ご予約はこちら
045-932-5151
2024年9月24日

リンパ節生検を実施した犬の小細胞性リンパ腫/慢性リンパ球性白血病(CLL)の症例

 慢性リンパ球性白血病(CLL)は腫瘍化したリンパ系細胞が分化能を有しているために成熟リンパ球が増加する疾患で、腫瘍性病変の原発部位が骨髄である場合は慢性リンパ性白血病と呼ばれます。一方で高分化型のリンパ腫でも同様の病変が認められることもありますが、原発がリンパ節などの骨髄外の場合はリンパ腫ステージⅤと診断されます。

 一般的に高齢の症例(10〜11歳)で発生し、性差はなく、犬種としてはジャーマン・シェパードやゴールデン・レトリバーなどの大型犬の他にダックスフントやポメラニアンなどの小型犬にも好発することが報告されています。

 

 

 臨床徴候は様々で元気消失や食欲減退、リンパ節の腫大が起こることもあれば、全くの無徴候で健康診断時の血液検査でみつかることもあります。血液検査で持続的なリンパ球の増多(>20000/μl、3ヶ月以上)が認められることが特徴ですが、症例によっては短期間で急激に進行することもあります。

実際の血液検査の結果
血液塗抹では小型〜中型のリンパ球が出現

 

 リンパ球の増多が持続する場合は画像検査などでその他の疾患を除外し、最終的には骨髄生検やリンパ節の生検を実施して、原発が骨髄なのか、リンパ節なのかを判断していきます。

下顎リンパ節の生検
実際に採取したリンパ節
軽度に腫大している(>2cm)

 

 

 白血病やリンパ腫と聞くと長生きができない、治療が大変そうというイメージを持つ方がお多いと思います。しかし、慢性リンパ球性白血病や緩徐に進行する小細胞性リンパ腫では急性の白血病やその他のリンパ腫と比較して生存期間が長いことが報告されており、治療の介入しなくても通常の生活を送れることが多いです。人の慢性リンパ球性白血病では病気分類がされていて、low riskの症例では治療を行っても生存期間に差がないことから、riskが高くなった際に治療を開始します。

 犬の場合には明確な治療開始の基準は設けられていませんが、治療適応が示唆される条件としては

①リンパ節腫大の進行②食欲低下や体重減少③脾腫や肝腫④貧血や血小板の低下⑤単クローン性ガンマグロブリン血症⑥急速なリンパ球数の増加

などです。

 治療としてはステロイドや抗がん剤を使用しますが、リンパ球数や臨床徴候を観察しながら治療を休止できる場合もあります。進行しない場合や良好なコントロールが取れている症例では2、3年もしくはそれ以上の生存期間が期待できます。注意点としては稀に急性転化を起こすことがあるので定期的な検査や臨床徴候の発現時に早めに受診するなどが必要になります。

 このように慢性リンパ球性白血病は無徴候なまま見つかることも多い病気です。特に高齢なワンちゃんでは健康診断を実施することで病気の早期発見につながることがあるので、一度検討してみてはいかがでしょうか。

 

腫瘍科ページ

その他の記事

  • 「たくさん水を飲む」「たくさんおしっこする」は病気のサインかもしれません!

    こんにちは!最近は日ごとに気温があがり、夏の暑さが本格的に到来しつつあります。 私たちヒトと同じように、動物も暑くなるとのどが渇いてたくさん水を飲むようになり…

    5か月前
  • フィラリア予防

    毎年春になるとフィラリア予防という言葉を耳にすると思います。なんとなくわんちゃんに害がありそうだから、健康診断のついでにやっておこうかな?本当にフィラリアの検査って必要なの…

    2年前
  • 2023年度 春の健康診断 結果報告🌸

    こんにちは、しょう動物病院です。 今年もあっという間で、残すところ後2か月となりました。急に冷え込み体調を崩してしまう子が増えたように感じます。 例年通り、今年…

    2年前
  • 犬の椎間板ヘルニア

     椎間板ヘルニアは、犬において最も遭遇する頻度の高い神経疾患の一つです。椎間板は椎骨間(背骨と背骨の間)の緩衝材として存在しています。この椎間板が変性し、脊髄を圧迫すること…

    2年前
  • 気管支鏡を実施した猫の症例

     呼吸器疾患に対する検査にはX線検査やCT検査等の画像診断に加えて、血液検査(動脈血液ガス分析)や気管支鏡検査、肺生検(病理検査)などが挙げられます。消化管や肝臓などの他の…

    3年前
  • 犬・猫の去勢手術

    【去勢手術のタイミングは?】 去勢手術をするにあたって、この時期・この年齢に必ず受けないといけないというものはございません。しかし、子犬・子猫ちゃんの場合は、性成熟を…

    2年前
  • 腹腔鏡下避妊手術

    開腹手術では上からの視点のみで、傷口を大きく開かない限り腹腔内をよく観察することは難しいです。 胆嚢や肝臓 膀胱 …

    1年前
  • 尿石症

    尿石症とは、尿路のいずれかの部位で、尿中の溶解性の低い晶質から結石形成に至り、これが停留し成長することによって尿路の炎症・頻尿・乏尿・閉塞などの徴候を引き起こす疾患です。そ…

    5年前
  • 腎瘻チューブの設置により尿管が疎通した腎盂腎炎の症例

    腎孟腎炎は腎孟および腎実質の炎症で,原因としてもっともよくみられるのは細菌感染です。 今回は腎盂腎炎に伴い尿管閉塞を起こした猫に対して、経皮的に腎瘻チューブを設置し、…

    3年前
  • 犬の外傷性股関節脱臼

    犬の起こりやすい外科疾患の中に股関節脱臼というものがあります。股関節脱臼は全ての外傷性脱臼の中でも最も発生が多く、全ての年齢に起こり、犬種や性差に関係なく発生します。主に…

    12か月前