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2023年9月21日

”麻酔前検査”をお勧めしています

手術をするにあたって、人の場合と同様に犬ちゃん猫ちゃんにも全身麻酔をかける必要があります。麻酔前検査では、この全身麻酔が安全にかけられるかどうかを評価するための検査となります。

手術によるリスクはもちろんありますが、麻酔をかけること自体にもリスクは存在します。そのため、全身麻酔によるリスクを可能な限り減らすために麻酔前検査は必要不可欠なものになりなるのです。

 

【麻酔によるリスク評価とは?】

麻酔によるリスクに関しては、まず麻酔前検査によって得られた情報をもとに、ASA(アメリカ麻酔下学会)分類と言われる麻酔のリスク分類を行います。ASA分類では大きく5つのクラスに分かれていて、重症度によって死亡率が大きく変わってきます。

上記でも述べた通り、全身麻酔をかけることによって亡くなってしまうリスクというものは存在します。麻酔による死亡率は約0.5~1%程度と報告されていて、決して0%ではありません。また、このASA分類のクラスが上がるにつれて麻酔による死亡率も上昇します。

したがって、この評価に基づいて分類することで、発生する可能性のあるリスクを事前に知ることができ、不測の事態に陥らないよう事前に準備をすることが可能となるのです。

※ASA分類や麻酔に関してはこちらの麻酔科の記事をご覧ください。

 

【麻酔前検査ではどんなことをするの?】

麻酔前検査といっても各病院によって検査する項目が異なってきますが、当院では犬ちゃん・猫ちゃんでそれぞれ異なった検査をお勧めしています。

犬ちゃんでは、血液検査、血液凝固能検査、胸部レントゲン検査、心電図検査の4つの検査。

猫ちゃんでは、血液検査、血液凝固能検査、胸部レントゲン検査、簡易超音波検査の4つの検査を推奨しています。

※検査項目は推奨する全ての項目を確認することをお勧めしますが、費用面などの心配がある場合には項目を絞ることも可能ですので、獣医師と相談して決定してください。

 

 

【それぞれどんな検査?】

1.血液検査(全血球計算/血液化学的検査)

血液検査には、CBC(全血球計算)検査と血液化学検査と言われる2つの検査項目があります。

CBC(全血球計算)検査:主に赤血球、白血球、血小板の3つの血球数を検査しています。それぞれ、赤血球なら貧血がないかどうか、白血球では体内で炎症が起こっていないかや、腫瘍が存在しないか、血小板では血を固めるために必要な血小板数が十分に存在するのかなどの検査をしています。

 

血液化学検査:内臓系の検査になります。腎臓、肝臓、胆嚢などの内臓機能に異常がないかどうか、電解質などの体のミネラルバランスが崩れていないかなどを検査するものとなります。

 

2.血液凝固能検査:出血をした場合にどの程度の時間で血が止まるのかの検査

検査項目には、APTT、PT、Fib(フィブリノーゲン)の3つの検査項目があります。

APTT:凝固に関する経路の内因系因子と共通系因子と呼ばれる因子について検査しているもので、内出血がどの程度の時間で止まってくれるかのかを測定しています。

PT:凝固に関する経路の外因系因子と共通系因子と呼ばれる因子について検査しているもので、微細血管などから出血した場合に、どの程度の時間で止まってくれるのかを測定しています。

Fib:フィブリノーゲンと呼ばれる、血の塊の最終産物を検査しているものになります。

 

3.胸部レントゲン検査:呼吸器・心臓・肺に異常がないか

胸部レントゲン検査では 主に、咽喉頭部、気管、肺、心臓などといった呼吸器・循環器の評価を実施しています。これらの臓器や器官に構造的・形態的な異常がないか、体の中に明らかな腫瘤性病変や異常な構造物がないかなどの評価をするための検査となります。

もし、呼吸器系に異常が認められるのであれば気管挿管後に咳が出てしまったり、循環器系に異常が出るのであれば使用する麻酔薬を変更する必要が出てくるため注意が必要となります。

 

4.心電図検査:不整脈がないか

こちらの検査は、心臓の電気的な検査になります。心電図では、主にP波、QRS波、T波と言われる3つの波形を観察します。P波は心臓の右心房から発生する電気刺激によって発生します。この電気刺激が心房から心室へ伝わることで、QRS波が発生し心臓を収縮させます。続いてT波が出ることで心臓がもとも状態に戻ります。もし、不整脈など心臓に異常がある場合には、これらの波形自体が崩れたり、波形のリズムが崩れてくることがあります。

麻酔薬の中には心臓に負荷をかけることによって、作用を起こす薬もあるため、不整脈など心疾患を患っている場合には麻酔薬にも注意が必要となります。

 

5.簡易超音波検査:心肥大や猫コロナウイルスのリスク評価となります

簡易超音波検査では主に2つの検査を実施させていただいています。

心肥大の評価:猫ちゃんでは心雑音が聴取できない場合でも心臓病を患っている可能性があります。猫ちゃんでは心筋壁が厚くなる肥大型心筋症と言われるものや、収縮が不十分になる拡張型心筋症などの心疾患を有している場合があります。

心疾患を患っている場合では、使用する麻酔薬の種類や麻酔管理が異なってくるため、事前の評価が必要となります。

腹腔内リンパ節および腎臓の評価:猫ちゃんの病気の中で”猫伝染性腹膜炎(FIP)”という疾患があります。FIPに罹患してしまった場合は、無処置で過ごした場合、致命的になってしまい、新薬で治療を使用した場合には莫大な費用と長期間の内科治療が必要になってしまう恐ろしい病気があります。子猫では、免疫が完全に確立されていないためか成猫と比較してこの疾患に罹るリスクが高くなっております。FIPには診断ガイドラインが出されていますが、診断するためには様々な検査を組み合わせて実施する必要があり、診断するためには非常に煩雑になってしまいます。

そのため、猫伝染性腹膜炎の診断ガイドラインの一つである”腹部超音波検査”を実施することで、事前に猫伝染性腹膜炎に対するリスク評価をさせていただいております。腹部超音波検査では、リスク評価として有効となっている、腹部リンパ節の腫脹の有無、腎臓および腸の形状の変化などの確認をさせていただき、事前にFIPに罹患するリスクが高いかどうかの評価をさせていただいております。

  

【猫コロナウイルス感染症とは?】

猫コロナウイルスには、猫腸コロナウイルスと猫伝染性腹膜炎ウイルスと呼ばれるものがあります。基本的には、感染している猫ちゃんの糞便や唾液中に含まれるウイルスに接触することで感染が成立します。猫コロナウイルスでは、症状がない場合や一過性の軽度な下痢を示す場合が多く、軽症なことがほとんどです。しかし、猫伝染性腹膜炎ウイルスでは、播種性の肉芽腫疾患を示し、進行性で致死的な全身性の炎症疾患を引き起こすため非常に危険です。猫伝染性腹膜炎ウイルスには、現在期待される新薬が使用されてきていますが、決定的な治療法といったものはなく、一般的に予後不良とされています。また、この新薬を使用していく場合は~カ月といった長い年月の内科療法が必要となることに加え、費用面の負担も出てきます。

実臨床では、この2つを明確に区別することは困難であり、実際に診断していくとなると侵襲的な処置が必要になってきます。

 

※基本的には上記で説明した項目を麻酔前検査として実施させていただいていますが、手術内容や検査内容に異常値が出る場合などは追加で検査をさせていただく場合がありますのでご了承下さい。

 

任意検査

1.FIV/FeLV感染症(院内)

この検査では、スナップ・FIV/FeLVコンボという検査キットを用いて検査いたします。このキットでは、FIV(猫免疫不全ウイルス)における特異抗体およびFeLV(猫白血病ウイルス)における抗原を検出することが可能で、猫ちゃんがこの2つの感染症に罹っていないかどうかの簡易検査になります。

 

【それぞれの感染症はどんなもの?】

FIV(猫免疫不全ウイルス)感染症:主に猫ちゃん同士の咬傷によって感染してしまいます。この感染症には、急性期・無症候性キャリアー期・持続性全身性リンパ節症期・エイズ関連症候群期・AIDs期と呼ばれる5つの病期が存在します。AIDs期とされる末期の状態まで進行してしまうと、余命数ヶ月ほどになってしまうとも報告されています。脳に異常をきたすことによって起こる、神経徴候としての異常行動が最も多く見られます。一般的に治療法はなく、感染予防が重要とされています。

 

FeLV(猫白血病ウイルス)感染症:感染している猫ちゃんの唾液や尿中に存在するウイルスが感染源となり、他の猫ちゃんに感染してしまいます。大人の猫ちゃんでは、無症候のこともありますが、幼い猫ちゃんでは、免疫系が不十分であるため、感染状態になりやすくなります。造血器腫瘍、免疫抑制、貧血といったFeLVに関連した免疫不全症、重度の白血球減少症などを発症してしまうことがあります。こちらの感染症も予防が大切となってきます。

  

2.猫コロナウイルス感染症(外注)

猫コロナウイルスに対する抗体価を測定することで、猫ちゃんがコロナウイルスに感染している可能性があるかどうかを確認する検査になります。こちらの検査は外の検査会社に依頼をするため、検査結果が出るまで1週間程度のお時間をいただく場合がございます。

※抗体価についての説明はこちらの混合ワクチンで説明していますので併せてご参照ください

 

【おわりに】

麻酔前検査とは、事前に全身状態を把握し、可能な限りリスクを抑えて手術を実施するためには必要不可欠なものとなります。そのため、手術をお考えの際は、麻酔前検査を実施されることを強くお勧めいたします。

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