ご予約はこちら
045-932-5151
2023年11月30日

角膜疾患(潰瘍性角膜炎)

角膜疾患とは、角膜、いわゆる黒目の部分に起こる疾患を指します。角膜疾患では「目を開けずらそう」「涙や目ヤニの量が多い」「まぶしそうにしている」という症状がよく見られます。

 

角膜疾患は炎症性と非炎症性に分類されますが、動物さんで特に多いのが炎症性疾患の中の潰瘍性角膜炎です。今回はこの潰瘍性角膜炎(角膜潰瘍)について詳しくお話します。

 

【角膜の構造と潰瘍の分類】

角膜は、表面側から

  ◇角膜上皮…5~7層の細胞で構成。ターンオーバーは約1週間。

  ◇角膜実質…コラーゲンが主体。

  ◇デスメ層

  ◇角膜内皮…1層の細胞で構成。角膜内皮細胞の数は加齢等により減少するが、再生はしない。

と大きく分かれており、どの深さまで潰瘍が達しているかによってグレード分類がされています。

          角膜の断面図

潰瘍のグレード分類

・グレード1「表層性」:角膜上皮の表層が微細に欠損

・グレード2「表層性」:角膜上皮層が欠損

・グレード3「深層性(実質性)」:角膜実質まで欠損

・グレード4「デスメ膜瘤」:デスメ層が露呈。眼圧によってデスメ膜が突出した状態をデスメ膜瘤と呼ぶ。

・グレード5「角膜突孔」:角膜内皮まで欠損

「トリミングの後に目が開かなくなった」「散歩で草むらに顔を突っ込んだ後から目をしばしばしている」といった主訴で来院され、グレードは1や2が多いです。

 

【潰瘍の原因】

潰瘍性角膜炎を起こす原因としては、

 ①角膜上皮の喪失が過度になっている

 ②角膜の保護・再生力が低下している

の2つがあり、それぞれの要因として、

 ①眼瞼内反、睫毛異常(特に異所性睫毛)、シャンプーやドライヤーの熱、物理的要因、アルカリ薬傷、

  ステロイドなどの薬剤や点眼液中の防腐剤 など

 ②ドライアイ、兎眼(短頭種にしばしばみられる)、顔面神経麻痺、糖尿病等の全身性疾患 など

が挙げられます。

先述の通り、角膜上皮のターンオーバーは約1週間であり、つまり単純な角膜潰瘍であれば1週間で治ることを意味しています。

1週間以上治らない角膜潰瘍は、基礎疾患として他の病気が隠れていると考えられ、全身のスクリーニングが必要になることがあります。

 

【検査と治療】

潰瘍性角膜炎が疑われる場合、フルオレセイン染色を実施します。フルオレセインは黄色い蛍光色の染色液で、潰瘍部分を染めてくれるものです。

フルオレセイン染色陽性の猫。
中央部分が潰瘍になっており、フルオレセインに染まっている。

フルオレセイン染色で潰瘍が確認されたら、治療開始です。

 ・抗生物質…二次感染予防

 ・ヒアルロン酸…角膜保護

潰瘍の深さにもよりますが、グレード1,2であれば上記の2つの点眼をしていただき、1週間後に完治していれば治療終了です。

 

【最後に】

目は、飼い主様と動物さんがコミュニケーションを取るための大切な器官です。

適切な治療を早期に行わないと視力を失ってしまうことにもなりかねません。少しでも変だと感じられたら、早めに病院に行かれることをお勧めします。

 

 

⇩こちらの記事もぜひご覧ください⇩

「目が見えていないかも…」考えられる原因とは?

その他の記事

  • 炎症性腸疾患<IBD>、慢性腸症

    炎症性腸疾患<inflammation Bowel disease:IBD>
    慢性腸症<chronic entropathy:CE> 小腸または大腸の粘膜固…

    6年前
  • 犬の口腔内無顆粒性悪性黒色腫

    犬の口腔内腫瘍には悪性黒色腫、扁平上皮癌、線維肉腫など様々な種類の腫瘍が発生することが報告されています。この中でも悪性黒色腫は口腔内腫瘍の中で最も発生率の高い腫瘍とされ、半…

    1年前
  • 犬の尿石症について ~症状や治療法について説明します~ 

    尿石症とは?

    尿石症とは、腎臓や尿管、膀胱、尿道などの尿路のいずれかの部位に結石ができる病気です。結石が存在する部位によって、…

    5か月前
  • 腹腔鏡下肝生検

     ワンちゃんやネコちゃんでも健康診断で肝臓の数値が高い子を多くみかけます。一般的には症状がなく、元気そうにみえる子がほとんどですが、重病が隠れていることもあります。 …

    2年前
  • うっ血性心不全/心原性肺水腫(犬)

      心源性肺水腫とは、僧帽弁閉鎖不全症や肥大型心筋症などの心臓病によって心臓内の血液の鬱滞が悪化する事により、肺に血液中の水が押し出され呼吸困難を生じる二次的な病態で…

    6年前
  • 2024年の春の健康診断まとめ

    今年も春の予防シーズンが落ち着き、夏本番が近づいてきていますね。今年は早い時期から猛暑が続いているので、熱中症には十分気をつけて下さい。 ここからは、今年度の4~6月…

    1年前
  • 循環器科

    循環器疾患とは血液を全身に循環させる臓器(心臓や血管など)が正常に働かなくなる疾患のことです。代表的な疾患としては、心臓病(弁膜症、心筋症)、高血圧、脳血管障害などがありま…

    2年前
  • 低侵襲手術(内視鏡を用いた膀胱結石の摘出)

     膀胱結石は犬、猫ともに発生頻度の多い泌尿器疾患です。体質により再発を繰り返すことが多いですが、手術時に細かな結石を取り残してしまうことによって術後早期に膀胱内に結石が確認…

    3年前
  • 尿管結石摘出術

      尿管結石は文字通り腎臓と膀胱をつなぐ『尿管』に結石が詰まってしまい、二次的に腎臓に損傷が生じる疾患です。片方の尿管に閉塞しただけでは主だった症状は認められませんが…

    2年前
  • 胆泥症・胆嚢粘液嚢腫

     胆嚢とは、肝臓で作られた胆汁の貯留を行う臓器で、方形葉と内側右葉に埋まるように位置しています。胆嚢から発生する疾患には胆石、胆泥、胆嚢粘液嚢腫および胆嚢炎などがあります。…

    3年前