先天性門脈体循環シャント
先天性門脈体循環シャントは生まれつき血管に異常のある病気です。なんとなく元気がなかったり、成長が悪かったりと特異的な臨床徴候を出さないこともあり、血液検査をしないとわからないことが多い病気です。重度な場合は流涎やふらつき、発作が出たり、膀胱結石が見つかることもあります。
先天性門脈体循環シャントは、本来なら肝臓に栄養を送る『門脈』という血管から『後大静脈』や『奇静脈』などの全身の静脈に血液が流れ込んでしまい、肝臓の発育不全や高アンモニア血症を引き起こしQOLを低下させます。また、無治療では健康な子と比べて寿命が短くなってしまいます。一方で外科手術で完治することが多く、完治した場合は健康な子と同様に過ごすことができます。


当院では避妊手術や去勢手術の際に手術前の検査として血液検査やX線検査を実施しています。今回は去勢手術前の検査で異常値が確認され、追加検査をしたのちに門脈対循環シャントと診断されたワンちゃんを紹介します。
5ヶ月、ビションフリーゼの男の子、去勢手術前に血液検査を実施しました。肝酵素の上昇とアンモニアの数値が上昇(NH3=300 μg/dl:基準値 〜 75 μg/dl)しており、門脈体循環シャント疑い肝機能検査を外注したところ、肝機能の重度低下が認められました。(表)

超音波検査では胃の右側から発生する血管が通常よりも太く、後大静脈に短絡(シャント)している事が疑われました。また、膀胱内には結石が認められました。


CT検査を実施したところ、右胃静脈-後大静脈シャントと診断されました。

CT検査による血管走行の3D画像
ご家族と相談して他院にて手術を実施することになりました。手術までの間は肝臓の状態を整えるために食事やサプリメントなどの栄養療法を実施していきました。
手術は無事に終わり、肝臓の機能も大幅に改善しています。膀胱の結石も摘出してもらい、尿酸アンモニウムという結石だったことがわかりました。数ヶ月は肝臓の機能を評価していく必要はありますが、基本的には健康なこと同じように過ごしていけるようになっていきます。

門脈体循環シャントを診断するためには門脈造影という特殊な検査か、CT検査が必要になります。当院でもCT検査が可能になりましたので、門脈体循環シャントを疑われている患者さんは一度お問い合わせいただければと思います。
追記:当院でも別の症例で門脈体循環シャントの手術を実施しました。




結紮前8mmHgの門脈圧、仮結紮後の門脈圧は15mmHgで全身の血圧も安定していたため、完全結紮を行いました。術後の経過は順調で術後発作もなく、無事に退院しました。術後の検診でも肝機能が大幅に改善しており、門脈シャントは完治としました。

その他の記事
-
猫の乳腺腫瘍
猫の乳腺腫瘍は犬の乳腺腫瘍と比較して悪性度が高く、おおよそ80%が悪性の癌であると言われています。雌猫に発生する腫瘍のうち17%が乳腺腫瘍であり、比較的発生率の多い腫瘍で…
10か月前 -
犬の口臭の裏に潜むリスクとは?|考えられる原因と対策を解説
愛犬の顔に近づいたとき、「いつもより口が臭うかも…」と感じたことはありませんか? こうしたニオイは単なる不快な症状ではなく、犬の体の中で起きている異常を知らせ…
5か月前
-
皮膚科
皮膚疾患はワンちゃんや猫ちゃんが予防以外で動物病院を受診する理由としてTOP3に入り、当院でも皮膚疾患で受診される方が多くいらっしゃいます。「痒がっている」、「皮膚が赤く…
2年前 -
リンパ節生検を実施した犬の小細胞性リンパ腫/慢性リンパ球性白血病(CLL)の症例
慢性リンパ球性白血病(CLL)は腫瘍化したリンパ系細胞が分化能を有しているために成熟リンパ球が増加する疾患で、腫瘍性病変の原発部位が骨髄である場合は慢性リンパ性白…
1年前 -
肋間開胸術による犬の肺腫瘍切除
今回は他院にてレントゲン撮影をした際に肺腫瘍が見つかり、セカンドオピニオンとして当院を受診し、CT検査及び肺葉切除によって腫瘍を摘出した一例を紹介します。 a …
11か月前 -
肥満細胞腫
肥満細胞腫は、犬の皮膚腫瘍のうち20%前後を占めるため、犬の腫瘍では遭遇することの多い疾患にあたります。主にしこりの付近のリンパ節、続いて肝臓、脾臓へ転移することも多いため…
3年前 -
若い犬や猫に見られる皮膚糸状菌症(真菌感染症)とは
皮膚糸状菌症とは、皮膚糸状菌と呼ばれる真菌(カビの仲間)による感染症であり、人にも感染するため人獣共通感染症とされています。猫ちゃんでは原因菌として20種ほどが報告されてい…
5か月前 -
短頭種気道症候群
短頭種気道症候群とは多くが先天性で、パグやフレンチブルドッグなど短頭種に生じる疾患の総称です。外鼻腔狭窄、軟口蓋過長症、気管低形成を先天的に生じ、持続的な気道抵抗の増加によ…
2年前 -
若い子に稀に見られる先天性門脈体循環シャントとは? │ 早期発見や実際の治療法について
先天性門脈体循環シャントは主に若齢の犬ちゃんや猫ちゃんで稀に認められる病気です。 この疾患は特異的な臨床症状を示さないこともあり、詳しい検査をしないと見つからないこと…
2か月前 -
膝蓋骨脱臼の整復
膝蓋骨脱臼は小型犬に多い整形疾患です。膝蓋骨が大腿骨の滑車溝から外れてしまうことで膝関節伸展機構が正常に機能せず、膝をうまく伸ばせない状態になってしまいます。典型的な臨床…
2年前
