ご予約はこちら
045-932-5151
2022年11月26日

猫の盲腸腺癌

猫の体重減少には様々な原因があります。甲状腺機能亢進症や慢性腎不全、糖尿病や腫瘍などが代表的な疾患です。特に、このような病気は急激に体調に変化をもたらすわけではなく、ゆっくり進行するため飼い主様には分かりづらく気付いたときには手遅れになっていることもあります。

今回、は食欲の低下が認められず、体重減少と間欠的な下痢のみが認められた猫の盲腸腺癌の症例をご紹介します。

症例 14歳5か月 雑種猫 避妊雌 

食欲がある割には体重が減ってきているとの事。一時期4.0㎏あった体重は来院時には2.04kgまで減少していました。血液検査では軽度の貧血と高血糖以外には顕著な異常は認められませんでした。腹部エコー検査では結腸リンパ節の腫大と回盲結行部に5層構造の破壊された腫瘤性病変を認めました。(下図)

回盲結行部の腫瘤
結腸リンパ節腫大

エコーガイド下にて針生検を行い、リンパ腫などの独立円形細胞の腫瘍を除外した上で、外科的切除を行いました。開腹し、腫瘤を確認すると周囲の腸間膜と癒着しており、自壊も認められました。

腸間膜が癒着している腫瘤
自壊した腫瘍

近傍リンパ節も腫大が認められましたが、大きな動脈に接していたためすべて取りきることは不可能だったため、切除部位は腫大したリンパ節も切除範囲にできるだけ含まれるように決定し、可能な限り切除しました。切除後結腸と回腸を端々吻合したのち腹腔内を洗浄しアクティブドレーンを設置し、閉腹しました。

術後食欲の減退が良そうされたため食道婁チューブを設置して終了としました。

病理検査の結果は【盲腸腺癌】でした。幸い脈管浸潤、リンパ節の転移もなく完全切除と診断されましたが、消化管の腺癌は高確率に転移する可能性があるので今後の予後にも注意が必要と考えます。

とはいえこの手術に耐えてくれた猫さんは徐々にではありますが食欲も増加し体重も増えておりひとまずは回復傾向で過ごしてくれております。

 今回は消化管の腫瘍でしたが、特に高齢の猫さんは症状のわかりにくい病気がたくさんあります。最近体重が減ってきた、食欲が落ちてきた、歳かな?と感じたら一度健康診断のご相談をしてみてください。

その他の記事

  • 全耳道切除・鼓室法切開

    慢性外耳炎・中耳炎  慢性外耳炎は、日常の診療でよく遭遇する疾患です。この疾患はどの犬種にも生じますが、特にアメリカン・コッカー・スパニエルやシーズーなど原発性脂漏症…

    3年前
  • 腹腔鏡下肝生検

     ワンちゃんやネコちゃんでも健康診断で肝臓の数値が高い子を多くみかけます。一般的には症状がなく、元気そうにみえる子がほとんどですが、重病が隠れていることもあります。 …

    1年前
  • 犬の口腔内無顆粒性悪性黒色腫

    犬の口腔内腫瘍には悪性黒色腫、扁平上皮癌、線維肉腫など様々な種類の腫瘍が発生することが報告されています。この中でも悪性黒色腫は口腔内腫瘍の中で最も発生率の高い腫瘍とされ、半…

    1年前
  • 犬の瞬膜腺脱出(チェリーアイ)とは?

    瞬膜腺とは内眼角側にあるT字型の軟骨を支えに存在しています。この瞬膜は眼球の物理的な保護、眼脂の除去、涙を眼球に広げてくれるなどの働きがあり、瞬膜の裏側に存在するのが瞬膜腺…

    3か月前
  • 紐状異物

    紐状異物は危険な異物の一つで、特に猫に多く見られます。 消化管は食べ物を消化・吸収するために蠕動運動をしています。紐によって手繰り寄せられた消化管は、蠕動運動によって…

    2年前
  • 狂犬病予防

    ”狂犬病予防接種”、皆さんは毎年きちんと接種されていますか?どうして毎年接種しないといけないの?接種の必要はあるの?と思う方もいるかもしれません。狂犬病は皆さんが思…

    2年前
  • 猫の乳腺腫瘍

     猫の乳腺腫瘍は犬の乳腺腫瘍と比較して悪性度が高く、おおよそ80%が悪性の癌であると言われています。雌猫に発生する腫瘍のうち17%が乳腺腫瘍であり、比較的発生率の多い腫瘍で…

    8か月前
  • 短頭種気道症候群

    短頭種気道症候群とは多くが先天性で、パグやフレンチブルドッグなど短頭種に生じる疾患の総称です。外鼻腔狭窄、軟口蓋過長症、気管低形成を先天的に生じ、持続的な気道抵抗の増加によ…

    2年前
  • 酸素中毒

     皆さんは「酸素中毒」というものをご存じでしょうか。スキューバダイビングなどで酸素ボンベを使ったことがある方は耳にされたことがあるかもしれませんが、実は酸素にも中毒…

    3年前
  • 犬の乳腺腫瘍

     犬の乳腺腫瘍とは、雌犬で一般的に認められる腫瘍であり、雌犬の全腫瘍中52%を占め、約半数が悪性です。臨床徴候としては乳腺内に単一または多発性に結節を認め、悪性の場合は急速…

    2年前