ご予約はこちら
045-932-5151
2019年11月24日

うっ血性心不全/心原性肺水腫(犬)

 

心源性肺水腫とは、僧帽弁閉鎖不全症や肥大型心筋症などの心臓病によって心臓内の血液の鬱滞が悪化する事により、肺に血液中の水が押し出され呼吸困難を生じる二次的な病態です。緊急の状態で来院されることが多いため、心臓や全身循環の評価を行い治療に入ります。当院では人医療でも使用されてるNohria-stevesonの分類に基づき、うっ血と全身循環の評価を行っております。

*僧帽弁閉鎖不全症へはこちらをクリック

*肥大型心筋症へはこちらをクリック

 

Nohriastevenson 分類

 

上記は人の慢性心不全のガイドラインに記載されている表になります。これに基づき Profileを決定し治療方針を決定します。

 

症例1(Profile C wet&cold の場合)

 
呼吸がおかしい、突然倒れることがある、咳が止まらないとの主訴で来院。

肺のエコー検査にて、B-lineを確認しました。酸素吸入下での血液検査、胸部レントゲン、心エコー図検査により心原性肺水腫と診断しました。

 

心不全の評価としてNohria-stevensionの分類を用い、Profile C (wet & cold)と判断し治療をスタートしました。Profile Cの病態では鬱血の初見と低灌流の初見が混在しているため、単純な利尿剤のみの治療ではかえって病態を悪化させてしまいます。そのためメインは心収縮力の増強+循環改善になります。その上で灌流量の改善が認められたら次に鬱血の管理として利尿剤や血管拡張薬の使用を検討していきます。

 

本症例ではアドレナリン作動薬(ドパミン、ドブタミン)とPDEⅢ阻害薬(ベトメディン)を使用し、循環動態の改善を図りその後血管拡張薬(ハンプ注)や利尿剤(フロセミド、スピロノラクトン)を使用して鬱血の治療を行いました。呼吸状態も徐々に改善していき咳も認められなくなりました。

 

 

 

治療負荷前 

肺野のB-line
左房の重度拡大(LA/Ao:3.38)
左室拡張末期流速(E/A:139/84)

 

治療負荷後

肺野はA-lineに改善
左房拡大 (LA/Ao:2.38)
左室拡張末期流速(E/A:119/77)


次の日には肺野の改善が認められ、心拡大および心機能にも改善が認められました。内服薬にもスムーズに移行することができたため、3日程で退院いたしました。

 

 

症例2(Profile B wet&warmの場合)

 

トリミングの後から呼吸が荒く吐いたとの主訴で来院。

胸部レントゲンにて肺野の間質パターンと心臓の拡大および少量の胸水貯留を認めました。こちらも酸素吸入下で血液検査、心エコー検査を行い、心原性肺水腫と診断しました。この症例は誤嚥性肺炎も併発していための併せて治療しました。

 

Nohria-stevensionの分類では、Profile B (wet & warm)と判断し治療をスタートしました。Profile Bでは低灌流の初見はなく鬱血の初見のみが認められます。そのため治療は心臓の鬱血をいかに改善するかに絞れます。

 

本症例では、PDEⅢ阻害剤(ベトメディン)と血管拡張薬(ハンプ注)、利尿剤(トラセミド、スピロノラクトン)を組み合わせて使用しました。

 

治療負荷前

肺野の間質パターンと軽度胸水
僧帽弁逆流と B-line
拘束パターンを呈したE波


治療負荷後


クリアになった肺野
心房の拡大の改善
拘束パターンから弛緩異常へ改善

症例2も治療反応は良好で速やかに肺水腫の改善と肺炎所見の改善が認められました。内服薬への移行もスムーズに行う事ができ、3日ほどで退院することが出来ました。

 

ご紹介した2症例はともに治療反応が良く退院までさほど時間はかかりませんでした。しかし、特にProfile Cの心不全は低還流に伴う腎障害を併発している事があり、その場合は退院までに時間がかかってしまったり、最悪の場合コントロール不良になりなくなってしまう場合があります。

 当院ではNohria-Stevensonの分類を使用することで飼い主様に現在のうっ血性心不全の状況を細かくお伝えすることができるようになっております。

その他の記事

  • リンパ節生検を実施した犬の小細胞性リンパ腫/慢性リンパ球性白血病(CLL)の症例

     慢性リンパ球性白血病(CLL)は腫瘍化したリンパ系細胞が分化能を有しているために成熟リンパ球が増加する疾患で、腫瘍性病変の原発部位が骨髄である場合は慢性リンパ性白…

    11か月前
  • 腫瘍科

     獣医療の発展に伴いペットの長寿化が進み、ペットの死因でも悪性腫瘍(ガン)が上位を占めるようになってきました。   犬の平均寿命 14.76 歳、猫の平…

    2年前
  • 慢性腸症

      慢性腸症の定義   『対症療法に抵抗性または再発性で3週間以上続く慢性の消化器症状を呈し、一般的な血液検査や画像検査で原因の特定には至らない、原因不明…

    2年前
  • アレルギー食|たくさんありすぎてどれを選んでいいか分からない?種類と使い分けについて

    ペットショップや薬局のペットフードコーナーで「アレルギー体質の子向け」と書かれたフードを見かけたり、獣医さんから「アレルギーかも」と言われたことはありますか? アレル…

    2か月前
  • 糖尿病性ケトアシドーシス

    糖尿病性ケトアシドーシスとは内科エマージェンシーの1つであり、糖尿病が進行して発症します。発症メカニズムとしては、インスリン不足によりブドウ糖の細胞内への取り込みが減り、代…

    5年前
  • 犬と猫の予防接種の重要性について

    愛犬や愛猫の健康を守るために、予防接種はとても大切です。 予防接種は、犬や猫の健康を守るだけでなく人にも影響を及ぼす感染症を防ぐ重要な役割を果たします。 …

    5か月前
  • 犬・猫の混合ワクチン

    コロナの影響によって”ワクチン”という言葉をよく耳にするかと思います。わんちゃん、ねこちゃんと一緒にいると、はがきなどによって混合ワクチンのお知らせが届くと思います…

    2年前
  • 炎症性腸疾患<IBD>、慢性腸症

    炎症性腸疾患<inflammation Bowel disease:IBD>
    慢性腸症<chronic entropathy:CE> 小腸または大腸の粘膜固…

    6年前
  • 肺高血圧症

    今回の症例は『肺高血圧症(pulmonary hypertension: PH)』です。
    肺高血圧症は肺動脈圧の上昇を主として、様々な疾患から2次的に生じることの多い…

    5年前
  • 2025年 春の健康診断の結果をまとめました!

    こんにちは!春のフィラリア検査・健康診断シーズンが終わり、すっかり真夏の暑さが到来しています。
    今年もたくさんのわんちゃん・ねこちゃん達が健康診断のために来院してくれ…

    2か月前