若い子に稀に見られる先天性門脈体循環シャントとは? │ 早期発見や実際の治療法について
先天性門脈体循環シャントは主に若齢の犬ちゃんや猫ちゃんで稀に認められる病気です。
この疾患は特異的な臨床症状を示さないこともあり、詳しい検査をしないと見つからないことが多いです。
今回の記事では、犬や猫の先天性門脈体循環シャントについて詳しく解説します。
特に若齢の新しいご家族を迎えた飼い主様は、ぜひ最後までお読みください。
📌目次
先天性門脈体循環シャントとは…?
先天性門脈体循環シャントとは、胎児の時の血管がうまく閉鎖しなかったことにより、二次的に発生する血管異常のことで、生まれつき血管に異常のある病気になります。
本来であれば、腸(消化管)から吸収された栄養や毒素は門脈という血管を経て肝臓に移動します。しかし、門脈体循環シャントの子では、門脈の途中で枝分かれした血管(シャント血管)ができてしまい、他の血管に栄養や毒素が流れ込んでしまい、これにより症状を引き起こしてしまいます。
無治療の場合では健康な子と比べて寿命が短くなってしまいますが、先天性門脈体循環シャントは外科治療で完治することが多く、完治した場合には健康な子と同様の生活をすることが可能となります。


よく見られる症状は?
シャント血管があると、以下のことにより、様々な症状が出る可能性があります。
①肝臓に栄養を送る血液が少なくなる
②肝臓で解毒されるはずの血液が解毒されずに全身に回る
軽度であれば症状はほとんど出ませんが、重度なものや肝機能低下が著しい場合には、以下のような症状が出る恐れがあります。
● 神経症状・・・ぐるぐる回る、壁に顔を押し当てる、発作など。
● 発育不良・・・肝臓に栄養が行かなくなることで成長が妨げられます。
● 尿路結石・・・肝臓で解毒されるはずの「アンモニア」が溜まることで、これを主体とした結石ができやすくなります。
● 嘔吐下痢などの消化器症状

必要な検査および診断は?
症状が出る前に発見されることが多く、例えば避妊去勢手術をする前の手術前検査や、健康診断の血液検査・レントゲン検査などをきっかけに偶発的に見つかることがあります。

血液検査
この疾患では、様々な異常が認められます。
肝酵素(肝障害の指標)の上昇
尿素窒素(アンモニアを解毒した老廃物)の低下
アルブミン(タンパク質)の低下
コレステロール(脂質)の低下
グルコース(血糖値)の低下
アンモニア(肝臓で解毒される成分)の上昇
総胆汁酸(肝臓で再利用される消化酵素)の上昇
血液凝固異常(止血異常) など
肝臓には生命維持のために重要な役割がたくさんあります。先天性門脈体循環シャントの子では、門脈から肝臓への血流が少なくなるので、肝臓が本来の機能を果たすことが出来なくなります。そのため、有毒なアンモニアの回収と分解、タンパク質の産生、脂質や糖分の貯蔵、総胆汁酸の再利用、血液凝固因子の産生などの肝機能が低下することで、上記のような様々な異常が認められます。
このような異常値が認められた場合、門脈体循環シャントが本当に疑わしいのか確認するために「食事負荷試験」という検査を実施します。この検査では、食後90分のアンモニアと総胆汁酸を測定し、絶食時よりも高くなっていないかを調べる検査になります。
食事をすると消化管に胆汁酸が分泌され、本来であれば食事から吸収されたアンモニアや胆汁酸は、消化管➡門脈➡肝臓という流れで肝臓に回収されます。しかし、シャント血管が存在すると、食事から吸収されたアンモニアや消化のために分泌された胆汁酸は肝臓を通らず、シャント血管を介して全身に流れてしまうため、これら2つの項目が異常な高値を示します。

レントゲン検査
シャント血管がある子では、門脈から肝臓へ流れる血流が少なくなることで肝臓がうまく育たなくなり、肝臓のサイズが小さくなっていることが一般的です。レントゲンを撮影することで肝臓の大きさを判断します。

超音波検査
肝臓内の門脈が細くなり、肝臓は小さくなっていることがあります。シャント血管が発達している場合は超音波検査にてシャント血管が発見されることもあります。また、アンモニアの血中濃度が高くなることで、膀胱内に尿酸アンモニウムという結石が出来ていることもしばしばあります。



CT検査
血液検査、レントゲン検査、超音波検査は基本的にはいずれも暫定診断です。これらの検査で門脈体循環シャントが疑わしい場合、確定診断のために造影CT検査を行います。造影にて門脈から余分な血管が分岐していれば門脈体循環シャントと診断されます。


治療法は?
根本治療は外科治療であり、内科治療は緩和目的で実施されています。

外科治療
CT検査の結果に基づき、シャント血管のタイプや形態を把握します。その後、手術を行いシャント血管を完全または部分閉塞します。(門脈圧や消化管の色調、血圧や心拍数などから、どちらにするかを決定します。)閉塞方法は様々で、以下の方法を状態に応じて使い分けます。
① 縫合糸による結紮
非吸収糸を用いてシャント血管を結紮します。結び方によっては完全結紮と部分結紮を変えることが出来ます。
② アメロイドコンストラクター設置
ドーナツ状の血管閉塞具。血管に装着することで水分を徐々に吸収し、中心の穴が狭くなっていき、緩やかに血管を閉塞させます。
③ セロファンバンディング
セロハンを血管周囲に巻き付け、炎症反応や線維化を起こすことにより血管を徐々に閉塞させます。
④ コイル塞栓術
血管内にカテーテルを挿入しコイルを血管内に詰めて血流を遮断します。開腹を行う必要がなく、侵襲性が低い手術法ですが、コイルが流れて他の血管に詰まるリスクがあります。


※術後、結紮後発作症候群(術後72時間以内に犬で5-18%、猫で8-22%の発症率が報告されています)や門脈圧亢進症がみられることがあり経過には注意が必要です。

内科治療
肝性脳症を呈している動物や、完全結紮が出来なかった動物などの維持療法として実施されます。
① 食事療法
蛋白質や必須脂肪酸などを調整した肝臓用療法食を与えます。
② サプリメント
アミノ酸やビタミンなどを含んだサプリメントは肝臓の健康を維持します。
③ ラクツロースや抗菌薬
消化管からのアンモニアの吸収を抑制します。ただし、抗菌薬は耐性菌を生じる可能性があり使用には注意が必要です。
④ 抗痙攣薬
肝性脳症に起因した発作が生じた場合には抗痙攣薬を使用することがあります。
⑤ その他臨床兆候に応じた治療
臨床兆候に応じて点滴や制吐薬、粘膜保護薬、抗血栓薬などを使用します。
まとめ
先天性門脈体循環シャントは稀な疾患ではありますが、若齢時の検査によって見つかる可能性のある疾患です。早期発見のためには、小さい時からでもきちんと検査をしておくことが大切になります。
また、定期的な健康チェックも早期発見には重要になってきます。
当院では先天性門脈体循環シャントの外科手術も実施しておりますので、ご家族が罹患している際はお気軽にご相談下さい。
実際の手術症例についてはこちらから
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
Q&A
Q. 先天性門脈体循環シャントのCT検査は実施していますか?
A. はい。当院ではCT検査を実施可能です。
Q. 先天性門脈体循環シャントの外科手術は対応していますか?
A. はい。当院では先天性門脈体循環シャントの外科手術にも対応しています。
その他の記事
-
肋間開胸術による犬の肺腫瘍切除
今回は他院にてレントゲン撮影をした際に肺腫瘍が見つかり、セカンドオピニオンとして当院を受診し、CT検査及び肺葉切除によって腫瘍を摘出した一例を紹介します。 a …
10か月前 -
犬アトピー性皮膚炎|治療の2本柱
今回は犬アトピー性皮膚炎の治療方法について詳しくお話していきます。 犬アトピー性皮膚炎の病態についてはこちらで解説しているので合わせてご覧ください。 =====…
8か月前
-
副腎腫瘍・副腎腺腫摘出
副腎腫瘍は当院で手術が可能な腫瘍です。この腫瘍はその特性上 ①腫瘍の分類 ②副腎皮質機能亢進症の有無 ③血管への浸潤や位置関係 …
2年前 -
発作重責・脳炎
犬によく見られる特発性髄膜脳脊髄炎の一種で、多因性の疾患であり、明確な原因は不明です。臨床症状は大脳病変の部位によって異なり、発作や虚弱、旋回運動、視覚障害などを呈し、最終…
6年前 -
尾状葉乳頭突起の肝葉切除(肝細胞癌)
犬の肝臓の腫瘍性疾患において一番多く発生する腫瘍は肝細胞癌です。日常の臨床的にもよく遭遇する腫瘍で、発生の形態によって孤立性、多発性、び慢性に分けられます。経過としては徐々…
1年前 -
食道バルーン拡張術にて治療した食道狭窄の猫の1例
食道狭窄とは食道内腔が異常に狭くなることで嚥下障害が生じる病態のことを言います。 主な原因としては、薬物や化学物質による化学的な粘膜傷害、過度な嘔吐や胃酸の逆流(逆流…
8か月前 -
両側に胸腔ドレーンを設置し救命した膿胸の猫
救急診療時間内にきた膿胸の猫の一例を紹介いたします。 症例 雑種猫 1歳 避妊メス 数日前から元気がなく今日になって呼吸が苦しそうとのことで来院されました。…
1年前 -
内視鏡 異物除去
内視鏡症例をご紹介いたします。 果物の種を飲み込んでしまったワンちゃんで内視鏡によって摘出を行いました。 異物、誤食の中で桃の種など果物の種は高確率に腸…
5年前 -
心タンポナーデ
心タンポナーデとは心膜腔(心臓の外側)に液体(心嚢水)が貯留し、心臓を圧迫することで心臓の動きが制限され、機能不全を起こした状態です。全身に血液を送ることが出来なくなり、…
2年前 -
犬の弁膜症:僧帽弁閉鎖不全症(MMVD)
犬の弁膜症:僧帽弁閉鎖不全症(MMVD) 僧帽弁閉鎖不全症(以下 MMVD)は犬の心臓病の代表的な疾患です。犬の心臓の構造は人と類似しており、2心房2心室で…
2年前



