ご予約はこちら
045-932-5151
2023年9月11日

猫の心筋症:肥大型心筋症(HCM)

心筋症には4つの代表的な分類が存在します。①肥大型心筋症(HCM)、②拘束型心筋症(RCM)、③拡張型心筋症(DCM)、④不整脈源生右室心筋症(ARVC)の4つに分類されています。当院ではHCMを一番多く経験します。高齢の子だけでなく若齢の子でもこの心筋症と出会う機会が増えていると感じます。特に進行が早い場合はうっ血性心不全や動脈血栓塞栓症(ATE)など予後の悪い疾患に移行する可能性があるので注意が必要です。

 

肥大型心筋症(HCM)

 

猫においてもっとも一般的な後天性心疾患であり、臨床症状並びに心雑音がない猫においても11〜16%が罹患しているという報告もあります。

 

本来、心臓は全身に血液を送りだす『ポンプの役割』をしています。風船に水を入れた時のように『膨らんでしぼむ』。血液が入った時には膨み、膨らんだ心臓がしぼむ時に血液が全身に送り出されます。そのためポンプの機能を担う心臓はある程度の柔軟さを持っていないと十分に血液を送りだすことはできません。

 

正常な猫の心臓

 

肥大型心筋症はこの心臓の壁が固くなる病気です。左室璧が肥厚し硬くなる事で弛緩能(広がる力)の低下を生じるところが始まりです。左心室が広がらなくなることによって左心室内に血液が入りづらくなり、左心房のうっ血と左心房圧の上昇が引き起こされます。実際のエコー画像をお見せします。下記の動画はまだ左心房の

 

心室中隔の肥厚が顕著なHCM
左室流出路肥厚によって僧帽弁逆流を生じたHOCM

 

左の動画は左心室の中隔壁の肥厚が顕著に認められるHCMです。また右の動画のHCMは同様に中隔の肥厚により大動脈に出る血流が阻害され、動的閉塞を生じ、僧帽弁逆流を併発しているHCM(HCOM)です。どちらもまだ左心房の拡大はなく早期にエコーで発見した症例です。

 

このように心筋の肥厚が生じると次第に左心房圧が上昇していきます。左心房圧の上昇に心筋壁のコンプライアンス(伸展性)の低下とスティフネス(硬さ)の上昇が加わり、左心房圧は著しく上昇し、代償機能が破綻する事によってうっ血性心不全(CHF)(別項:準備中)を発症します。うっ血性心不全を発症すると猫では胸水や肺水腫を生じ、呼吸不全に陥ります。

 

 

 

また左心房圧の上昇による左心房の拡大や左心房の収縮力の低下によって左心房内で血流が停滞する事で血栓の形成されます。もし万が一その血栓が全身に血流に乗ってしまうと塞栓を引き起こし、動脈血栓塞栓症(ATE)を引き起こします。(別項:準備中)

 

上記、二つの疾患 CHFとATEに関しては一度発症すると生命を脅かす疾患であるためそこまでどのようにして発症させないかが重要になります。 そのために重要になってくるのがおなじみやはり定期検診です。

 

心臓エコーで早期発見し、持続的な検診を!

 

最近では2020年にACVIMよりコンセンサスステートメント(ガイドライン)が発表され、フェノタイプという概念が提唱されました。要するに肥大型心筋症には、原発性と二次性のものがあるという決まりです。

 

また猫は犬と違い聴診ではほぼすべての心臓病を見つけることはできません。あくまでも約2割が聴診で異常があるといわれています。また高齢だけではなく若齢の猫ですら心筋症を有している猫に比較的多く遭遇します。

 

そのため早く発見し、二次的に心筋症を悪化させるようなフェノタイプの確認を行い、正しい検診とstage分類と治療を行うことが重要であると考えております。

犬の弁膜症と違い、猫の心筋症ではstage分類による細かな治療ガイドラインはまだ明確にはされていませんが、それでも致死的なうっ血性心不全や動脈血栓塞栓症をいかに防ぐかは重要な課題です。

 この記事を読んだ皆様、心臓の検診を受けてみませんか?

その他の記事

  • 腹腔鏡補助下で実施した潜在精巣摘出術

     潜在精巣とは片側または両側の精巣が陰嚢内に下降していない状態をいいます。ビーグルや雑種犬における精巣下行のタイミングは生後30~40日と言われており、2ヶ月齢の時点で精巣…

    9か月前
  • 犬・猫の混合ワクチン

    コロナの影響によって”ワクチン”という言葉をよく耳にするかと思います。わんちゃん、ねこちゃんと一緒にいると、はがきなどによって混合ワクチンのお知らせが届くと思います…

    2年前
  • 犬アトピー性皮膚炎|病態について

    アトピー性皮膚炎とは、 「遺伝的素因を有した、痒みを伴うT細胞(炎症細胞の一種)を主体とした炎症性皮膚疾患」 と定義されています。 「遺伝的素因」を有して…

    7か月前
  • 犬アトピー性皮膚炎|治療の2本柱

    今回は犬アトピー性皮膚炎の治療方法について詳しくお話していきます。 犬アトピー性皮膚炎の病態についてはこちらで解説しているので合わせてご覧ください。 =====…

    3か月前
  • 紐状異物

    紐状異物は危険な異物の一つで、特に猫に多く見られます。 消化管は食べ物を消化・吸収するために蠕動運動をしています。紐によって手繰り寄せられた消化管は、蠕動運動によって…

    2年前
  • 全耳道切除・鼓室法切開

    慢性外耳炎・中耳炎  慢性外耳炎は、日常の診療でよく遭遇する疾患です。この疾患はどの犬種にも生じますが、特にアメリカン・コッカー・スパニエルやシーズーなど原発性脂漏症…

    3年前
  • 慢性腸症

      慢性腸症の定義   『対症療法に抵抗性または再発性で3週間以上続く慢性の消化器症状を呈し、一般的な血液検査や画像検査で原因の特定には至らない、原因不明…

    1年前
  • 膝蓋骨脱臼の整復

     膝蓋骨脱臼は小型犬に多い整形疾患です。膝蓋骨が大腿骨の滑車溝から外れてしまうことで膝関節伸展機構が正常に機能せず、膝をうまく伸ばせない状態になってしまいます。典型的な臨床…

    2年前
  • 肥満細胞腫

    肥満細胞腫は、犬の皮膚腫瘍のうち20%前後を占めるため、犬の腫瘍では遭遇することの多い疾患にあたります。主にしこりの付近のリンパ節、続いて肝臓、脾臓へ転移することも多いため…

    3年前
  • 腹腔鏡下避妊手術

    開腹手術では上からの視点のみで、傷口を大きく開かない限り腹腔内をよく観察することは難しいです。 胆嚢や肝臓 膀胱 …

    10か月前