猫の心筋症:肥大型心筋症(HCM)
心筋症には4つの代表的な分類が存在します。①肥大型心筋症(HCM)、②拘束型心筋症(RCM)、③拡張型心筋症(DCM)、④不整脈源生右室心筋症(ARVC)の4つに分類されています。当院ではHCMを一番多く経験します。高齢の子だけでなく若齢の子でもこの心筋症と出会う機会が増えていると感じます。特に進行が早い場合はうっ血性心不全や動脈血栓塞栓症(ATE)など予後の悪い疾患に移行する可能性があるので注意が必要です。
肥大型心筋症(HCM)
猫においてもっとも一般的な後天性心疾患であり、臨床症状並びに心雑音がない猫においても11〜16%が罹患しているという報告もあります。
本来、心臓は全身に血液を送りだす『ポンプの役割』をしています。風船に水を入れた時のように『膨らんでしぼむ』。血液が入った時には膨み、膨らんだ心臓がしぼむ時に血液が全身に送り出されます。そのためポンプの機能を担う心臓はある程度の柔軟さを持っていないと十分に血液を送りだすことはできません。

肥大型心筋症はこの心臓の壁が固くなる病気です。左室璧が肥厚し硬くなる事で弛緩能(広がる力)の低下を生じるところが始まりです。左心室が広がらなくなることによって左心室内に血液が入りづらくなり、左心房のうっ血と左心房圧の上昇が引き起こされます。実際のエコー画像をお見せします。下記の動画はまだ左心房の
左の動画は左心室の中隔壁の肥厚が顕著に認められるHCMです。また右の動画のHCMは同様に中隔の肥厚により大動脈に出る血流が阻害され、動的閉塞を生じ、僧帽弁逆流を併発しているHCM(HCOM)です。どちらもまだ左心房の拡大はなく早期にエコーで発見した症例です。
このように心筋の肥厚が生じると次第に左心房圧が上昇していきます。左心房圧の上昇に心筋壁のコンプライアンス(伸展性)の低下とスティフネス(硬さ)の上昇が加わり、左心房圧は著しく上昇し、代償機能が破綻する事によってうっ血性心不全(CHF)(別項:準備中)を発症します。うっ血性心不全を発症すると猫では胸水や肺水腫を生じ、呼吸不全に陥ります。


また左心房圧の上昇による左心房の拡大や左心房の収縮力の低下によって左心房内で血流が停滞する事で血栓の形成されます。もし万が一その血栓が全身に血流に乗ってしまうと塞栓を引き起こし、動脈血栓塞栓症(ATE)を引き起こします。(別項:準備中)
上記、二つの疾患 CHFとATEに関しては一度発症すると生命を脅かす疾患であるためそこまでどのようにして発症させないかが重要になります。 そのために重要になってくるのがおなじみやはり定期検診です。
心臓エコーで早期発見し、持続的な検診を!
最近では2020年にACVIMよりコンセンサスステートメント(ガイドライン)が発表され、フェノタイプという概念が提唱されました。要するに肥大型心筋症には、原発性と二次性のものがあるという決まりです。

また猫は犬と違い聴診ではほぼすべての心臓病を見つけることはできません。あくまでも約2割が聴診で異常があるといわれています。また高齢だけではなく若齢の猫ですら心筋症を有している猫に比較的多く遭遇します。
そのため早く発見し、二次的に心筋症を悪化させるようなフェノタイプの確認を行い、正しい検診とstage分類と治療を行うことが重要であると考えております。
犬の弁膜症と違い、猫の心筋症ではstage分類による細かな治療ガイドラインはまだ明確にはされていませんが、それでも致死的なうっ血性心不全や動脈血栓塞栓症をいかに防ぐかは重要な課題です。
この記事を読んだ皆様、心臓の検診を受けてみませんか?
その他の記事
-
猫の尿管結石の症例
猫の尿管結石は比較的若齢でも発生する泌尿器系の疾患です。腎臓と膀胱をつなぐ尿管に結石が閉塞することで、腎臓で産生された尿が膀胱に流れず、腎臓に貯まってしまいます(水腎症)…
3年前 -
食道バルーン拡張術にて治療した食道狭窄の猫の1例
食道狭窄とは食道内腔が異常に狭くなることで嚥下障害が生じる病態のことを言います。 主な原因としては、薬物や化学物質による化学的な粘膜傷害、過度な嘔吐や胃酸の逆流(逆流…
12か月前
-
腹腔鏡下避妊手術
開腹手術では上からの視点のみで、傷口を大きく開かない限り腹腔内をよく観察することは難しいです。 胆嚢や肝臓 膀胱 …
2年前 -
角膜疾患(潰瘍性角膜炎)
角膜疾患とは、角膜、いわゆる黒目の部分に起こる疾患を指します。角膜疾患では「目を開けずらそう」「涙や目ヤニの量が多い」「まぶしそうにしている」という症状がよく見られます。 …
2年前 -
うっ血性心不全/心原性肺水腫(犬)
心源性肺水腫とは、僧帽弁閉鎖不全症や肥大型心筋症などの心臓病によって心臓内の血液の鬱滞が悪化する事により、肺に血液中の水が押し出され呼吸困難を生じる二次的な病態で…
6年前 -
「たくさん水を飲む」「たくさんおしっこする」は病気のサインかもしれません!
こんにちは!最近は日ごとに気温があがり、夏の暑さが本格的に到来しつつあります。 私たちヒトと同じように、動物も暑くなるとのどが渇いてたくさん水を飲むようになり…
9か月前 -
内視鏡で誤食した釣り針を摘出
釣り針を食べてしまったとの事で来院した7カ月のワンちゃん。 X線検査を実施すると胃の中に釣り針が・・・。 釣り針のような尖ったものは…
3年前 -
尾状葉乳頭突起の肝葉切除(肝細胞癌)
犬の肝臓の腫瘍性疾患において一番多く発生する腫瘍は肝細胞癌です。日常の臨床的にもよく遭遇する腫瘍で、発生の形態によって孤立性、多発性、び慢性に分けられます。経過としては徐々…
1年前 -
犬と猫の予防接種の重要性について
愛犬や愛猫の健康を守るために、予防接種はとても大切です。 予防接種は、犬や猫の健康を守るだけでなく人にも影響を及ぼす感染症を防ぐ重要な役割を果たします。 …
11か月前 -
犬の甲状腺機能低下症について | 元気がないや皮膚症状は甲状腺機能低下症の初期症状かも? ~治療編~
こちらの記事では甲状腺機能低下症の治療について解説していきます。 正しく適切なホルモン補充療法とモニタリングが行われていれば予後良好なことが多いです。 甲状腺…
1か月前
