フィラリア予防
毎年春になるとフィラリア予防という言葉を耳にすると思います。なんとなくわんちゃんに害がありそうだから、健康診断のついでにやっておこうかな?本当にフィラリアの検査って必要なの?毎月お薬飲まなきゃいけないの?など様々な疑問を持つ方もいらっしゃると思います。
今回はそんなフィラリアについてご説明致します。
<フィラリア症とは?>
フィラリア症とは犬糸状虫症とも呼ばれ、犬糸状虫(Dirofilaria immitis)と呼ばれる寄生虫(=フィラリア)が原因で引き起こされる病気です。主に蚊によって媒介され、食肉目(犬科、イタチ科など)などの動物を宿主として寄生します。このフィラリアは最終的にわんちゃんの心臓や肺血管に寄生して症状を引き起こす非常に恐ろしい病気です。
フィラリア症は熱帯、亜熱帯、温帯に多く、感染自体は世界中で認められます。日本でも全国的に感染が報告されていて、発生率自体は低下しているものの、依然発生は認められています。
<どう感染するの?>
フィラリア症は、感染動物と蚊によって生活環というものが維持されています。(下図)
- 感染しているわんちゃんの体内に存在するL1(第1期幼虫=ミクロフィラリア)が蚊の吸血によって、蚊に取り込まれます。
- 蚊の体内で2回の脱皮をして、L1(第1期幼虫)からL3(第3期幼虫)に成長します。
- 感染した蚊が他のわんちゃんを吸血することで、蚊の体内からわんちゃんの体内にL3が皮下組織に侵入します。
- L3は約2~10日程度で1回脱皮してL4(第4期幼虫)となります。L4は約1~2ヶ月程度で、皮下の筋肉や脂肪を移動しながら、さらに1回の脱皮をして、L5(第5期幼虫)に成長します。
- L5は血液中に侵入して移動することで、肺や心臓に到達し、L6と呼ばれる成虫になり、大量のL1を産出します。

地域によって異なりますが、蚊はだいたい3月から11月頃まで発生するとされています(下図参照)。
また、蚊の体内で成長するミクロフィラリアは、環境気温に依存しており、平均気温が14℃未満では成熟できないとされています。

<発症してしまうとどうなるの?>
症状の軽い場合は乾いた咳が出る程度ですが、病態の進行に伴い、運動時の呼吸困難や疲れやすさ、食欲低下などが見られ、お腹の張り(腹水や胸水の貯留)、四肢浮腫などが認められることがあります。
未成熟虫が肺の血管や心臓に寄生してしまうと、死んだ虫体による塞栓症や肺高血圧症といった病態を引き起こすことや、突然の虚脱や血色素尿を示すような大静脈症候群といった非常に重篤な病態を引き起こすこともあります。
<治療はどうなるの?>
フィラリア症の治療としては内科治療と外科治療があります。治療の目的はどちらも、わんちゃんの症状を改善しながら、あらゆるステージの犬糸状虫を駆除することとなります。
・内科治療(駆除療法):駆除薬(メラルソミン)を用いることで、フィラリアを駆除する方法です。しかし、この方法では、死んでしまった虫体が肺の血管に詰まることで塞栓症を引き起こし、状態が悪化してしまう可能性もあります。また、最悪の場合、死に至ってしまうこともあります。
※2014年以降、国内ではフィラリア駆虫薬の販売が中止されていています。また、用いている駆除薬は予防薬として用いている駆虫薬とは異なります。
・外科治療(摘出術):X線や超音波検査ガイド下にて、金属の鉗子(アリゲーター鉗子)を用いて、心臓や肺血管に寄生している成虫を摘出する方法になります。
フィラリア症は発症してしまうと治療は難しく、最悪の場合死に至ってしまうほどの非常に恐ろしい病気となります。しかし、きちんと予防してあげることで、発症する可能性は限りなく少なくできる病気でもあります。そのため、毎年の検査、毎月の予防がとても重要となります。
<フィラリア検査>
フィラリア検査には、血中のミクロフィラリアを検出するミクロフィラリア検査、専用の検査キットを用いる抗原検査などがあります。
・ミクロフィラリア検査:末梢血中のミクロフィラリアを検出する方法です。顕微鏡を用いて血液中にミクロフィラリアがいないかを見る検査になります。
・抗原検査:専用のキットに数滴の血液を垂らすことで、血液中に含まれるフィラリア成虫に特有の抗原を検出します。

<なんで予防の前に検査をするの?>
フィラリアの予防薬は主にL3とL4の幼虫に効果を示しますが、L1やL2に対しても効果を示します。もし、検査を行わずに体内に大量のL1がいる状態で予防薬を投与してしまった場合、大量のL1の死骸が発生することとなります。この死骸から発生される毒素をわんちゃんが体内で吸収することで体調を崩してしまったり、ショック症状を示してしまうことがあります。また、お薬の飲み忘れなどですでに成虫に成長してしまっている場合もあり、飲んでいた予防薬がきちんと効いていないこともあります。
そのため、まずは検査により体内に成虫がいないことを確認してから予防薬を投与してあげることが大切となります。
<予防薬>
わんちゃんの予防薬には”ノミ・ダニ・フィラリア”が一緒に予防できるオールインワンのものや、フィラリア予防のみのものなどがあります。また、お薬のタイプにも、錠剤タイプやチュアブルタイプ、スポットタイプなど様々な種類があります。
獣医師と相談して、わんちゃんに合ったお薬をお選びください。
※副作用として、ぐったりしたり、吐いたり、顔がはれたりすることがあります。


<おわりに>
罹ってしまうと大変な病気ですが、きちんと予防してあげれば発症のリスクはほとんどなくなります。
大切なご家族のためにも、期間を守ってきちんと予防してあげましょう。
こちらも併せてご覧ください。
その他の記事
-
肥満細胞腫
肥満細胞腫は、犬の皮膚腫瘍のうち20%前後を占めるため、犬の腫瘍では遭遇することの多い疾患にあたります。主にしこりの付近のリンパ節、続いて肝臓、脾臓へ転移することも多いため…
3年前 -
尿石症
尿石症とは、尿路のいずれかの部位で、尿中の溶解性の低い晶質から結石形成に至り、これが停留し成長することによって尿路の炎症・頻尿・乏尿・閉塞などの徴候を引き起こす疾患です。そ…
5年前
-
慢性腸症
慢性腸症の定義 『対症療法に抵抗性または再発性で3週間以上続く慢性の消化器症状を呈し、一般的な血液検査や画像検査で原因の特定には至らない、原因不明…
1年前 -
猫の子宮蓄膿症は若い子でも発症する?原因と治療について。
「子宮蓄膿症」とは、避妊手術をしていない女の子の犬/猫ちゃんの子宮に細菌が感染し、膿が溜まってしまう病気です。 今回は猫の子宮蓄膿症について詳しく解説します。 …
7か月前 -
両側に胸腔ドレーンを設置し救命した膿胸の猫
救急診療時間内にきた膿胸の猫の一例を紹介いたします。 症例 雑種猫 1歳 避妊メス 数日前から元気がなく今日になって呼吸が苦しそうとのことで来院されました。…
9か月前 -
心室中隔欠損症(VSD)
心臓は、様々な臓器に酸素を供給するために血液を送り出す器官です。 全身に酸素を供給した血液(=酸素が少ない血液。青い部分)を取り込んで、肺で酸素を取り込んだ血液(…
1年前 -
猫の尿管結石の症例
猫の尿管結石は比較的若齢でも発生する泌尿器系の疾患です。腎臓と膀胱をつなぐ尿管に結石が閉塞することで、腎臓で産生された尿が膀胱に流れず、腎臓に貯まってしまいます(水腎症)…
3年前 -
先天性門脈体循環シャント
先天性門脈体循環シャントは生まれつき血管に異常のある病気です。なんとなく元気がなかったり、成長が悪かったりと特異的な臨床徴候を出さないこともあり、血液検査をしないとわから…
1年前 -
犬の外傷性股関節脱臼
犬の起こりやすい外科疾患の中に股関節脱臼というものがあります。股関節脱臼は全ての外傷性脱臼の中でも最も発生が多く、全ての年齢に起こり、犬種や性差に関係なく発生します。主に…
6か月前 -
整形外科
整形疾患というと骨折が思い浮かぶと思いますが、その他にもワンちゃんネコちゃんで起こりやすい整形疾患があります。このページでは代表的な整形疾患に関してご紹介していきます。 …
2年前