リンパ節生検を実施した犬の小細胞性リンパ腫/慢性リンパ球性白血病(CLL)の症例
慢性リンパ球性白血病(CLL)は腫瘍化したリンパ系細胞が分化能を有しているために成熟リンパ球が増加する疾患で、腫瘍性病変の原発部位が骨髄である場合は慢性リンパ性白血病と呼ばれます。一方で高分化型のリンパ腫でも同様の病変が認められることもありますが、原発がリンパ節などの骨髄外の場合はリンパ腫ステージⅤと診断されます。
一般的に高齢の症例(10〜11歳)で発生し、性差はなく、犬種としてはジャーマン・シェパードやゴールデン・レトリバーなどの大型犬の他にダックスフントやポメラニアンなどの小型犬にも好発することが報告されています。


臨床徴候は様々で元気消失や食欲減退、リンパ節の腫大が起こることもあれば、全くの無徴候で健康診断時の血液検査でみつかることもあります。血液検査で持続的なリンパ球の増多(>20000/μl、3ヶ月以上)が認められることが特徴ですが、症例によっては短期間で急激に進行することもあります。


リンパ球の増多が持続する場合は画像検査などでその他の疾患を除外し、最終的には骨髄生検やリンパ節の生検を実施して、原発が骨髄なのか、リンパ節なのかを判断していきます。


軽度に腫大している(>2cm)

白血病やリンパ腫と聞くと長生きができない、治療が大変そうというイメージを持つ方がお多いと思います。しかし、慢性リンパ球性白血病や緩徐に進行する小細胞性リンパ腫では急性の白血病やその他のリンパ腫と比較して生存期間が長いことが報告されており、治療の介入しなくても通常の生活を送れることが多いです。人の慢性リンパ球性白血病では病気分類がされていて、low riskの症例では治療を行っても生存期間に差がないことから、riskが高くなった際に治療を開始します。
犬の場合には明確な治療開始の基準は設けられていませんが、治療適応が示唆される条件としては
①リンパ節腫大の進行②食欲低下や体重減少③脾腫や肝腫④貧血や血小板の低下⑤単クローン性ガンマグロブリン血症⑥急速なリンパ球数の増加
などです。
治療としてはステロイドや抗がん剤を使用しますが、リンパ球数や臨床徴候を観察しながら治療を休止できる場合もあります。進行しない場合や良好なコントロールが取れている症例では2、3年もしくはそれ以上の生存期間が期待できます。注意点としては稀に急性転化を起こすことがあるので定期的な検査や臨床徴候の発現時に早めに受診するなどが必要になります。
このように慢性リンパ球性白血病は無徴候なまま見つかることも多い病気です。特に高齢なワンちゃんでは健康診断を実施することで病気の早期発見につながることがあるので、一度検討してみてはいかがでしょうか。
その他の記事
-
低侵襲手術(内視鏡を用いた膀胱結石の摘出)
膀胱結石は犬、猫ともに発生頻度の多い泌尿器疾患です。体質により再発を繰り返すことが多いですが、手術時に細かな結石を取り残してしまうことによって術後早期に膀胱内に結石が確認…
2年前 -
腹腔鏡下避妊手術
開腹手術では上からの視点のみで、傷口を大きく開かない限り腹腔内をよく観察することは難しいです。 胆嚢や肝臓 膀胱 …
1年前
-
猫の心筋症:肥大型心筋症(HCM)
心筋症には4つの代表的な分類が存在します。①肥大型心筋症(HCM)、②拘束型心筋症(RCM)、③拡張型心筋症(DCM)、④不整脈源生右室心筋症(ARVC)の4つに分類されて…
2年前 -
食道バルーン拡張術にて治療した食道狭窄の猫の1例
食道狭窄とは食道内腔が異常に狭くなることで嚥下障害が生じる病態のことを言います。 主な原因としては、薬物や化学物質による化学的な粘膜傷害、過度な嘔吐や胃酸の逆流(逆流…
7か月前 -
「たくさん水を飲む」「たくさんおしっこする」は病気のサインかもしれません!
こんにちは!最近は日ごとに気温があがり、夏の暑さが本格的に到来しつつあります。 私たちヒトと同じように、動物も暑くなるとのどが渇いてたくさん水を飲むようになり…
4か月前 -
当院での避妊手術について、詳しい手術方法を解説します
皆さんが飼われているペットさんは避妊手術・去勢手術はされましたか?今回は当院での避妊手術について紹介したいと思います。 当院での避妊手術は「子宮卵巣摘出術」を採用…
2年前 -
犬の外傷性股関節脱臼
犬の起こりやすい外科疾患の中に股関節脱臼というものがあります。股関節脱臼は全ての外傷性脱臼の中でも最も発生が多く、全ての年齢に起こり、犬種や性差に関係なく発生します。主に…
11か月前 -
2025年 春の健康診断の結果をまとめました!
こんにちは!春のフィラリア検査・健康診断シーズンが終わり、すっかり真夏の暑さが到来しています。
今年もたくさんのわんちゃん・ねこちゃん達が健康診断のために来院してくれ…2か月前 -
フィラリア予防
毎年春になるとフィラリア予防という言葉を耳にすると思います。なんとなくわんちゃんに害がありそうだから、健康診断のついでにやっておこうかな?本当にフィラリアの検査って必要なの…
2年前 -
犬・猫の避妊・去勢手術におけるメリット・デメリット
新しい家族を迎えた時、避妊・去勢手術の実施を考える方は多いかと思います。 みんな手術をしているから家の子もやっておこうといった考えではなく、大切な家族のために手術には…
2年前