ご予約はこちら
045-932-5151
2024年9月15日

猫の子宮蓄膿症は若い子でも発症する?原因と治療について。

「子宮蓄膿症」とは、避妊手術をしていない女の子の犬/猫ちゃんの子宮に細菌が感染し、膿が溜まってしまう病気です。

今回は猫の子宮蓄膿症について詳しく解説します。

  

============================================

【 発祥のメカニズム 】

猫の子宮蓄膿症は発情期での発症が多く、これには卵巣から分泌されるプロジェステロンが深く関係しています。

プロジェステロンとは、別名黄体ホルモンと呼ばれ、卵巣内に形成される黄体から分泌される性ホルモンです。

プロジェステロンの一番の役割は「妊娠維持」であり、

 ◎子宮内膜の増殖・・・着床のためにベッドをふかふかにする

 ◎子宮の運動低下、子宮頚管の収縮・・・着床した受精卵が出ていかないように動きを抑え、出口をふさぐ

 ◎子宮内の免疫を低下させる

 ◎乳腺の発達

といった妊娠に向けた変化を起こします。

この状態で子宮内に細菌が入り込んでしまった場合、「細菌が増えやすい環境が整っている」+「膿が外に出にくい」ため、細菌感染が進行し子宮蓄膿症となってしまうのです。

  

子宮蓄膿症には、1⃣開放型と2⃣閉鎖型の2つのタイプがあります。

1⃣開放型

外陰部から臭いのするあずき色の膿が出てくることで気づかれることが多いです。血便や血尿と間違えられることもあります。

2⃣閉鎖型

膿が外に出てこないタイプ。そのため気づかれずに進行してしまったり子宮が破裂してしまう可能性もあり、開放型と比べて危険性が高いです。

  

子宮蓄膿症になると、敗血症と呼ばれる状態に陥ることあります。細菌などの微生物の感染による全身性の激しい炎症反応で、早期に治療をしないと命を落とす危険性が高い病態です。

  

============================================

【 検査 】

飼い主様は、「食欲の低下」「ぐったりしている」「呼吸が速い」「吐いている」「お尻から臭い液体が出ている」といった主訴で来院されることが多く、先述の通り血便や血尿と間違われることもあります。

子宮蓄膿症の診断には、超音波検査が有用です。

  

  

超音波検査では子宮内膜の肥厚や子宮内の液体(膿)の貯留が確認でき、これにより子宮蓄膿症のおおよその診断がつきます。

また、外陰部からの分泌物を顕微鏡で見ることで細菌の感染を確認できます。

  

子宮蓄膿症の子の外陰部からの分泌物を顕微鏡で見た画像。
大量の細菌が確認できる。

  

============================================

【 治療 】

治療は、大きく1⃣内科治療2⃣外科治療に分かれます。

1⃣内科治療

細菌感染が原因ですので、抗生物質の投与を行います。しかし、内科治療では完治しなかったり再発を繰り返す場合が多く、子供が欲しい等の強い要望がない限りはお勧めしません。

  

2⃣外科治療

手術で子宮と卵巣を摘出します。この方法が最も確実であり、再発の可能性もほぼありません。

  

術中写真。右側子宮角(向かって左)が肥大している。
摘出された子宮(と卵巣)。

  

こちらの写真は9ヵ月齢猫の子宮蓄膿症の手術写真です。犬と違い、猫では若齢での発症も多く、本症例のように1歳未満で発症することもあります。

  

============================================

  

子宮蓄膿症は非特異的な症状が多く、気付かないうちに進行し短期間で命を落としてしまう危険性がある病気です。

避妊手術を完全に推奨するわけではありませんが、避妊手術をすることで防げる病気もあることを知っていただければと思います。

当院での避妊手術についてはこちらで詳しく解説しておりますので是非ご覧ください。

 

その他の記事

  • 犬・猫の混合ワクチン

    コロナの影響によって”ワクチン”という言葉をよく耳にするかと思います。わんちゃん、ねこちゃんと一緒にいると、はがきなどによって混合ワクチンのお知らせが届くと思います…

    2年前
  • 熱中症

    熱中症とは? 熱中症は高温多湿環境下や過度な運動によって、体内に熱が…

    2週間前
  • 犬の脾臓腫瘍

    犬の脾臓腫瘍は中・高齢で好発し、1/3~1/2が悪性とされています。腫瘍破裂や出血により劇症を呈することもあれば、症状が認められない場合も少なくありません。今回紹介…

    2年前
  • 犬と猫の予防接種の重要性について

    愛犬や愛猫の健康を守るために、予防接種はとても大切です。 予防接種は、犬や猫の健康を守るだけでなく人にも影響を及ぼす感染症を防ぐ重要な役割を果たします。 …

    5か月前
  • 犬の弁膜症:僧帽弁閉鎖不全症(MMVD)

    犬の弁膜症:僧帽弁閉鎖不全症(MMVD)   僧帽弁閉鎖不全症(以下 MMVD)は犬の心臓病の代表的な疾患です。犬の心臓の構造は人と類似しており、2心房2心室で…

    2年前
  • 気管支鏡を実施した猫の症例

     呼吸器疾患に対する検査にはX線検査やCT検査等の画像診断に加えて、血液検査(動脈血液ガス分析)や気管支鏡検査、肺生検(病理検査)などが挙げられます。消化管や肝臓などの他の…

    3年前
  • ワクチンによるアナフィラキシーショック

    毎年たくさんのワンちゃんネコちゃんが予防接種のために来院しています。 病原体の病原性を弱めたり無毒化したものをワクチンとして接種することで、 恐ろしい感染症に対…

    12か月前
  • 「目が見えていないかも…」考えられる原因とは?

    犬は人よりも年を取るスピードが速く、7歳を超えるとシニア期に入ります。 年を取れば取るほど病気も増えていきますが、目もその一つです。 「最近物によくぶつかるよう…

    1年前
  • 両側に胸腔ドレーンを設置し救命した膿胸の猫

    救急診療時間内にきた膿胸の猫の一例を紹介いたします。   症例 雑種猫 1歳 避妊メス 数日前から元気がなく今日になって呼吸が苦しそうとのことで来院されました。…

    1年前
  • 内視鏡で誤食した釣り針を摘出

    釣り針を食べてしまったとの事で来院した7カ月のワンちゃん。 X線検査を実施すると胃の中に釣り針が・・・。 釣り針のような尖ったものは…

    3年前