うっ血性心不全/心原性肺水腫(犬)
心源性肺水腫とは、僧帽弁閉鎖不全症や肥大型心筋症などの心臓病によって心臓内の血液の鬱滞が悪化する事により、肺に血液中の水が押し出され呼吸困難を生じる二次的な病態です。緊急の状態で来院されることが多いため、心臓や全身循環の評価を行い治療に入ります。当院では人医療でも使用されてるNohria-stevesonの分類に基づき、うっ血と全身循環の評価を行っております。
◇Nohria–stevenson 分類

上記は人の慢性心不全のガイドラインに記載されている表になります。これに基づき Profileを決定し治療方針を決定します。
症例1(Profile C wet&cold の場合)
呼吸がおかしい、突然倒れることがある、咳が止まらないとの主訴で来院。
肺のエコー検査にて、B-lineを確認しました。酸素吸入下での血液検査、胸部レントゲン、心エコー図検査により心原性肺水腫と診断しました。
心不全の評価としてNohria-stevensionの分類を用い、Profile C (wet & cold)と判断し治療をスタートしました。Profile Cの病態では鬱血の初見と低灌流の初見が混在しているため、単純な利尿剤のみの治療ではかえって病態を悪化させてしまいます。そのためメインは心収縮力の増強+循環改善になります。その上で灌流量の改善が認められたら次に鬱血の管理として利尿剤や血管拡張薬の使用を検討していきます。
本症例ではアドレナリン作動薬(ドパミン、ドブタミン)とPDEⅢ阻害薬(ベトメディン)を使用し、循環動態の改善を図りその後血管拡張薬(ハンプ注)や利尿剤(フロセミド、スピロノラクトン)を使用して鬱血の治療を行いました。呼吸状態も徐々に改善していき咳も認められなくなりました。
治療負荷前



治療負荷後



次の日には肺野の改善が認められ、心拡大および心機能にも改善が認められました。内服薬にもスムーズに移行することができたため、3日程で退院いたしました。
症例2(Profile B wet&warmの場合)
トリミングの後から呼吸が荒く吐いたとの主訴で来院。
胸部レントゲンにて肺野の間質パターンと心臓の拡大および少量の胸水貯留を認めました。こちらも酸素吸入下で血液検査、心エコー検査を行い、心原性肺水腫と診断しました。この症例は誤嚥性肺炎も併発していための併せて治療しました。
Nohria-stevensionの分類では、Profile B (wet & warm)と判断し治療をスタートしました。Profile Bでは低灌流の初見はなく鬱血の初見のみが認められます。そのため治療は心臓の鬱血をいかに改善するかに絞れます。
本症例では、PDEⅢ阻害剤(ベトメディン)と血管拡張薬(ハンプ注)、利尿剤(トラセミド、スピロノラクトン)を組み合わせて使用しました。
治療負荷前


治療負荷後


症例2も治療反応は良好で速やかに肺水腫の改善と肺炎所見の改善が認められました。内服薬への移行もスムーズに行う事ができ、3日ほどで退院することが出来ました。
ご紹介した2症例はともに治療反応が良く退院までさほど時間はかかりませんでした。しかし、特にProfile Cの心不全は低還流に伴う腎障害を併発している事があり、その場合は退院までに時間がかかってしまったり、最悪の場合コントロール不良になりなくなってしまう場合があります。
当院ではNohria-Stevensonの分類を使用することで飼い主様に現在のうっ血性心不全の状況を細かくお伝えすることができるようになっております。
その他の記事
-
2025年 春の健康診断の結果をまとめました!
こんにちは!春のフィラリア検査・健康診断シーズンが終わり、すっかり真夏の暑さが到来しています。
今年もたくさんのわんちゃん・ねこちゃん達が健康診断のために来院してくれ…1か月前 -
糖尿病性ケトアシドーシス
糖尿病性ケトアシドーシスとは内科エマージェンシーの1つであり、糖尿病が進行して発症します。発症メカニズムとしては、インスリン不足によりブドウ糖の細胞内への取り込みが減り、代…
5年前
-
犬の椎間板ヘルニア
椎間板ヘルニアは、犬において最も遭遇する頻度の高い神経疾患の一つです。椎間板は椎骨間(背骨と背骨の間)の緩衝材として存在しています。この椎間板が変性し、脊髄を圧迫すること…
2年前 -
循環器科
循環器疾患とは血液を全身に循環させる臓器(心臓や血管など)が正常に働かなくなる疾患のことです。代表的な疾患としては、心臓病(弁膜症、心筋症)、高血圧、脳血管障害などがありま…
2年前 -
犬の尿石症について ~症状や治療法について説明します~
尿石症とは?
尿石症とは、腎臓や尿管、膀胱、尿道などの尿路のいずれかの部位に結石ができる病気です。結石が存在する部位によって、…1か月前 -
内視鏡 異物除去
内視鏡症例をご紹介いたします。 果物の種を飲み込んでしまったワンちゃんで内視鏡によって摘出を行いました。 異物、誤食の中で桃の種など果物の種は高確率に腸…
5年前 -
呼吸器科
『当院では、様々な呼吸器疾患に対し質の高い診断や治療が可能にするために血液検査機器、血液ガス検査機器、胸部レントゲン検査、気管支鏡検査、ICU(集中治療室)、およ…
2年前 -
腹腔鏡補助下で実施した潜在精巣摘出術
潜在精巣とは片側または両側の精巣が陰嚢内に下降していない状態をいいます。ビーグルや雑種犬における精巣下行のタイミングは生後30~40日と言われており、2ヶ月齢の時点で精巣…
1年前 -
整形外科
整形疾患というと骨折が思い浮かぶと思いますが、その他にもワンちゃんネコちゃんで起こりやすい整形疾患があります。このページでは代表的な整形疾患に関してご紹介していきます。 …
2年前 -
犬の口臭の裏に潜むリスクとは?|考えられる原因と対策を解説
愛犬の顔に近づいたとき、「いつもより口が臭うかも…」と感じたことはありませんか? こうしたニオイは単なる不快な症状ではなく、犬の体の中で起きている異常を知らせ…
2か月前