ご予約はこちら
045-932-5151
2023年11月19日

短頭種気道症候群

短頭種気道症候群とは多くが先天性で、パグやフレンチブルドッグなど短頭種に生じる疾患の総称です。外鼻腔狭窄、軟口蓋過長症、気管低形成を先天的に生じ、持続的な気道抵抗の増加により喉頭虚脱や喉頭小嚢反転などの二時的な変化を生じます。初期症状としてイビキやスターター(スースー)、ストライダー(ガーガー)などが認められ、病態が進行するつれて努力性呼吸や失神、睡眠時無呼吸などの上気道閉塞を認める症候群です。

 

また著しい上気道閉塞により熱中症にもなりやすいため夏など湿度、気温が高い季節には十分な注意が必要です。

 

長期間の気道抵抗増加や上気道の閉塞により、咽頭拡張筋郡の代償破綻により高炭酸ガス血症の進行や低酸素血症を生じるため早期の外科手術による解剖学的修復をお勧めしています。

今回は避妊手術の際に外鼻腔狭窄症と軟口蓋過長症を整復した症例をご紹介いたします。

 

症例  ボストンテリア メス 7ヶ月齢

 

避妊手術を希望され来院。問診ではスターターやイビキは認められるがストライダーや運動不耐性は認められないとのことでした。避妊手術の術前検査では軟口蓋過長と外鼻腔狭窄を認めました。

軟口蓋の過長(赤矢印)

飼い主様と相談の上、将来の咽頭気道の負担を減少させる目的で避妊手術と同時に軟口蓋切除術と外鼻腔狭窄整復術を行いました。

 

軟口蓋切除術

麻酔後に仰臥位に固定し、開口します。咽頭部の奥から伸張した軟口蓋を鉗子を使用し牽引します。(黄色矢印)牽引した軟口蓋を超音波メスにて切除します。この時、周囲の軟部組織に熱侵襲を加えないように慎重に行います。場合によって術野のスペースが限られてしまっている時は超音波メスを使用せず、鋏で切除する場合もあります。

長く厚い軟口蓋(黄矢印)
超音波メスで切除

軟口蓋は分厚い組織ですので切りっぱなしにせず切除端は吸収糸を使用して内反するように縫合して術式終了です。

 

切除後(黄矢印)
縫合して終了

 

術後注意すべきは抜管時や術後に、手術部位が腫れ咽頭が閉塞してしまう事です。そのようなことが生じないように術後はネブライザーを使用し腫れを抑えていきます。

軟口蓋切除後はいびきの軽減を認めました。

 

外鼻腔拡張術

写真のように三角形にメスを入れ鼻翼を切除していきます。この時に表面だけでなく奥行きの切除もしっかり行う事がポイントです。

術前:外鼻腔はほとんど閉じてしまっている
術後:開存している鼻腔面積が大幅に増加

 

外鼻腔狭窄は鼻腔の入り口を拡張する手術です。表面、奥行きの切除をしっかり行ったうえで切除端を吸収糸で縫合し鼻腔を拡張します。

 

外鼻腔狭窄の整復と軟口蓋の切除はそこまで大幅に時間のかかる手術ではありません。短頭種では咽頭拡張筋群に負担がかかると約8歳で破綻するといわれています。前もって気道抵抗の軽減を行う事で呼吸筋の温存が図れる可能性があり、当該手術を行うことが呼吸器の寿命を延ばす可能性があると考えております。

 

短頭種気道症候群は犬種に特異的な疾患です。もし短頭種と分類される犬種をお家に迎え入れる場合は当疾患を念頭に入れておかなければなりません。熱中症の罹患を減少させ呼吸器の寿命を延ばしてあげたい!

と考えている飼い主様はお気軽にお問い合わせください。

その他の記事

  • ネコちゃんに多い内分泌疾患 甲状腺機能亢進症

    甲状腺は喉にあり、甲状腺ホルモンを分泌します。甲状腺から異常にホルモンが分泌されてしまう病気を甲状腺機能亢進症と言います。   診断するにはそれほど複雑…

    9か月前
  • 先天性疾患 心膜横隔膜ヘルニア整復

    腹膜心膜横隔膜ヘルニア(Peritoneopericardial Diaphragmatic Hernia;PPDH)は、「心膜横隔膜ヘルニア」とも呼ばれる、先天的に発生す…

    2か月前
  • 犬と猫の予防接種の重要性について

    愛犬や愛猫の健康を守るために、予防接種はとても大切です。 予防接種は、犬や猫の健康を守るだけでなく人にも影響を及ぼす感染症を防ぐ重要な役割を果たします。 …

    8か月前
  • 「たくさん水を飲む」「たくさんおしっこする」は病気のサインかもしれません!

    こんにちは!最近は日ごとに気温があがり、夏の暑さが本格的に到来しつつあります。 私たちヒトと同じように、動物も暑くなるとのどが渇いてたくさん水を飲むようになり…

    6か月前
  • 内視鏡で誤食した釣り針を摘出

    釣り針を食べてしまったとの事で来院した7カ月のワンちゃん。 X線検査を実施すると胃の中に釣り針が・・・。 釣り針のような尖ったものは…

    3年前
  • 犬の口腔内無顆粒性悪性黒色腫

    犬の口腔内腫瘍には悪性黒色腫、扁平上皮癌、線維肉腫など様々な種類の腫瘍が発生することが報告されています。この中でも悪性黒色腫は口腔内腫瘍の中で最も発生率の高い腫瘍とされ、半…

    1年前
  • 紐状異物

    紐状異物は危険な異物の一つで、特に猫に多く見られます。 消化管は食べ物を消化・吸収するために蠕動運動をしています。紐によって手繰り寄せられた消化管は、蠕動運動によって…

    3年前
  • 尿管結石摘出術

      尿管結石は文字通り腎臓と膀胱をつなぐ『尿管』に結石が詰まってしまい、二次的に腎臓に損傷が生じる疾患です。片方の尿管に閉塞しただけでは主だった症状は認められませんが…

    2年前
  • 副腎腫瘍について解説 | よくお水を飲む、尿が薄くて多いは病気の初期症状かも!? ~症状編~

    こちらの記事では副腎腫瘍の症例で良く認められる症状について解説していきます。 副腎腫瘍の性質や種類によって出てくる症状は様々になります。 ぜひ最後までお読みいた…

    1か月前
  • 消化管穿孔

    消化管穿孔は外傷、異物、腫瘍など様々理由で生じます。今回は消化管の穿孔により細菌性腹膜炎を生じた猫を紹介いたします。 雑種猫 2歳9カ月 去勢雄 数日前から食欲…

    3年前