副腎腫瘍・副腎腺腫摘出
副腎腫瘍は当院で手術が可能な腫瘍です。この腫瘍はその特性上
①腫瘍の分類
②副腎皮質機能亢進症の有無
③血管への浸潤や位置関係
など考慮すべき点の多い腫瘍です。
①、②に対してはホルモン検査や、エコーレベルなどである程度の判断を下すことができますが、③に関してはCT検査が必須です。本症例は他院でクッシング症候群と診断されておりましたがセカンドオピニオンで来院され、エコー検査にて左副腎腫瘍を確認し当院でCT検査、手術を行った症例です。
マルチーズ 避妊メス
来院時、多飲多尿、多食、腹部膨満、パンティングを認めました。服用していたアドレスタンは正常な副腎への影響を考慮し休薬しました。
CT検査


CT検査では左腎臓に接している副腎腫瘍を確認しました(左図)。また副腎腫瘍の尾側後極が腎静脈に接していることが確認できます(右図)。
この時点では腎静脈内に明らかな欠損像が認められないため血管内浸潤はないと判断しました。
手術
実際の手術の写真です。開腹した直後に腫大した副腎を認めました。案の定腎静脈や後大静脈に接しており剥離には手間がかかりました。横隔副静脈は副腎腫瘍の中に埋まるように存在していたためそれらの血管に留意しながら各所から慎重に剥離していきます。


副腎腫瘍には何重もの細い血管が各方面から入っていくため、剥離には主にバイポーラを使用し剥離しました。
比較的太めの血管にはヘモクリップやソニックビートを使用し摘出しました。


本症例は病理検査の結果、副腎腺腫と診断されました。
こういった副腎腫瘍や癌の手術の際にはCT検査が有用です。腫瘍の大きさ、広がり、血管への浸潤、転移などを正確に把握する事ができます。それにより、入念な手術プランの構築に役立ち手術の成功率を上げます。また病態を『可視化』することでチーム内にも情報を共有することが可能になります。
こういった診断、治療のフローを当院では一貫させることができるのが当院の強みです。
その他の記事
-
べトスキャン イマジストが導入されました!
この度、国内初のAI技術を応用した検査と専門医による診断サービスが可能な"べトスキャン イマジスト"という検査機器が当院に導入されました! …
11か月前 -
猫の乳腺腫瘍
猫の乳腺腫瘍は犬の乳腺腫瘍と比較して悪性度が高く、おおよそ80%が悪性の癌であると言われています。雌猫に発生する腫瘍のうち17%が乳腺腫瘍であり、比較的発生率の多い腫瘍で…
8か月前
-
胆嚢破裂を起こした胆嚢粘液嚢腫の犬
胆嚢粘液嚢腫は犬の代表的な緊急疾患の一つです。以前にも当院で胆嚢摘出術は数例行っておりますが、今回は胆嚢が合破裂し胆嚢内要物が腹腔内に播種した症例をご報告いたします。 …
2年前 -
犬の乳腺腫瘍
犬の乳腺腫瘍とは、雌犬で一般的に認められる腫瘍であり、雌犬の全腫瘍中52%を占め、約半数が悪性です。臨床徴候としては乳腺内に単一または多発性に結節を認め、悪性の場合は急速…
2年前 -
肝生検
健康診断で『肝臓の数値が高いですね』と言われたことや過去に『黄疸があり大変厳しい病気です』と動物病院で診断されたことはありませんか? 猫ちゃんの肝臓の病気は栄養性、感…
5年前 -
うっ血性心不全/心原性肺水腫(犬)
心源性肺水腫とは、僧帽弁閉鎖不全症や肥大型心筋症などの心臓病によって心臓内の血液の鬱滞が悪化する事により、肺に血液中の水が押し出され呼吸困難を生じる二次的な病態で…
6年前 -
慢性腸症
慢性腸症の定義 『対症療法に抵抗性または再発性で3週間以上続く慢性の消化器症状を呈し、一般的な血液検査や画像検査で原因の特定には至らない、原因不明…
2年前 -
べトスキャン イマジストが導入されました!
この度、国内初のAI技術を応用した検査と専門医による診断サービスが可能な"べトスキャン イマジスト"という検査機器が当院に導入されました! …
11か月前 -
腎瘻チューブの設置により尿管が疎通した腎盂腎炎の症例
腎孟腎炎は腎孟および腎実質の炎症で,原因としてもっともよくみられるのは細菌感染です。 今回は腎盂腎炎に伴い尿管閉塞を起こした猫に対して、経皮的に腎瘻チューブを設置し、…
3年前 -
肺高血圧症
今回の症例は『肺高血圧症(pulmonary hypertension: PH)』です。
肺高血圧症は肺動脈圧の上昇を主として、様々な疾患から2次的に生じることの多い…5年前