尾状葉乳頭突起の肝葉切除(肝細胞癌)
犬の肝臓の腫瘍性疾患において一番多く発生する腫瘍は肝細胞癌です。日常の臨床的にもよく遭遇する腫瘍で、発生の形態によって孤立性、多発性、び慢性に分けられます。経過としては徐々に大きくなりものによっては腫瘍が破裂・出血し出血ショックを生じたり、巨大化することにより周囲の臓器を圧迫し機能低下を生じることもあります。

本症例では、以前から肝酵素の上昇が認められ、腹部超音波検査にて肝臓腫瘤が徐々に拡大傾向を示したため外科手術により摘出した肝細胞癌の一例を紹介します。

本症例は既往歴に胆嚢粘液嚢腫や蛋白漏出性腸症が認められたポメラニアンです。一般状態は良好でしたが徐々に腫瘤が拡大傾向になり、同様に肝酵素は上昇傾向にありました。腫瘍の部位の特定と由来を検査するためにCT検査及びFNAを行いました。



CT検査においては造影剤が動脈層で腫瘍に入り込み、平衡層で抜けていく wash out像が認められたため、当初は神経分泌系の腫瘍を疑いました。FNAでは残念ながら有意な診断は得られませんでした。現時点で無症状ではありますが、今後さらに腫大が続けば腫瘍自体が自壊し、腹腔内出血のリスクになること、また腫瘍の起源がわからなければ今後の治療方針が定まらないことから外科的摘出をご提案し、飼い主様の承諾を得ました。


術式
・開腹時には軽度の癒着が認められたためモノポーラにて癒着を丁寧に剥離
・尾状葉を包んでいる小網を同様に剥がし病変ぶ尾状葉乳頭突起を露出させる
・尾状葉に血液供給しているグリソン鞘を一括でヘモクリップを用いて遮断
・肝臓の実質をサクションと用手でフラクション法にて破砕し肝静脈を露出
・ヘモクリップにて遮断し腫瘤を摘出
術後経過は順調。3日後には無事退院いたしました。 摘出腫瘤の病理学的検査は肝細胞癌でした。

肝臓の腫瘍は場合によっては腫大化し、腹腔内に出血を呈することも少なくありません。本症例は当初の診断予想とは結果が異なり肝細胞癌でした。他の肝葉にも結節が認められるので注意深い観察が必要ですが、腫瘍自壊による出血などのリスクは取り除かれました。
Link:人医療の肝細胞癌
その他の記事
-
循環器科
循環器疾患とは血液を全身に循環させる臓器(心臓や血管など)が正常に働かなくなる疾患のことです。代表的な疾患としては、心臓病(弁膜症、心筋症)、高血圧、脳血管障害などがありま…
2年前 -
ノミ・ダニ予防
ノミやダニと聞くと、痒いというイメージを持たれる方が多いと思います。しかし、ノミやダニは痒みを引き起こすだけでなく、わんちゃんや猫ちゃん、さらには人にも様々な病気を引き起こ…
2年前
-
犬の股関節脱臼の外科的整復(大腿骨頭切除)
犬の起こりやすい外科疾患の中に股関節脱臼というものがあります。股関節脱臼は全ての外傷性脱臼の中でも最も発生が多く、全ての年齢に起こり、犬種や性差に関係なく発生します。主…
6か月前 -
鼻梁にできた多小葉性骨腫瘍
多小葉性骨腫瘍は犬の頭蓋骨にできることの多い骨の腫瘍です。局所で拡大し脳を圧迫することで神経症状を示すことも少なくありません。今回は鼻梁部(鼻と頭蓋骨の間)にできた多小葉性…
2年前 -
猫の心筋症:肥大型心筋症(HCM)
心筋症には4つの代表的な分類が存在します。①肥大型心筋症(HCM)、②拘束型心筋症(RCM)、③拡張型心筋症(DCM)、④不整脈源生右室心筋症(ARVC)の4つに分類されて…
2年前 -
2024年の春の健康診断まとめ
今年も春の予防シーズンが落ち着き、夏本番が近づいてきていますね。今年は早い時期から猛暑が続いているので、熱中症には十分気をつけて下さい。 ここからは、今年度の4~6月…
1年前 -
猫の尿管結石の症例
猫の尿管結石は比較的若齢でも発生する泌尿器系の疾患です。腎臓と膀胱をつなぐ尿管に結石が閉塞することで、腎臓で産生された尿が膀胱に流れず、腎臓に貯まってしまいます(水腎症)…
3年前 -
腹腔鏡下肝生検
ワンちゃんやネコちゃんでも健康診断で肝臓の数値が高い子を多くみかけます。一般的には症状がなく、元気そうにみえる子がほとんどですが、重病が隠れていることもあります。 …
1年前 -
整形外科
整形疾患というと骨折が思い浮かぶと思いますが、その他にもワンちゃんネコちゃんで起こりやすい整形疾患があります。このページでは代表的な整形疾患に関してご紹介していきます。 …
2年前 -
猫の盲腸腺癌
猫の体重減少には様々な原因があります。甲状腺機能亢進症や慢性腎不全、糖尿病や腫瘍などが代表的な疾患です。特に、このような病気は急激に体調に変化をもたらすわけではなく、ゆっく…
3年前