胸腺腫摘出を実施した猫の1症例 | 実際の手術写真を用いて解説
胸腺腫とは犬や猫で稀に発生する前縦隔腫瘍の一つです。
胸腺は若齢動物では発達していますが、基本的に成長とともに萎縮し小さくなります。胸腺腫では、この胸腺の上皮細胞が増大し、腫大することで胸腺腫になります。
初期の頃では自覚症状がほとんど認められないため、健康診断をしたら偶発的に見つかったなんてこともあるような病気になります。
今回は猫の胸腺腫について実際の症例を紹介しながら解説していきます。

📌目次


胸腺腫とは?

胸腺腫とは前縦隔部に発生する胸腺上皮細胞由来の腫瘍です。犬と猫では稀に発生する前縦隔腫瘍であり、猫では前縦隔に発生する疾患では2番目に多い腫瘍となります。この腫瘍はどの年齢でも発生が認められますが、平均9~10歳齢と通常は高齢での発生が多いとされていて、発生原因は未だ不明です。胸腺腫は悪性度により、胸腺腫と胸腺癌および浸潤性胸腺腫に分類されています。

症状

胸腺腫による症状は、腫瘤の増大による物理的な問題(嘔吐、食欲不振、咳、頻呼吸、呼吸困難など)が挙げられますが、自覚症状がほとんどなく、無症状な状態でも見つかることが多いです。また、腫瘍随伴症候群(重症筋無力症、剥離性皮膚炎、高カルシウム血症、T細胞性リンパ球増加症など)による問題が挙げられます。

診断

診断としては前縦隔腫瘤を疑う胸腔内腫瘤をレントゲン検査にて認めた場合、胸腺腫が疑われますが、最終的には細胞診検査にて仮診断が付きます。


引用:犬と猫における細胞診の兵法

治療

治療には、根治を目的とするのであれば外科手術が、あくまで縮小が目的であれば放射線治療や内科治療が適応となります。手術で治療された場合は、予後は良好で、浸潤性が認められない場合は根治が得られることも多いです。しかし、一部の症例では、再発や胸腔内播種、稀に遠隔転移が認められる場合もあるため注意が必要となります。

☟ここからは実際に胸腺腫と診断された猫ちゃんについて紹介していきます。
症例情報

6歳9カ月のスコティッシュ・フォールドの猫ちゃんです。
他院で前胸部に腫瘤性病変を認めたため、精査の目的で本院を受診しました。


検査
レントゲン検査では前縦隔領域に腫瘤を疑う構造物が認められました。

CT検査も実施しましたが、前縦隔領域に腫瘤性病変が認められ、胸腺腫を第一に疑い、根治を目的に外科手術を実施することとなりました。

実際の手術


腫瘍周囲には、迷走神経や横隔神経などの神経が走っているため、処理の際は注意が必要になります。また、周囲には内胸動脈や前大静脈といった大血管も走っているため、こちらも細心の注意が必要になります。


摘出組織
こちらは摘出した腫瘍の写真になります。


術部


病理組織学的検査の結果

病理組織学的検査の結果は胸腺腫疑いとの結果でした。


まとめ

外科手術で治療された胸腺腫の犬と猫の予後は良好で、浸潤性が認められない場合は根治が得られることも多いです。手術のみで治療がされた胸腺腫の生存期間中央値は、犬で790日、猫で1825日との報告もあり、比較的良好なことが多いです。対して、外科手術をしなかった場合は生存期間中央値が76日とかなり短くなってしまします。
また、一部の症例で再発や胸腔内播種が認められる場合もあるため注意が必要となります。
他の腫瘍性疾患について⇨こちら

Q&A

Q. 胸腺腫に対する治療法はどんなものがありますか?
A. 根治を目的とする場合には外科手術が、腫瘍の縮小を目的とする場合には放射線治療が適応となります。放射線治療や内科治療によって、腫瘍の縮小が認められれば外科手術が適応になる場合もあります。
Q. 胸腺腫に対する手術は実施していますか?
A. はい、実施しています。胸腺腫についてお悩みの場合はぜひ一度ご相談ください。
Q. 胸腺腫は治りますか?
A. 外科適応でかつ浸潤性が認められない場合には根治が期待できます。発見した際に、増大していたとしても、放射線治療やステロイドにより縮小が認められれば、外科手術が適応となり根治が認められる場合もあります。
Q. 胸腺腫は他にどんな問題が起こりますか?
A. 腫瘍が大きくなってくることによっておこる物理的な問題(嘔吐、食欲不振、体重減少、咳、頻呼吸、呼吸困難など)や腫瘍随伴症候群(重症筋無力症、剥離性皮膚炎、高カルシウム血症、T細胞性リンパ球増加症など)による問題が挙げられます。
Q. 胸腺腫は再発しますか?
A. 完全切除ができ、浸潤性が認められない場合の再発率は低く、長期的な予後も良好な場合が多いです。しかし、一部の症例では再発や胸腔内播種、遠隔転移が認められていることもあるので注意が必要となります。
その他の記事
-
若い子に稀に見られる疾患、先天性門脈体循環シャントとは? │ 早期発見や実際の治療法について
先天性門脈体循環シャントは主に若齢の犬ちゃんや猫ちゃんで稀に認められる病気です。 この疾患は特異的な臨床症状を示さないこともあり、詳しい検査をしないと見つからないこと…
6か月前 -
犬の股関節脱臼の外科的整復(大腿骨頭切除)
犬の起こりやすい外科疾患の中に股関節脱臼というものがあります。股関節脱臼は全ての外傷性脱臼の中でも最も発生が多く、全ての年齢に起こり、犬種や性差に関係なく発生します。主…
1年前
-
両側に胸腔ドレーンを設置し救命した膿胸の猫
救急診療時間内にきた膿胸の猫の一例を紹介いたします。 症例 雑種猫 1歳 避妊メス 数日前から元気がなく今日になって呼吸が苦しそうとのことで来院されました。…
2年前 -
犬の甲状腺機能低下症について | 元気がないや皮膚症状は甲状腺機能低下症の初期症状かも?
" 最近元気がない " や " 皮膚症状が出てくるようになった " といった症状が見られることはありませんか?もしかしたら、甲状腺機能低下症の初期症状かもしれません。 …
3か月前 -
発作重責・脳炎
犬によく見られる特発性髄膜脳脊髄炎の一種で、多因性の疾患であり、明確な原因は不明です。臨床症状は大脳病変の部位によって異なり、発作や虚弱、旋回運動、視覚障害などを呈し、最終…
6年前 -
内視鏡で誤食した釣り針を摘出
釣り針を食べてしまったとの事で来院した7カ月のワンちゃん。 X線検査を実施すると胃の中に釣り針が・・・。 釣り針のような尖ったものは…
3年前 -
犬の甲状腺機能低下症について | 元気がないや皮膚症状は甲状腺機能低下症の初期症状かも? ~検査および診断編~
こちらの記事では甲状腺機能低下症における検査および診断について解説していきます。 甲状腺機能低下症では、様々な検査が検査が併用される場合があります。 甲状腺機…
2か月前 -
尿石症
尿石症とは、尿路のいずれかの部位で、尿中の溶解性の低い晶質から結石形成に至り、これが停留し成長することによって尿路の炎症・頻尿・乏尿・閉塞などの徴候を引き起こす疾患です。そ…
6年前 -
尾状葉乳頭突起の肝葉切除(肝細胞癌)
犬の肝臓の腫瘍性疾患において一番多く発生する腫瘍は肝細胞癌です。日常の臨床的にもよく遭遇する腫瘍で、発生の形態によって孤立性、多発性、び慢性に分けられます。経過としては徐々…
2年前 -
2022年の健康診断のまとめ
季節が過ぎるのは早いもので、あっという間に新年度を迎えました。 今年もワンちゃんのフィラリアの検査・予防が始まる時期になりました。 当院ではフィラリアの予防を始…
3年前
