新しい「がん」の血液検査:血中ヌクレオソームの測定
獣医療の発展に伴いペットの長寿化は進んでいますが、その中でも死因の上位にあげられるのが悪性腫瘍、いわゆる「がん」です。特にワンちゃんの死因では「がん」が第1位になっています。がんを早期に見つけることでがんを根治させたり、がんとうまく付き合いながら寿命を全うすることができないでしょうか?今回はがんの早期発見に役立つ新しい検査を紹介します。
「がん」の原因は?

がん細胞は健康な動物の身体の中でも毎日つくられています。通常は正常な細胞が放射線や化学物質、感染症ならびに慢性炎症などの刺激により、遺伝子(DNA)にダメージを受けるとダメージを受けた異常な細胞はさまざまな生体防御機構により、処理されるようにプログラムされています。しかし、この生体防御機能が破綻することで「がん」が発生します。
動物では特定の犬種(特に大型犬)にがんの発生率が高かったりと遺伝的な要因も示唆されています。人では喫煙(受動喫煙を含む)、過度の飲酒、塩分や塩辛い食品をとりすぎる・野菜や果物をとらない・熱すぎる飲み物や食べ物をとるなどの食生活、太りすぎ、痩せすぎ、運動不足、ウイルスや細菌への感染ががんの要因になるとされています。
「がん」を見つけるには?
従来の方法では、「がん」を見つけるには定期的な健康診断を受ける必要があります。人と違って動物では特定の腫瘍に対するがんマーカーが確立されていないため、特に画像検査(X線検査や超音波検査、CT検査など)を受けることが重要です。
一般的にがん細胞が108~9個になると「がん」の直径が1cmほどになり臨床的に検出できるようになると言われています。しかし、大きさ1cmほどの「がん」では発生した場所にもよりますが、見つけるのが困難な場合もあります。身体の大きなワンちゃんやじっとしているのが苦手なネコちゃんではX線検査や超音波検査でも麻酔や鎮静が必要になってしまうこともあります。
新しい「がん」の検査

新しい「がん」の検査では血液中のヌクレオソームを測定します。DNAはヒストンと呼ばれるタンパク質に巻き付く形で存在し、この1単位をヌクレオソームと呼びます。「がん」が存在する場合はがん細胞由来のヌクレオソームが血中に放出されます。この血中のヌクレオソームを測定することによって「がん」のリスクを評価します。特定の「がん」を見つける検査ではないですが、身体の中に潜んでいるがん細胞が多いほど高い数値が出るため、スクリーニング検査として優れています。
特に見つかりやすい「がん」の種類としてはリンパ腫や血管肉腫、組織球性肉腫、骨肉腫、肥満細胞腫、悪性黒色腫、軟部組織肉腫とされています。もちろん100%の検査ではないので結果の解釈には注意が必要ですが、健康診断的なスクリーニング検査として実施し、高い数値が出るようであれば画像検査を検討するという使い方ができるので、特に「がん」の発生の多い大型犬では有用な検査になりそうです。
検査を受けるにあたって注意事項もあります。新しい「がん」の検査を希望される方は獣医師にお尋ねください。
その他の記事
-
犬の乳腺腫瘍
犬の乳腺腫瘍とは、雌犬で一般的に認められる腫瘍であり、雌犬の全腫瘍中52%を占め、約半数が悪性です。臨床徴候としては乳腺内に単一または多発性に結節を認め、悪性の場合は急速…
2年前 -
紐状異物
紐状異物は危険な異物の一つで、特に猫に多く見られます。 消化管は食べ物を消化・吸収するために蠕動運動をしています。紐によって手繰り寄せられた消化管は、蠕動運動によって…
2年前
-
2024年の春の健康診断まとめ
今年も春の予防シーズンが落ち着き、夏本番が近づいてきていますね。今年は早い時期から猛暑が続いているので、熱中症には十分気をつけて下さい。 ここからは、今年度の4~6月…
1年前 -
心室中隔欠損症(VSD)
心臓は、様々な臓器に酸素を供給するために血液を送り出す器官です。 全身に酸素を供給した血液(=酸素が少ない血液。青い部分)を取り込んで、肺で酸素を取り込んだ血液(…
1年前 -
若い子に稀に見られる先天性門脈体循環シャントとは? │ 早期発見や実際の治療法について
先天性門脈体循環シャントは若齢の犬ちゃんや猫ちゃんで稀に認められる疾患です。 この疾患は特異的な臨床症状を示さないこともあり、詳しい検査をしないと見つからないことが多…
2日前 -
角膜疾患(潰瘍性角膜炎)
角膜疾患とは、角膜、いわゆる黒目の部分に起こる疾患を指します。角膜疾患では「目を開けずらそう」「涙や目ヤニの量が多い」「まぶしそうにしている」という症状がよく見られます。 …
2年前 -
腫瘍科
獣医療の発展に伴いペットの長寿化が進み、ペットの死因でも悪性腫瘍(ガン)が上位を占めるようになってきました。 犬の平均寿命 14.76 歳、猫の平…
2年前 -
肥満細胞腫
肥満細胞腫は、犬の皮膚腫瘍のうち20%前後を占めるため、犬の腫瘍では遭遇することの多い疾患にあたります。主にしこりの付近のリンパ節、続いて肝臓、脾臓へ転移することも多いため…
3年前 -
食道バルーン拡張術にて治療した食道狭窄の猫の1例
食道狭窄とは食道内腔が異常に狭くなることで嚥下障害が生じる病態のことを言います。 主な原因としては、薬物や化学物質による化学的な粘膜傷害、過度な嘔吐や胃酸の逆流(逆流…
7か月前 -
猫の乳腺腫瘍
猫の乳腺腫瘍は犬の乳腺腫瘍と比較して悪性度が高く、おおよそ80%が悪性の癌であると言われています。雌猫に発生する腫瘍のうち17%が乳腺腫瘍であり、比較的発生率の多い腫瘍で…
8か月前