甲状腺腺腫および肺腺癌に対して外科的介入を実施した猫の1症例 | 実際の手術写真を用いて解説
” 最近食欲はあるのに体重は減ってきている ”
” 落ち着きがなくなり、攻撃的になったり、夜中に鳴くようになった ”
このような症状が認められることはありませんか?
猫ちゃんは歳を取ってくると甲状腺というホルモンの病気が多く見られるようになります。この病気の症状は非特異的であり、体重減少や被毛粗剛など老齢的な変化で認められる症状もあり、症状だけでは見つけることが困難な病気でもあります。
今回は甲状腺腺腫および偶発的に肺腺癌が認められた猫ちゃんの症例を紹介いたします。

📌目次
甲状腺腫瘤とは?
猫の甲状腺腫瘤は主に良性腫瘍が多く、特に高齢猫での発生が多いとされています。悪性の甲状腺癌は全体の約1~3%程度とされ非常に稀であるとされています。多くは良性腫瘤ではありますが、腫瘤の多くは機能性(過剰に働くもの)であるため、甲状腺機能亢進症の原因になるともされています。そのため、甲状腺機能亢進症の臨床兆候が認められる高齢の猫では注意が必要となります。
治療法は、国内では抗甲状腺薬や外科的切除が主に実施されていますが、甲状腺癌を除外した甲状腺機能亢進症では抗甲状腺薬による内科治療が用いられています。内科治療でコントロールが困難な場合や副作用が強く生じた場合には外科的切除が検討されます。
甲状腺機能亢進症について⇨こちら

肺腺癌とは?
猫の肺腫瘤は犬と同様、悪性腫瘍の確率が高く肺腺癌は原発性肺腫瘍の中でも発生が多く、肺腫瘍全体の60~70%を占めているとされています。
また、猫の原発性肺腫瘤は犬と比較して進行が非常に早いものが多く、強い転移性を有しているため、原発性肺腫瘍の猫の75%以上の症例が、発見された時点ですでに肺内転移や遠隔転移を起こしている確率が高いのが現状です。そのため、外科手術に進む際には慎重なステージングが必要とされます。
犬の肺腫瘍の外科手術症例について⇨こちら

ここからは甲状腺腺腫および肺腺癌を患った13歳の猫ちゃんについて紹介していきます

症例情報
症例は13歳のスコティッシュ・フォールドの男の子です。
他院で甲状腺機能亢進症の治療をしていましたが、コントロールが難しくなり、本院を受診されました。内科治療でのコントロールが困難だったため、精査の目的でCT検査を実施しました。

検査
CT検査の結果、右甲状腺に結節性病変、左肺後葉に腫瘤性病変がそれぞれ認められました。
甲状腺腫瘤だけでなく、偶発的に肺腫瘤も認められたため、甲状腺の摘出と同時に肺腫瘤も摘出することとなりました。


実際の手術

甲状腺摘出


肺腫瘍摘出


摘出組織


術部


病理組織学的検査の結果
病理組織学的検査の結果では、甲状腺は多発性甲状腺腺腫、肺は肺腺癌との診断でした。
また、肺腺癌は組織学的には低悪性度の肺腺癌と診断されました。
猫ちゃんの原発性肺腫瘍外科治療後の生存期間中央値は115日程度とされていますが、臨床症状の有無、組織学的な悪性度、リンパ節転移の有無などが予後関連因子とされ、これに当てはまるかどうかで生存期間も大きく変わってきます。対して、無治療の場合は65日程度とかなり短くなってしまいます。
今回手術を実施した猫ちゃんは、低悪性度かつ転移も認められていないため、生存期間もおそらく長いと考えられます(悪性度が中等度の場合は698日程度との報告もあります)。


まとめ
術後半年が経過しましたが、今のところ明らかな再発も認められず、普通の猫ちゃんと変わらず元気に過ごしています。また、術後は甲状腺のコントロールも良好になっています。
ここからは、転移がないか、症状に変化が出てこないかは引き続き見ていく必要がありますが、ひとまずは安心です。
肺腫瘤は初期では症状が出にくいが、進行がとても速いため、発見が難しい病気になります。また、甲状腺の病気も症状は非特異的なため、早期に分かることが難しい場合もあります。そのため、早期発見のために定期的な健康診断が非常に重要となってきます。7歳を超えてきた場合には腫瘍の発生も考えられる年齢になりますので、そろそろ高齢になってきたなと思った場合には、ぜひ健康診断の実施を検討することをお勧めいたします。


Q&A
Q. 甲状腺腺腫の治療法は?
A. 国内では抗甲状腺薬による内科治療が一般的です。内科治療でコントロールが困難な場合は外科的切除が適応になる場合があります。
Q. 肺腺癌および甲状腺腫瘤に対する外科的切除は実施していますか?
A. はい、実施しています。肺葉切除や甲状腺摘出をご検討の場合はご連絡ください。
Q. 肺腺癌の早期発見は?
A. 肺腺癌は初期には症状も出にくく、早期発見は難しい病気になります。そのため、定期的な健診を行うことで早期発見に繋がる可能性があります。
Q. 早期発見のためにはどうしたらいいですか?
A. お家でも症状をよく観察してもらい、食欲増進・多飲多尿・体重減少・被毛の粗剛化などの症状を認めたら、早めに病院を受診下さい。また、定期的な検診を実施することも早期発見に繋がります。
その他の記事
-
犬・猫の去勢手術
【去勢手術のタイミングは?】 去勢手術をするにあたって、この時期・この年齢に必ず受けないといけないというものはございません。しかし、子犬・子猫ちゃんの場合は、性成熟を…
2年前 -
腎瘻チューブの設置により尿管が疎通した腎盂腎炎の症例
腎孟腎炎は腎孟および腎実質の炎症で,原因としてもっともよくみられるのは細菌感染です。 今回は腎盂腎炎に伴い尿管閉塞を起こした猫に対して、経皮的に腎瘻チューブを設置し、…
4年前
-
犬と猫の慢性腎臓病(CKD)について解説 | 多尿や体重減少は慢性腎臓病の初期症状かもしれません! ~治療編~
こちらの記事では慢性腎臓病(CKD)の治療法について解説していきます。 今までの記事でも解説した通り、慢性腎臓病の治療法はステージによって治療も異なります。 …
3か月前 -
犬の瞬膜腺脱出(チェリーアイ)とは? | 実際の手術写真を使って解説
瞬膜腺とは内眼角側にあるT字型の軟骨を支えに存在しています。この瞬膜は眼球の物理的な保護、眼脂の除去、涙を眼球に広げてくれるなどの働きがあり、瞬膜の裏側に存在するのが瞬膜腺…
11か月前 -
慢性腸症
慢性腸症の定義 『対症療法に抵抗性または再発性で3週間以上続く慢性の消化器症状を呈し、一般的な血液検査や画像検査で原因の特定には至らない、原因不明…
2年前 -
若い子に稀に見られる疾患、先天性門脈体循環シャントとは? │ 早期発見や実際の治療法について
先天性門脈体循環シャントは主に若齢の犬ちゃんや猫ちゃんで稀に認められる病気です。 この疾患は特異的な臨床症状を示さないこともあり、詳しい検査をしないと見つからないこと…
8か月前 -
犬アトピー性皮膚炎|病態について
アトピー性皮膚炎とは、 「遺伝的素因を有した、痒みを伴うT細胞(炎症細胞の一種)を主体とした炎症性皮膚疾患」 と定義されています。 「遺伝的素因」を有して…
2年前 -
肥満細胞腫
肥満細胞腫は、犬の皮膚腫瘍のうち20%前後を占めるため、犬の腫瘍では遭遇することの多い疾患にあたります。主にしこりの付近のリンパ節、続いて肝臓、脾臓へ転移することも多いため…
4年前 -
幽門狭窄の症例に対して内視鏡下でポリペクトミーを実施した犬の1例
ご飯を食べてから時間が経っているのに吐き戻すなんてことはありませんか? 嘔吐という症状はよく認められる症状のひとつなため、どんな疾患でも考えられるものになります。…
7日前 -
犬と猫の副腎腫瘍について解説 | よくお水を飲む、尿が薄くて多いは病気の初期症状かも!?
最近「お水を飲む量が多い」「おしっこが薄くて多い」「食欲がありすぎる」などの症状が見られることはありませんか? 副腎腫瘍では症状は多岐にわたり、無症状の場合もあり…
6か月前
