糖尿病性ケトアシドーシス
糖尿病性ケトアシドーシスとは内科エマージェンシーの1つであり、糖尿病が進行して発症します。発症メカニズムとしては、インスリン不足によりブドウ糖の細胞内への取り込みが減り、代償性に中性脂肪がβ酸化を起こし、ケトン体が産生され、代謝性アシドーシスが引き起こされることにより発症します。同時に、高血糖が進んだ結果浸透圧利尿がかかり脱水が起きるため、単純にインスリンを投与しても効かなくなってしまいます。診断基準は、持続的な高血糖、尿ケトン陽性、代謝性アシドーシスの3つを満たすことが条件です。
(犬と猫の内分泌疾患ハンドブック 32-37p 2019.2 学窓社 より)
猫 雑種 16歳 去勢雄
主訴:食欲低下、ふらつき、多飲多尿
来院時全身状態は悪く、脱水も重度であったため、血液検査を行いました。結果、600mg/dLを超える高血糖に加え、血漿中ケトンが検出されたため、脱水の改善を目的として入院下で点滴治療を始めました。その後インスリンの持続点滴を開始し、定期的に血糖値、電解質、腎数値、リン、カルシウム、尿ケトンを測定していき、ケトアシドーシスの状態を脱するまで集中管理を行いました。
尿ケトンが検出されなくなり、自由摂食・飲水が可能になった後は、インスリンを持続点滴から注射薬に変更し、自宅でのインスリン投与で血糖値を適正範囲でキープできるようにインスリンの用量を調整しました。
退院後は併発疾患である膵炎の再発に十分注意しながら経過を追っています。
今回は糖尿病性ケトアシドーシスまで進行した状態で来院した症例でした。糖尿病は初期段階では多飲多尿などの徴候のみ認められ、全身状態の悪化など飼い主様が気づく異常が発生しない場合が多々あります。そのため、当院では定期的な血液検査による血糖値の測定をお勧めしております。
その他の記事
-
腹腔鏡下避妊手術
開腹手術では上からの視点のみで、傷口を大きく開かない限り腹腔内をよく観察することは難しいです。 胆嚢や肝臓 膀胱 …
1年前 -
肝生検
健康診断で『肝臓の数値が高いですね』と言われたことや過去に『黄疸があり大変厳しい病気です』と動物病院で診断されたことはありませんか? 猫ちゃんの肝臓の病気は栄養性、感…
5年前
-
猫の乳腺腫瘍
猫の乳腺腫瘍は犬の乳腺腫瘍と比較して悪性度が高く、おおよそ80%が悪性の癌であると言われています。雌猫に発生する腫瘍のうち17%が乳腺腫瘍であり、比較的発生率の多い腫瘍で…
7か月前 -
呼吸器科
『当院では、様々な呼吸器疾患に対し質の高い診断や治療が可能にするために血液検査機器、血液ガス検査機器、胸部レントゲン検査、気管支鏡検査、ICU(集中治療室)、およ…
2年前 -
ネコちゃんに多い内分泌疾患 甲状腺機能亢進症
甲状腺は喉にあり、甲状腺ホルモンを分泌します。甲状腺から異常にホルモンが分泌されてしまう病気を甲状腺機能亢進症と言います。 診断するにはそれほど複雑…
6か月前 -
肝生検
健康診断で『肝臓の数値が高いですね』と言われたことや過去に『黄疸があり大変厳しい病気です』と動物病院で診断されたことはありませんか? 猫ちゃんの肝臓の病気は栄養性、感…
5年前 -
循環器科
循環器疾患とは血液を全身に循環させる臓器(心臓や血管など)が正常に働かなくなる疾患のことです。代表的な疾患としては、心臓病(弁膜症、心筋症)、高血圧、脳血管障害などがありま…
2年前 -
高悪性度消化器型リンパ腫を外科摘出後、抗がん剤を行なった猫
消化器型リンパ腫は猫のリンパ腫のうち最も多くの割合を占めるものであるのと同時に、猫の消化管において最も発生率の高い腫瘍としても知られています。 症例 猫 雑…
12か月前 -
うっ血性心不全/心原性肺水腫(犬)
心源性肺水腫とは、僧帽弁閉鎖不全症や肥大型心筋症などの心臓病によって心臓内の血液の鬱滞が悪化する事により、肺に血液中の水が押し出され呼吸困難を生じる二次的な病態で…
6年前 -
角膜疾患(潰瘍性角膜炎)
角膜疾患とは、角膜、いわゆる黒目の部分に起こる疾患を指します。角膜疾患では「目を開けずらそう」「涙や目ヤニの量が多い」「まぶしそうにしている」という症状がよく見られます。 …
2年前