ご予約はこちら
045-932-5151
2022年11月17日

気管支鏡を実施した猫の症例

 呼吸器疾患に対する検査にはX線検査やCT検査等の画像診断に加えて、血液検査(動脈血液ガス分析)や気管支鏡検査、肺生検(病理検査)などが挙げられます。消化管や肝臓などの他の臓器と比較して肺生検は大きな侵襲を伴うため、獣医療では病理検査を実施する機会は限られています。シグナルメントや症状、経過などから各種検査を組み合わせて診断を導き出す必要があります。

 当院では以前から動脈血液ガス分析を実施し酸素化能や換気能を評価してきましたが、新たに細径内視鏡を導入し、気管支鏡検査の実施が可能になりました。今回、発咳と呼吸促拍が続く猫ちゃんに気管支鏡検査を実施したため、報告致します。

AMBU® ASCOPE™ 4 BRONCHO レギュラー (5.0/2.2)

 症例は14歳の猫ちゃん(MIX、去勢雄、既往歴なし)で、完全室内飼育。食欲はあるが、運動不耐性があり、咳をしているとの事。

 血液検査では白血球やSAAの上昇はなく、動脈血液ガス分析ではPaO2=55.6Torr,

PaCO2=25.8Torrと低酸素血症とAaDO2の重度な開大が認められました。心臓の超音波検査では明らかな異常は認められませんでした。X線検査では肺野はびまん性に不透過性が亢進していました。

X線検査と血液ガス分析からは間質性の肺疾患が疑われました。1,2週間対症療法として気管支拡張剤やステロイドの吸入等を実施しましたが、改善傾向になかったため精査を目的に気管支鏡検査を実施いたしました。

気管支鏡検査では気管支の粘膜が荒れているのが確認できました。気管支の粘膜をブラシでこすり、細菌の培養検査、ウイルス等のPCR検査、細胞診検査を実施しました。

細菌やウイルスは検出されず、細胞診検査では慢性化膿性気管支炎と診断されました。本来であれば気管支肺胞洗浄や肺生検を実施するのが理想ですが、リスクや侵襲を考慮して今回は実施しませんでした。

各種検査結果から感染症の可能性が低いと判断したため、化膿性気管支炎・間質性肺疾患に対して全身性のステロイドの投与を開始しました。投与後は発咳がなくなり、呼吸回数も落ち着いてきました。

気管支鏡前
ステロイド投与後

上記X線検査においても肺野の改善が認められました。今後も治療経過には注視していきますが、気管支鏡検査により治療方針が絞れた症例といえます。

同じように慢性的な咳やいびきなどの症状にお困りの方はご相談いただければと思います。呼吸器疾患は進行してしまうと息苦しさからQOLが大きく低下してしまうことがありますので早の受診をおすすめ致します。

その他の記事

  • 尿管結石摘出術

      尿管結石は文字通り腎臓と膀胱をつなぐ『尿管』に結石が詰まってしまい、二次的に腎臓に損傷が生じる疾患です。片方の尿管に閉塞しただけでは主だった症状は認められませんが…

    2年前
  • 肝生検

    健康診断で『肝臓の数値が高いですね』と言われたことや過去に『黄疸があり大変厳しい病気です』と動物病院で診断されたことはありませんか? 猫ちゃんの肝臓の病気は栄養性、感…

    5年前
  • セカンドオピニオン

    セカンドオピニオンとは、現在受けている治療や診断に関して第二の意見を求めることを言います。 当院ではセカンドオピニオンで来られた患者さまに対してまず丁寧にお話を聞くこ…

    2年前
  • 食道バルーン拡張術にて治療した食道狭窄の猫の1例

    食道狭窄とは食道内腔が異常に狭くなることで嚥下障害が生じる病態のことを言います。 主な原因としては、薬物や化学物質による化学的な粘膜傷害、過度な嘔吐や胃酸の逆流(逆流…

    2か月前
  • 整形外科

     整形疾患というと骨折が思い浮かぶと思いますが、その他にもワンちゃんネコちゃんで起こりやすい整形疾患があります。このページでは代表的な整形疾患に関してご紹介していきます。 …

    2年前
  • べトスキャン イマジストが導入されました!

    この度、国内初のAI技術を応用した検査と専門医による診断サービスが可能な"べトスキャン イマジスト"という検査機器が当院に導入されました!     …

    6か月前
  • 犬アトピー性皮膚炎|治療の2本柱

    今回は犬アトピー性皮膚炎の治療方法について詳しくお話していきます。 犬アトピー性皮膚炎の病態についてはこちらで解説しているので合わせてご覧ください。 =====…

    2か月前
  • 犬・猫の去勢手術

    【去勢手術のタイミングは?】 去勢手術をするにあたって、この時期・この年齢に必ず受けないといけないというものはございません。しかし、子犬・子猫ちゃんの場合は、性成熟を…

    1年前
  • 犬の口腔内無顆粒性悪性黒色腫

    犬の口腔内腫瘍には悪性黒色腫、扁平上皮癌、線維肉腫など様々な種類の腫瘍が発生することが報告されています。この中でも悪性黒色腫は口腔内腫瘍の中で最も発生率の高い腫瘍とされ、半…

    9か月前
  • 猫の尿管結石の症例

    猫の尿管結石は比較的若齢でも発生する泌尿器系の疾患です。腎臓と膀胱をつなぐ尿管に結石が閉塞することで、腎臓で産生された尿が膀胱に流れず、腎臓に貯まってしまいます(水腎症)…

    3年前