2022年9月27日
肥満細胞腫
肥満細胞腫は、犬の皮膚腫瘍のうち20%前後を占めるため、犬の腫瘍では遭遇することの多い疾患にあたります。主にしこりの付近のリンパ節、続いて肝臓、脾臓へ転移することも多いため、体表にしこりを見つけた際には全身の検査が必要になります。肥満細胞腫は、性質上、そのしこりをむやみに触ったりぶつけたりなどの刺激を与えることでその周囲が赤く腫れ上がったり、浮腫んだりすることがあります(これをダリエ兆候といいます)ので、しこりが腫れてきた場合にも注意が必要です。
8歳、ボストンテリア、雄。
当院で初めてワクチン接種をする際、数年前からある大きさの変化のないしこりの相談を受けました。
しこりは左大腿部と左の第5乳腺領域の2ヶ所にありました。細胞診検査(針を刺して、とれた細胞を染色して顕微鏡でみる検査)を行い、肥満細胞腫と診断しました。
X線検査、超音波検査、細胞診検査で明らかな遠隔転移は認められなかったため、腫瘍の摘出とステージングのための領域リンパ節切除を実施しました。サージカルマージンは水平で1.5cm、底部で筋膜1枚としました(図)。
病理検査ではKiupel分類(2段階評価)で低グレード、Patnaik分類(3段階評価)でグレードⅡ、リンパ節転移はなく、完全切除が達成されました。
手術後、現在は再発もなく元気に過ごしています。
肥満細胞腫は、グレードが低く完全切除が達成されれば、予後が良好な腫瘍疾患です。
別名「偉大なる詐欺師」とも呼ばれ、その見た目だけでは判断が難しい腫瘍です。昔からあるしこりでも、予防のときや何かの折に獣医さんに相談しましょう!
その他の記事
-
2023年度 春の健康診断 結果報告🌸
こんにちは、しょう動物病院です。 今年もあっという間で、残すところ後2か月となりました。急に冷え込み体調を崩してしまう子が増えたように感じます。 例年通り、今年…
2年前 -
消化管穿孔
消化管穿孔は外傷、異物、腫瘍など様々理由で生じます。今回は消化管の穿孔により細菌性腹膜炎を生じた猫を紹介いたします。 雑種猫 2歳9カ月 去勢雄 数日前から食欲…
2年前
-
内視鏡 異物除去
内視鏡症例をご紹介いたします。 果物の種を飲み込んでしまったワンちゃんで内視鏡によって摘出を行いました。 異物、誤食の中で桃の種など果物の種は高確率に腸…
5年前 -
腹腔鏡下肝生検
ワンちゃんやネコちゃんでも健康診断で肝臓の数値が高い子を多くみかけます。一般的には症状がなく、元気そうにみえる子がほとんどですが、重病が隠れていることもあります。 …
2年前 -
副腎腫瘍について解説 | よくお水を飲む、尿が薄くて多いは病気に初期症状かも!?
最近「お水を飲む量が多い」「おしっこが薄くて多い」「食欲がありすぎる」などの症状が見られることはありませんか? 副腎腫瘍では症状は多岐にわたり、無症状の場合もあり…
5日前 -
慢性腸症
慢性腸症の定義 『対症療法に抵抗性または再発性で3週間以上続く慢性の消化器症状を呈し、一般的な血液検査や画像検査で原因の特定には至らない、原因不明…
2年前 -
若い子に稀に見られる先天性門脈体循環シャントとは? │ 早期発見や実際の治療法について
先天性門脈体循環シャントは主に若齢の犬ちゃんや猫ちゃんで稀に認められる病気です。 この疾患は特異的な臨床症状を示さないこともあり、詳しい検査をしないと見つからないこと…
2か月前 -
食道バルーン拡張術にて治療した食道狭窄の猫の1例
食道狭窄とは食道内腔が異常に狭くなることで嚥下障害が生じる病態のことを言います。 主な原因としては、薬物や化学物質による化学的な粘膜傷害、過度な嘔吐や胃酸の逆流(逆流…
8か月前 -
猫の心筋症:肥大型心筋症(HCM)
心筋症には4つの代表的な分類が存在します。①肥大型心筋症(HCM)、②拘束型心筋症(RCM)、③拡張型心筋症(DCM)、④不整脈源生右室心筋症(ARVC)の4つに分類されて…
2年前 -
猫の会陰尿道造瘻術
尿石症(腎結石や尿管結石、膀胱結石など)は若い猫ちゃんでも起こる一般的な病気です。猫ちゃんにできやすい結石はストルバイト結石とシュウ酸カルシウムの2種類です。 …
2年前
