腹腔鏡下にてシャント血管結紮術を実施した犬の1例
先天性門脈体循環シャントとは、主に若齢の犬や猫で稀に認められる病気です。名前の通り先天的(生まれつき)な病気で、肝臓に流入する血管(門脈)と全身循環(静脈)の間に異常な血管を形成する病気になります。この病気は特異的な臨床症状を示さないこともあり、詳しい検査をしないと見つからないことも多く認められます。
今回はこの先天性門脈体循環シャントと診断された症例についてご紹介します。

📌目次


症例情報
症例は10カ月齢のジャックラッセル・テリアの男の子です。他院にて先天性門脈体循環シャントが疑われたため、精査および治療の目的で本院を受診しました。


検査結果
他院の検査では、肝酵素の軽度上昇が認められたため、肝機能検査を外注したところ、重度の肝機能の低下が認められていました。そのため、先天性門脈体循環シャントを疑い精査を実施しました。

CT検査の結果では、後大静脈ー左胃静脈、右胃静脈シャントと診断されました。


実際の手術写真
ここからは実際の手術写真を用いて手術内容を簡潔に載せていきます。
出血なども認められるため、血が苦手な方はご遠慮下さい。
苦手な方はこちらから結果のページまで飛べます⇨こちら(病理組織学的検査の結果まで飛びます)

トロッカーを設置し、腹腔鏡を用いて腹腔内を探索、シャント血管の位置を確認しています。

シャント血管周囲の組織を剥離し、シャント血管を仮結紮。門脈圧を測定し全身の血圧も安定していることを確認、また造影検査にてシャント血管が結紮できていることを確認しました。

シャント血管を完全結紮後、再度造影にてシャント血管が縛れていることを確認。同時に肝生検を実施し、閉創し手術を終了としました。

病理組織学的検査
肝生検の病理組織学的検査では、血管異常(門脈体循環シャント)との結果でした。


まとめ
本症例は術後72時間も術後発作も認められず、その後も良好な経過を辿っています。
門脈体循環シャントは外科手術が成功すれば、症状もなく、普通の犬ちゃんと同じように長生きすることが可能となります。
今回の手術では、お腹を大きく開ける開腹手術ではなく、腹腔鏡を用いた低侵襲な手術にて実施しています。門脈体循環シャントをご検討されている場合は当院へご相談下さい。

Q&A
Q. どのような症状が見られますか?
A. 体が小さいなどの発育不良、嘔吐下痢などの消化器症状、発作などの神経症状が見られることがあります。
Q. どのように見つけますか?
A. 血液検査、レントゲン検査、超音波検査、CT検査などの検査を用いて診断します。確定診断には造影のCT検査が必要となります。
Q. どのような治療法がありますか?
A. 根治には基本的に外科治療が第一選択となります。しかし、外科手術が適応とならない場合には緩和療法として内科治療を実施する場合もあります。
Q. 予後はどれくらいになりますか?
A. 外科手術で根治が見込める場合には比較的予後は良好で、普通の子と同じぐらい長生きすることが出来ます。
その他の記事
-
膝蓋骨脱臼
膝蓋骨脱臼とは、子犬に最も多いとされる先天性疾患であり、その割合は7.2%にも及びます。特に小型犬種に多く発生し、大型犬と比較するとその発生リスクは12倍とも言われています…
6年前 -
犬や猫だけでなく、ヒトにも感染する”SFTS”について
SFTS(重症熱性血小板減少症候群)とは、マダニを媒介してヒトや動物に感染するウイルス性の人獣共通感染症です。2013年に初めて国内患者の発生が認められ、西日本を中心に発生…
4週間前
-
犬の脾臓腫瘍
犬の脾臓腫瘍は中・高齢で好発し、1/3~1/2が悪性とされています。腫瘍破裂や出血により劇症を呈することもあれば、症状が認められない場合も少なくありません。今回紹介…
3年前 -
胆嚢破裂を起こした胆嚢粘液嚢腫の犬
胆嚢粘液嚢腫は犬の代表的な緊急疾患の一つです。以前にも当院で胆嚢摘出術は数例行っておりますが、今回は胆嚢が合破裂し胆嚢内要物が腹腔内に播種した症例をご報告いたします。 …
3年前 -
犬の甲状腺機能低下症について | 元気がないや皮膚症状は甲状腺機能低下症の初期症状かも? ~症状編~
こちらの記事では甲状腺機能低下症の症例で認められやすい症状について解説していきます。 甲状腺ホルモンは全身的に作用するため、症状も様々なものが認められます。 …
9か月前 -
猫の乳腺腫瘍
猫の乳腺腫瘍は犬の乳腺腫瘍と比較して悪性度が高く、おおよそ80%が悪性の癌であると言われています。雌猫に発生する腫瘍のうち17%が乳腺腫瘍であり、比較的発生率の多い腫瘍で…
2年前 -
新しい「がん」の血液検査:血中ヌクレオソームの測定
獣医療の発展に伴いペットの長寿化は進んでいますが、その中でも死因の上位にあげられるのが悪性腫瘍、いわゆる「がん」です。特にワンちゃんの死因では「がん」が第1位に…
2年前 -
消化器科
『消化器疾患』吐出、嘔吐や下痢、食欲不振や体重減少などが認められたら消化器疾患を考えます。消化器とは、口、のど、食道、胃、小腸(十二指腸・空腸・回腸)、大腸、肛門まで続く消…
3年前 -
犬の瞬膜腺脱出(チェリーアイ)とは? | 実際の手術写真を使って解説
瞬膜腺とは内眼角側にあるT字型の軟骨を支えに存在しています。この瞬膜は眼球の物理的な保護、眼脂の除去、涙を眼球に広げてくれるなどの働きがあり、瞬膜の裏側に存在するのが瞬膜腺…
1年前 -
膝蓋骨脱臼の整復
膝蓋骨脱臼は小型犬に多い整形疾患です。膝蓋骨が大腿骨の滑車溝から外れてしまうことで膝関節伸展機構が正常に機能せず、膝をうまく伸ばせない状態になってしまいます。典型的な臨床…
3年前
