慢性腸症
慢性腸症の定義
『対症療法に抵抗性または再発性で3週間以上続く慢性の消化器症状を呈し、一般的な血液検査や画像検査で原因の特定には至らない、原因不明の消化器疾患と定義されます。そのため、臨床徴候の経過、除外診断、病理学的特徴、治療反応から多角的に評価して臨床医が診断する疾患名である(Veterinary Board vol 43, EDUWARD Pressより転用 )。』
との記載があります。
消化器症状を呈する疾患は多岐に渡るため原因の精査には様々な検査や試験的治療が必要になります。

消化器疾患に対しては『消化器科』で紹介させていただいたように便検査や血液検査、画像診断などを行い診断を勧めていきます。実際にどのように診断し、治療を行っているかをご紹介します。
症例1 7か月 M.シュナウザー
下痢と元気消失、食欲不振を主訴に来院されました。一般便検査では異常なくジアルジア検査陽性だったためフェンベンダゾールを処方いたしました。一週間後には元気も戻り食欲も安定しましたが、軽度の軟便は改善しませんでした。整腸剤への反応も乏しかったのですが飼い主様との相談の上経過観察としました。
その後定期的に食べムラ、嘔吐、軟便をくりかえしているとの事で再度来院されました。血液検査には異常は検出されませんでした。腹部エコー検査では消化管以外の臓器には異常を認めず、小腸には著変がありませんでしたが空腸リンパ節と結腸リンパ節に軽度の腫大を認めました。


飼い主ここまでの検査で消化器以外の疾患はあらかた除外できている事、飼い主様からの稟告や年齢も考慮したうえで抗菌薬反応性腸症及び食事反応性腸症として試験的治療をする必要があることを伝えたうえで感染症の除外のために便のPCR検査を行いました。

PCR検査では異常を認めなかったため、食事反応性腸症に対しての試験的治療として Royal Canan のアミノペプチドフォーミュラを使用しました。

最初は食べつきがあまり良くなかったとの事でしたが、徐々に食べれるようになりそれに伴って軟便の症状は改善を認めました。また嘔吐も消失したため暫定診断として食事反応性腸症と診断しました。
その他の記事
-
2022年の健康診断のまとめ
季節が過ぎるのは早いもので、あっという間に新年度を迎えました。 今年もワンちゃんのフィラリアの検査・予防が始まる時期になりました。 当院ではフィラリアの予防を始…
2年前 -
整形外科
整形疾患というと骨折が思い浮かぶと思いますが、その他にもワンちゃんネコちゃんで起こりやすい整形疾患があります。このページでは代表的な整形疾患に関してご紹介していきます。 …
2年前
-
腎瘻チューブの設置により尿管が疎通した腎盂腎炎の症例
腎孟腎炎は腎孟および腎実質の炎症で,原因としてもっともよくみられるのは細菌感染です。 今回は腎盂腎炎に伴い尿管閉塞を起こした猫に対して、経皮的に腎瘻チューブを設置し、…
3年前 -
消化器科
『消化器疾患』吐出、嘔吐や下痢、食欲不振や体重減少などが認められたら消化器疾患を考えます。消化器とは、口、のど、食道、胃、小腸(十二指腸・空腸・回腸)、大腸、肛門まで続く消…
2年前 -
犬アトピー性皮膚炎|病態について
アトピー性皮膚炎とは、 「遺伝的素因を有した、痒みを伴うT細胞(炎症細胞の一種)を主体とした炎症性皮膚疾患」 と定義されています。 「遺伝的素因」を有して…
12か月前 -
紐状異物
紐状異物は危険な異物の一つで、特に猫に多く見られます。 消化管は食べ物を消化・吸収するために蠕動運動をしています。紐によって手繰り寄せられた消化管は、蠕動運動によって…
2年前 -
酸素中毒
皆さんは「酸素中毒」というものをご存じでしょうか。スキューバダイビングなどで酸素ボンベを使ったことがある方は耳にされたことがあるかもしれませんが、実は酸素にも中毒…
3年前 -
短頭種気道症候群
短頭種気道症候群とは多くが先天性で、パグやフレンチブルドッグなど短頭種に生じる疾患の総称です。外鼻腔狭窄、軟口蓋過長症、気管低形成を先天的に生じ、持続的な気道抵抗の増加によ…
2年前 -
猫の盲腸腺癌
猫の体重減少には様々な原因があります。甲状腺機能亢進症や慢性腎不全、糖尿病や腫瘍などが代表的な疾患です。特に、このような病気は急激に体調に変化をもたらすわけではなく、ゆっく…
3年前 -
膝蓋骨脱臼の整復
膝蓋骨脱臼は小型犬に多い整形疾患です。膝蓋骨が大腿骨の滑車溝から外れてしまうことで膝関節伸展機構が正常に機能せず、膝をうまく伸ばせない状態になってしまいます。典型的な臨床…
2年前