短頭種気道症候群
短頭種気道症候群とは多くが先天性で、パグやフレンチブルドッグなど短頭種に生じる疾患の総称です。外鼻腔狭窄、軟口蓋過長症、気管低形成を先天的に生じ、持続的な気道抵抗の増加により喉頭虚脱や喉頭小嚢反転などの二時的な変化を生じます。初期症状としてイビキやスターター(スースー)、ストライダー(ガーガー)などが認められ、病態が進行するつれて努力性呼吸や失神、睡眠時無呼吸などの上気道閉塞を認める症候群です。
また著しい上気道閉塞により熱中症にもなりやすいため夏など湿度、気温が高い季節には十分な注意が必要です。
長期間の気道抵抗増加や上気道の閉塞により、咽頭拡張筋郡の代償破綻により高炭酸ガス血症の進行や低酸素血症を生じるため早期の外科手術による解剖学的修復をお勧めしています。
今回は避妊手術の際に外鼻腔狭窄症と軟口蓋過長症を整復した症例をご紹介いたします。
症例 ボストンテリア メス 7ヶ月齢
避妊手術を希望され来院。問診ではスターターやイビキは認められるがストライダーや運動不耐性は認められないとのことでした。避妊手術の術前検査では軟口蓋過長と外鼻腔狭窄を認めました。

飼い主様と相談の上、将来の咽頭気道の負担を減少させる目的で避妊手術と同時に軟口蓋切除術と外鼻腔狭窄整復術を行いました。
軟口蓋切除術
麻酔後に仰臥位に固定し、開口します。咽頭部の奥から伸張した軟口蓋を鉗子を使用し牽引します。(黄色矢印)牽引した軟口蓋を超音波メスにて切除します。この時、周囲の軟部組織に熱侵襲を加えないように慎重に行います。場合によって術野のスペースが限られてしまっている時は超音波メスを使用せず、鋏で切除する場合もあります。


軟口蓋は分厚い組織ですので切りっぱなしにせず切除端は吸収糸を使用して内反するように縫合して術式終了です。


術後注意すべきは抜管時や術後に、手術部位が腫れ咽頭が閉塞してしまう事です。そのようなことが生じないように術後はネブライザーを使用し腫れを抑えていきます。
軟口蓋切除後はいびきの軽減を認めました。
外鼻腔拡張術
写真のように三角形にメスを入れ鼻翼を切除していきます。この時に表面だけでなく奥行きの切除もしっかり行う事がポイントです。


外鼻腔狭窄は鼻腔の入り口を拡張する手術です。表面、奥行きの切除をしっかり行ったうえで切除端を吸収糸で縫合し鼻腔を拡張します。
外鼻腔狭窄の整復と軟口蓋の切除はそこまで大幅に時間のかかる手術ではありません。短頭種では咽頭拡張筋群に負担がかかると約8歳で破綻するといわれています。前もって気道抵抗の軽減を行う事で呼吸筋の温存が図れる可能性があり、当該手術を行うことが呼吸器の寿命を延ばす可能性があると考えております。
短頭種気道症候群は犬種に特異的な疾患です。もし短頭種と分類される犬種をお家に迎え入れる場合は当疾患を念頭に入れておかなければなりません。熱中症の罹患を減少させ呼吸器の寿命を延ばしてあげたい!
と考えている飼い主様はお気軽にお問い合わせください。
その他の記事
-
犬と猫の副腎腫瘍について解説 | よくお水を飲む、尿が薄くて多いは病気の初期症状かも!? ~治療編~
こちらの記事では副腎腫瘍の症例での必要な治療について解説していきます。 副腎腫瘍の治療では大きく外科治療と内科治療に大きく分けられます。 それぞれの治療法を解説…
12か月前 -
”麻酔前検査”をお勧めしています
手術をするにあたって、人の場合と同様に犬ちゃん猫ちゃんにも全身麻酔をかける必要があります。麻酔前検査では、この全身麻酔が安全にかけられるかどうかを評価するための検査となり…
3年前
-
腹腔鏡下避妊手術
開腹手術では上からの視点のみで、傷口を大きく開かない限り腹腔内をよく観察することは難しいです。 胆嚢や肝臓 膀胱 …
2年前 -
内視鏡で誤食した釣り針を摘出
釣り針を食べてしまったとの事で来院した7カ月のワンちゃん。 X線検査を実施すると胃の中に釣り針が・・・。 釣り針のような尖ったものは…
4年前 -
犬の急性膵炎について解説 | 実は重症化すると命に関わる可能性のある恐ろしい病気です
”急にお腹を痛がりだした”、”ぐったりしてなにもご飯をたべない”などの症状が見られることはありませんか?このような症状が見られる場合は急性膵炎の可能性があります。 …
3週間前 -
犬・猫の避妊・去勢手術におけるメリット・デメリット
新しい家族を迎えた時、避妊・去勢手術の実施を考える方は多いかと思います。 みんな手術をしているから家の子もやっておこうといった考えではなく、大切な家族のために手術には…
3年前 -
2026年 春の健康診断の結果をまとめました!
この春も多くのわんちゃん、ねこちゃんに健康診断をご利用いただき、ありがとうございました。健康診断は、見た目は元気でも隠れている病気や体の変化を早期に見つけるための大切な機会…
3か月前 -
うっ血性心不全/心原性肺水腫(犬)
心源性肺水腫とは、僧帽弁閉鎖不全症や肥大型心筋症などの心臓病によって心臓内の血液の鬱滞が悪化する事により、肺に血液中の水が押し出され呼吸困難を生じる二次的な病態で…
7年前 -
消化管穿孔
消化管穿孔は外傷、異物、腫瘍など様々理由で生じます。今回は消化管の穿孔により細菌性腹膜炎を生じた猫を紹介いたします。 雑種猫 2歳9カ月 去勢雄 数日前から食欲…
3年前 -
犬の瞬膜腺脱出(チェリーアイ)とは? | 実際の手術写真を使って解説
瞬膜腺とは内眼角側にあるT字型の軟骨を支えに存在しています。この瞬膜は眼球の物理的な保護、眼脂の除去、涙を眼球に広げてくれるなどの働きがあり、瞬膜の裏側に存在するのが瞬膜腺…
1年前
