高悪性度消化器型リンパ腫を外科摘出後、抗がん剤を行なった猫
消化器型リンパ腫は猫のリンパ腫のうち最も多くの割合を占めるものであるのと同時に、猫の消化管において最も発生率の高い腫瘍としても知られています。
症例 猫 雑種 7歳 避妊メス
下痢と食欲不振を主訴に来院しました。血液検査と腹部超音波検査を実施したところ空腸遠位から回腸にかけて5層構造が消失し、粘膜の重度肥厚を呈した腫瘍を確認しました。CT検査において回腸腫瘤及び転移を疑う結腸リンパ節の腫大も認められました。


FNAにより大細胞性リンパ腫を強く疑診いたしました。リンパ腫は基本的に抗がん剤が適応になる腫瘍ですが、消化器型リンパ腫は抗がん剤への治療成績が悪く、抗がん剤投与後に消化管穿孔を生じることも珍しくありません。今回は周囲リンパ節の腫大は認めたものの腫瘍は限局性であったため、飼い主様と相談の上外科的に摘出したのち補助療法として抗がん剤を行うことを決定しました。


外科手術では腫瘤を摘出したのち回腸遠位と空腸近位を吻合いたしました。リンパ腫など腫瘍を摘出する際には吻合する組織に腫瘍細胞が存在する場合があるため、丁寧に縫合する必要があります。また当院では術後に吻合部位が離開しても対処が行えるように、アクティブドレーンを設置して閉腹します。



術後の経過は良好で創部の理解も認められませんでした。

病理検査及びクローナリティ検査にて上記診断が得られました。本症例では外科治療後の補助療法としてCOPプロトコールを取り入れ完全寛解に突入。現在も寛解状態が継続していると考えられます。
リンパ腫は猫では本当に発生が多く、発生する場所によって様々な経過をたどります。ベースとなる治療は抗がん剤ですが、本症例のように限局した腫瘤を形成するリンパ腫の場合は外科的に摘出をしたのちに補助的に抗がん剤を使用することもあります。
猫のリンパ腫も多く診察しておりますので、お悩みのことがあればいつでもご相談ください。
その他の記事
-
猫の会陰尿道造瘻術
尿石症(腎結石や尿管結石、膀胱結石など)は若い猫ちゃんでも起こる一般的な病気です。猫ちゃんにできやすい結石はストルバイト結石とシュウ酸カルシウムの2種類です。 …
2年前 -
腎瘻チューブの設置により尿管が疎通した腎盂腎炎の症例
腎孟腎炎は腎孟および腎実質の炎症で,原因としてもっともよくみられるのは細菌感染です。 今回は腎盂腎炎に伴い尿管閉塞を起こした猫に対して、経皮的に腎瘻チューブを設置し、…
3年前
-
犬・猫の混合ワクチン
コロナの影響によって”ワクチン”という言葉をよく耳にするかと思います。わんちゃん、ねこちゃんと一緒にいると、はがきなどによって混合ワクチンのお知らせが届くと思います…
2年前 -
角膜疾患(潰瘍性角膜炎)
角膜疾患とは、角膜、いわゆる黒目の部分に起こる疾患を指します。角膜疾患では「目を開けずらそう」「涙や目ヤニの量が多い」「まぶしそうにしている」という症状がよく見られます。 …
2年前 -
犬アトピー性皮膚炎|病態について
アトピー性皮膚炎とは、 「遺伝的素因を有した、痒みを伴うT細胞(炎症細胞の一種)を主体とした炎症性皮膚疾患」 と定義されています。 「遺伝的素因」を有して…
11か月前 -
紐状異物
紐状異物は危険な異物の一つで、特に猫に多く見られます。 消化管は食べ物を消化・吸収するために蠕動運動をしています。紐によって手繰り寄せられた消化管は、蠕動運動によって…
2年前 -
犬の弁膜症:僧帽弁閉鎖不全症(MMVD)
犬の弁膜症:僧帽弁閉鎖不全症(MMVD) 僧帽弁閉鎖不全症(以下 MMVD)は犬の心臓病の代表的な疾患です。犬の心臓の構造は人と類似しており、2心房2心室で…
2年前 -
猫の尿管結石の症例
猫の尿管結石は比較的若齢でも発生する泌尿器系の疾患です。腎臓と膀胱をつなぐ尿管に結石が閉塞することで、腎臓で産生された尿が膀胱に流れず、腎臓に貯まってしまいます(水腎症)…
3年前 -
肋間開胸術による犬の肺腫瘍切除
今回は他院にてレントゲン撮影をした際に肺腫瘍が見つかり、セカンドオピニオンとして当院を受診し、CT検査及び肺葉切除によって腫瘍を摘出した一例を紹介します。 a …
8か月前 -
”麻酔前検査”をお勧めしています
手術をするにあたって、人の場合と同様に犬ちゃん猫ちゃんにも全身麻酔をかける必要があります。麻酔前検査では、この全身麻酔が安全にかけられるかどうかを評価するための検査となり…
2年前