ご予約はこちら
受診ご希望、獣医師の方 045-932-5151
企業、法人の方 090-6770-5244
2020年8月31日

肺高血圧症

今回の症例は『肺高血圧症(pulmonary hypertension: PH)』です。
肺高血圧症は肺動脈圧の上昇を主として、様々な疾患から2次的に生じることの多い疾患です。
認められる症状として頻呼吸や呼吸困難など重篤な呼吸器症状が認め、突然呼吸不全で死に至ることもある病気です。この病気を疑う症状として突然倒れる失神や運動中のふらつきも特徴的です。

アメリカ獣医内科学会でこの肺高血圧症におけるconsensus statement(医療的公式声明)が発表され以下の6つに分類されることが提唱されました。

1、肺動脈性/先天性
2、左室機能不全にともなうもの
3、慢性呼吸器障害
4、血栓
5、フィラリア症
6、複合型/腫瘤

症例 シーズー 避妊雌
トリミング後から元気がないとの事で来院されました。院内にて呼吸数の増加が認め、血液検査ではWBCの上昇及びCRPの上昇が認められ、胸部レントゲン検査では、心拡大および肺野の間質パターンが認められました。

間質パターンと軽度心拡大
後肺野の間質パターン

血液ガス分析では中等度低酸素血症(PaO2:73.4mmHg)および高炭酸ガス血症(PaCO2:47.2mmHg)を認めました。心エコー図検査では右心房、右心室の軽度拡大、三尖弁の逆流と軽度の僧帽弁閉鎖不全症を認めました。三尖弁逆流速 3.81m/s 推定肺動脈圧 68.1mmHg (中等度肺高血圧)でした。

2020年にACVIMから発表された犬のPHのコンセンサスステートメント(下表)では、複数の評価項目による診断基準が発表されました。今回は可能性は中であり、症状と併せて中等度肺高血圧症と診断しました。

全身の循環動態は維持されていたため酸素室内にて安静化し、シルデナフィル(肺血管拡張薬)にて治療を行ったところ呼吸状態の改善が認められ無事退院することが出来ました。

一時的に家でも酸素室を利用してもらっておりましたが現在は酸素室も必要なく過ごせております。

肺高血圧症は重症度によっては生命を脅かす疾患です。また原因がわからないことも多くあり、治療に苦慮することも少なくありません。今回は早期に発見でき、治療を行ったことによって良好な経過が認められましたが今後も注意深く経過を追う必要があります。

その他の記事

  • 心タンポナーデ

     心タンポナーデとは心膜腔(心臓の外側)に液体(心嚢水)が貯留し、心臓を圧迫することで心臓の動きが制限され、機能不全を起こした状態です。全身に血液を送ることが出来なくなり、…

    3年前
  • 犬と猫の混合ワクチンについて | どれが家の子に合うの?

    コロナの影響によって”ワクチン”という言葉をよく耳にするかと思います。わんちゃん、ねこちゃんと一緒にいると、はがきなどによって混合ワクチンのお知らせが届くと思います…

    3年前
  • 肝中央区域の腫瘍および胆嚢を一括切除した犬の一例

    近年では、獣医療の発達とともに犬猫の長寿化が認められるようになり、腫瘍と診断される子も増えてきています。腫瘍の中でも肝臓腫瘍は稀であり、肝臓自体は”沈黙の臓器”とも呼ばれ…

    4か月前
  • 発作重責・脳炎

    犬によく見られる特発性髄膜脳脊髄炎の一種で、多因性の疾患であり、明確な原因は不明です。臨床症状は大脳病変の部位によって異なり、発作や虚弱、旋回運動、視覚障害などを呈し、最終…

    7年前
  • 猫の心筋症:肥大型心筋症(HCM)

    心筋症には4つの代表的な分類が存在します。①肥大型心筋症(HCM)、②拘束型心筋症(RCM)、③拡張型心筋症(DCM)、④不整脈源生右室心筋症(ARVC)の4つに分類されて…

    3年前
  • 犬の椎間板ヘルニア

     椎間板ヘルニアは、犬において最も遭遇する頻度の高い神経疾患の一つです。椎間板は椎骨間(背骨と背骨の間)の緩衝材として存在しています。この椎間板が変性し、脊髄を圧迫すること…

    3年前
  • 犬の甲状腺機能低下症について | 元気がないや皮膚症状は甲状腺機能低下症の初期症状かも? ~症状編~

    こちらの記事では甲状腺機能低下症の症例で認められやすい症状について解説していきます。 甲状腺ホルモンは全身的に作用するため、症状も様々なものが認められます。 …

    10か月前
  • 胆嚢摘出術および総胆管ステント設置を実施した犬の1例

    胆嚢粘液嚢腫とは、胆嚢内に可動性の乏しい胆汁由来の粘液状物質が過剰に貯留した状態です。この粘液状物質が過剰に貯留してしまうと胆嚢拡張を起こしたり、胆汁の流れ出る通り道である…

    1年前
  • 全耳道切除・鼓室法切開

    慢性外耳炎・中耳炎  慢性外耳炎は、日常の診療でよく遭遇する疾患です。この疾患はどの犬種にも生じますが、特にアメリカン・コッカー・スパニエルやシーズーなど原発性脂漏症…

    4年前
  • 犬の甲状腺機能低下症について | 元気がないや皮膚症状は甲状腺機能低下症の初期症状かも? ~治療編~

    こちらの記事では甲状腺機能低下症の治療について解説していきます。 正しく適切なホルモン補充療法とモニタリングが行われていれば予後良好なことが多いです。 甲状腺…

    9か月前