか?
A. 完全切除ができた場合の生存期間中央値は4年以上(4年生存率は約90%)とされています。切除の完全性によって差が出てしまう可能性はありますが、不完全切除であっても、生存期間中央値は2年以上という報告もあり、生存期間を延長できる可能性があります。

その他の記事
-
猫の乳腺腫瘍
猫の乳腺腫瘍は犬の乳腺腫瘍と比較して悪性度が高く、おおよそ80%が悪性の癌であると言われています。雌猫に発生する腫瘍のうち17%が乳腺腫瘍であり、比較的発生率の多い腫瘍で…
2年前 -
「目が見えていないかも…」考えられる原因とは?
犬は人よりも年を取るスピードが速く、7歳を超えるとシニア期に入ります。 年を取れば取るほど病気も増えていきますが、目もその一つです。 「最近物によくぶつかるよう…
2年前
-
胆嚢破裂を起こした胆嚢粘液嚢腫の犬
胆嚢粘液嚢腫は犬の代表的な緊急疾患の一つです。以前にも当院で胆嚢摘出術は数例行っておりますが、今回は胆嚢が合破裂し胆嚢内要物が腹腔内に播種した症例をご報告いたします。 …
3年前 -
膝蓋骨脱臼
膝蓋骨脱臼とは、子犬に最も多いとされる先天性疾患であり、その割合は7.2%にも及びます。特に小型犬種に多く発生し、大型犬と比較するとその発生リスクは12倍とも言われています…
6年前 -
犬の外傷性股関節脱臼
犬の起こりやすい外科疾患の中に股関節脱臼というものがあります。股関節脱臼は全ての外傷性脱臼の中でも最も発生が多く、全ての年齢に起こり、犬種や性差に関係なく発生します。主に…
2年前 -
胆嚢摘出術および総胆管ステント設置を実施した犬の1例
胆嚢粘液嚢腫とは、胆嚢内に可動性の乏しい胆汁由来の粘液状物質が過剰に貯留した状態です。この粘液状物質が過剰に貯留してしまうと胆嚢拡張を起こしたり、胆汁の流れ出る通り道である…
1年前 -
侮ってはいけないノミ・ダニ予防について解説 | 痒いだけでは済まない場合もあります
ノミやダニと聞くと、痒いというイメージを持たれる方が多いと思います。しかし、ノミやダニは痒みを引き起こすだけでなく、わんちゃんや猫ちゃん、さらには人にも様々な病気を引き起こ…
3年前 -
うっ血性心不全/心原性肺水腫(犬)
心源性肺水腫とは、僧帽弁閉鎖不全症や肥大型心筋症などの心臓病によって心臓内の血液の鬱滞が悪化する事により、肺に血液中の水が押し出され呼吸困難を生じる二次的な病態で…
7年前 -
副腎腫瘍
副腎腫瘍にはいくつか分類があり、その由来として副腎皮質由来か副腎髄質由来かで分けられ、ホルモンを実際に産生・分泌するかどうかで機能性のものと非機能性のものに分けられます。副…
6年前 -
呼吸器科
『当院では、様々な呼吸器疾患に対し質の高い診断や治療が可能にするために血液検査機器、血液ガス検査機器、胸部レントゲン検査、気管支鏡検査、ICU(集中治療室)、およ…
3年前
