ご予約はこちら
045-932-5151
2024年2月3日

先天性門脈体循環シャント

 先天性門脈体循環シャントは生まれつき血管に異常のある病気です。なんとなく元気がなかったり、成長が悪かったりと特異的な臨床徴候を出さないこともあり、血液検査をしないとわからないことが多い病気です。重度な場合は流涎やふらつき、発作が出たり、膀胱結石が見つかることもあります。

 

 先天性門脈体循環シャントは、本来なら肝臓に栄養を送る『門脈』という血管から『後大静脈』や『奇静脈』などの全身の静脈に血液が流れ込んでしまい、肝臓の発育不全や高アンモニア血症を引き起こしQOLを低下させます。また、無治療では健康な子と比べて寿命が短くなってしまいます。一方で外科手術で完治することが多く、完治した場合は健康な子と同様に過ごすことができます。

 

 

 当院では避妊手術や去勢手術の際に手術前の検査として血液検査やX線検査を実施しています。今回は去勢手術前の検査で異常値が確認され、追加検査をしたのちに門脈対循環シャントと診断されたワンちゃんを紹介します。

 

  5ヶ月、ビションフリーゼの男の子、去勢手術前に血液検査を実施しました。肝酵素の上昇とアンモニアの数値が上昇(NH3=300 μg/dl:基準値 〜 75 μg/dl)しており、門脈体循環シャント疑い肝機能検査を外注したところ、肝機能の重度低下が認められました。(表)

 

 

 超音波検査では胃の右側から発生する血管が通常よりも太く、後大静脈に短絡(シャント)している事が疑われました。また、膀胱内には結石が認められました。

 

拡張した右胃静脈

 

シャント血管の流入
膀胱結石

 CT検査を実施したところ、右胃静脈-後大静脈シャントと診断されました。

 

CT検査による血管走行の3D画像

 

 ご家族と相談して他院にて手術を実施することになりました。手術までの間は肝臓の状態を整えるために食事やサプリメントなどの栄養療法を実施していきました。

  手術は無事に終わり、肝臓の機能も大幅に改善しています。膀胱の結石も摘出してもらい、尿酸アンモニウムという結石だったことがわかりました。数ヶ月は肝臓の機能を評価していく必要はありますが、基本的には健康なこと同じように過ごしていけるようになっていきます。

 

 

 門脈体循環シャントを診断するためには門脈造影という特殊な検査か、CT検査が必要になります。当院でもCT検査が可能になりましたので、門脈体循環シャントを疑われている患者さんは一度お問い合わせいただければと思います。

  追記:当院でも別の症例で門脈体循環シャントの手術を実施しました。

シャント血管を確認
シャント血管を剥離して結紮糸で確保
門脈圧の測定
シャント血管の結紮

 

 結紮前8mmHgの門脈圧、仮結紮後の門脈圧は15mmHgで全身の血圧も安定していたため、完全結紮を行いました。術後の経過は順調で術後発作もなく、無事に退院しました。術後の検診でも肝機能が大幅に改善しており、門脈シャントは完治としました。

 

その他の記事

  • 犬の乳腺腫瘍

     犬の乳腺腫瘍とは、雌犬で一般的に認められる腫瘍であり、雌犬の全腫瘍中52%を占め、約半数が悪性です。臨床徴候としては乳腺内に単一または多発性に結節を認め、悪性の場合は急速…

    2年前
  • 猫の乳腺腫瘍

     猫の乳腺腫瘍は犬の乳腺腫瘍と比較して悪性度が高く、おおよそ80%が悪性の癌であると言われています。雌猫に発生する腫瘍のうち17%が乳腺腫瘍であり、比較的発生率の多い腫瘍で…

    4か月前
  • 副腎腫瘍・副腎腺腫摘出

    副腎腫瘍は当院で手術が可能な腫瘍です。この腫瘍はその特性上   ①腫瘍の分類 ②副腎皮質機能亢進症の有無 ③血管への浸潤や位置関係   …

    1年前
  • 犬・猫の混合ワクチン

    コロナの影響によって”ワクチン”という言葉をよく耳にするかと思います。わんちゃん、ねこちゃんと一緒にいると、はがきなどによって混合ワクチンのお知らせが届くと思います…

    2年前
  • 犬の外傷性股関節脱臼

    犬の起こりやすい外科疾患の中に股関節脱臼というものがあります。股関節脱臼は全ての外傷性脱臼の中でも最も発生が多く、全ての年齢に起こり、犬種や性差に関係なく発生します。主に…

    6か月前
  • 食道バルーン拡張術にて治療した食道狭窄の猫の1例

    食道狭窄とは食道内腔が異常に狭くなることで嚥下障害が生じる病態のことを言います。 主な原因としては、薬物や化学物質による化学的な粘膜傷害、過度な嘔吐や胃酸の逆流(逆流…

    2か月前
  • 消化管穿孔

    消化管穿孔は外傷、異物、腫瘍など様々理由で生じます。今回は消化管の穿孔により細菌性腹膜炎を生じた猫を紹介いたします。 雑種猫 2歳9カ月 去勢雄 数日前から食欲…

    2年前
  • 糖尿病性ケトアシドーシス

    糖尿病性ケトアシドーシスとは内科エマージェンシーの1つであり、糖尿病が進行して発症します。発症メカニズムとしては、インスリン不足によりブドウ糖の細胞内への取り込みが減り、代…

    5年前
  • 腎瘻チューブの設置により尿管が疎通した腎盂腎炎の症例

    腎孟腎炎は腎孟および腎実質の炎症で,原因としてもっともよくみられるのは細菌感染です。 今回は腎盂腎炎に伴い尿管閉塞を起こした猫に対して、経皮的に腎瘻チューブを設置し、…

    3年前
  • 猫の尿管結石の症例

    猫の尿管結石は比較的若齢でも発生する泌尿器系の疾患です。腎臓と膀胱をつなぐ尿管に結石が閉塞することで、腎臓で産生された尿が膀胱に流れず、腎臓に貯まってしまいます(水腎症)…

    3年前