犬の乳腺腫瘍
犬の乳腺腫瘍とは、雌犬で一般的に認められる腫瘍であり、雌犬の全腫瘍中52%を占め、約半数が悪性です。臨床徴候としては乳腺内に単一または多発性に結節を認め、悪性の場合は急速に増大し、自壊、出血、炎症を起こすこともあります。また、良性の場合も時間の経過とともに悪性に転化することもあり、長期間放置することは推奨されません。



犬の乳腺は左右5対存在し、乳腺腫瘍は乳腺近傍に発生する皮下腫瘤として認識され、特に乳腺組織の豊富な第4~5乳腺に多く発生する傾向にあります。同じ場所に肥満細胞腫やリンパ腫など、その他の腫瘍が発生することもあるため、針生検を実施することで鑑別をします。一般的には針生検のみで乳腺腫瘍の良性・悪性を判断することは難しいため腫瘍を切除し、病理検査を実施することで最終的な診断をします。
犬の乳腺腫瘍は腫瘍そのものの大きさにより、臨床ステージが分けられます。

乳腺腫瘍を切除する際にはどこまでの乳腺組織を切除するかがポイントになります。考えられる方法としては
①腫瘍のみの摘出
②罹患乳腺の切除
③領域乳腺切除(1~3乳腺、3~5乳腺)
④片側乳腺全切除 or 両側乳腺全切除
(±領域リンパ節の切除)




「診断と治療を兼ねて」今ある腫瘍のみを切除するのか、「今後の再発を予防するため」にすべての乳腺を切除するのか、犬の年齢や治療中の病気、飼い主さんの希望なども含めて総合的に選択されます。また、未避妊の雌犬では乳腺腫瘍の発生率が高くなるため、卵巣腫瘍や子宮蓄膿症などの病気を予防するも兼ねて同時に避妊手術を実施することが推奨されています。
術後の病理検査の結果によっては抗がん剤による治療が必要になることもありますが、早期に手術された症例では追加の治療が必要ないことが多いです。
また先述の通り、犬の乳腺腫瘍の発生はホルモン依存性であるとされており、早期に避妊手術を実施することで予防ができます。初回発情前の避妊手術で、乳腺腫瘍の発生率は0.05%、初回発情後では8%、2回目発情以降では26%と、発情の回数と関連があると報告されています。避妊手術にもメリット・デメリットはありますが、乳腺腫瘍に関しては、実施することで大きなメリットがあると言えます。まだ避妊手術を実施されていない方は一度考えていただいても良いかもしれません。
また、乳腺腫瘍は大きくなると臨床ステージが進み予後も悪くなるため、早期に治療をお勧めします。
・腫瘍科のページ
その他の記事
-
口腔内腫瘤に対して下顎部分切除を実施した犬の1症例
犬の口腔内腫瘍には悪性黒色腫、扁平上皮癌、線維肉腫など様々な種類の腫瘍が発生することが報告されています。この中でも、悪性黒色腫は悪性度の高い口腔内腫瘍の中で最も発生率の高…
3か月前 -
そのガーガー音 “気管虚脱” かもしれません
呼吸をするときに " ガーガー " とガチョウが鳴くような異常な呼吸音がする時はありませんか?その異常な呼吸はもしかしたら気管虚脱かもしれません。気管虚脱は特に小型犬に多…
1か月前
-
尾状葉乳頭突起の肝葉切除(肝細胞癌)
犬の肝臓の腫瘍性疾患において一番多く発生する腫瘍は肝細胞癌です。日常の臨床的にもよく遭遇する腫瘍で、発生の形態によって孤立性、多発性、び慢性に分けられます。経過としては徐々…
2年前 -
ネコちゃんに多い内分泌疾患 甲状腺機能亢進症
甲状腺は喉にあり、甲状腺ホルモンを分泌します。甲状腺から異常にホルモンが分泌されてしまう病気を甲状腺機能亢進症と言います。 診断するにはそれほど複雑…
2年前 -
呼吸器科
『当院では、様々な呼吸器疾患に対し質の高い診断や治療が可能にするために血液検査機器、血液ガス検査機器、胸部レントゲン検査、気管支鏡検査、ICU(集中治療室)、およ…
3年前 -
犬の急性膵炎について解説 | 実は重症化すると命に関わる可能性のある恐ろしい病気です
”急にお腹を痛がりだした”、”ぐったりしてなにもご飯をたべない”などの症状が見られることはありませんか?このような症状が見られる場合は急性膵炎の可能性があります。 …
3週間前 -
2024年の春の健康診断まとめ
今年も春の予防シーズンが落ち着き、夏本番が近づいてきていますね。今年は早い時期から猛暑が続いているので、熱中症には十分気をつけて下さい。 ここからは、今年度の4~6月…
2年前 -
犬の瞬膜腺脱出(チェリーアイ)とは? | 実際の手術写真を使って解説
瞬膜腺とは内眼角側にあるT字型の軟骨を支えに存在しています。この瞬膜は眼球の物理的な保護、眼脂の除去、涙を眼球に広げてくれるなどの働きがあり、瞬膜の裏側に存在するのが瞬膜腺…
1年前 -
犬の口臭の裏に潜むリスクとは?|考えられる原因と対策を解説
愛犬の顔に近づいたとき、「いつもより口が臭うかも…」と感じたことはありませんか? こうしたニオイは単なる不快な症状ではなく、犬の体の中で起きている異常を知らせ…
1年前 -
犬と猫の混合ワクチンについて | どれが家の子に合うの?
コロナの影響によって”ワクチン”という言葉をよく耳にするかと思います。わんちゃん、ねこちゃんと一緒にいると、はがきなどによって混合ワクチンのお知らせが届くと思います…
3年前
