ご予約はこちら
045-932-5151
2026年7月8日

猫の難病、猫伝染性腹膜炎(FIP)について解説

猫伝染性腹膜炎(FIP)は、猫、特に子猫にとって命に関わる程の恐ろしい病気になります。猫伝染性腹膜炎はかつては”治らない病気”とされ、一度発症すると有効な治療法がなく、ほとんどの猫が命を落としていました。しかし、近年では獣医療の進歩とともに有効な治療薬が開発され、現在では長期的な寛解を目指せるようになっています。

今回はそんな猫伝染性腹膜炎(FIP)について解説していきます。

📌目次

 

猫伝染性腹膜炎(FIP)とは?

猫伝染性腹膜炎(FIP:Feline Infectious Peritonitis)は、猫コロナウイルス(FCoV:Feline Coronavirus)感染に伴って発症する疾患です。この猫コロナウイルスは特に多頭飼育環境で、高い感染率を示しますが、通常の感染では軽度の下痢や症状がない場合がほとんどです。しかし、この猫コロナウイルスが何らかの原因により、FIPを発症する型へと変異することで、FIPが発症されると考えられています。

近年では、獣医療の発展とともに様々な治療薬が開発されています、。そのため、以前は”不治の病”とされていましたが、長期予後を期待できる疾患へと変化してきています。

よく見られる症状について

主な症状として、元気消失、食欲不振、体重減少、抗菌薬に反応しない発熱、黄疸などがみられます。また、FIPの種類に応じて以下の症状が認められます。

ウェット型:お腹や胸の中に液体がたまるタイプ

お腹や胸がふくらむ(腹水、胸水がたまる)、呼吸が早いor苦しそう

ドライ型:液体はたまらず、臓器や神経に肉芽腫ができるタイプ

神経症状(ふらつき、発作、麻痺、眼振など)、眼の症状(白濁する、視力が低下するなど)、嘔吐、下痢など

猫伝染性腹膜炎(FIP)の原因とは?

FIP(猫伝染性腹膜炎)は多くの猫が保有しているFCoV(猫コロナウイルス)が、FCoVに感染した猫の体内で変異することによって発症する病気です。FCoVに感染しても、多くの猫は無症状または軽い消化器症状のみで経過します。しかし、一部の猫ではウイルスが体内で性質を変え、免疫細胞の中で増殖するようになります。その結果、全身に強い炎症が起こり、FIPを発症します。

発症にはウイルス変異だけでなく、年齢(FIP発症猫の60%前後が2歳未満)、遺伝的要因、ストレス、免疫状態なども関連すると言われています。

検査および診断について

先述のような症状が見られFIPを疑う場合は、血液検査、画像検査を行って診断を行います。

 

血液検査

①血球計算検査…非再生性貧血、好中球(白血球の一種)の増多or減少、リンパ球減少

②血液化学検査…高グロブリン血症、肝酵素上昇、高窒素血症

画像検査

画像検査では、腎臓の腫大やリムサインといった特徴的な所見や、腹腔内リンパ節の腫大、腹水・胸水が認められることがあります。

腎臓のリムサイン:腎臓の内部に白いラインが確認できる。
腹腔内リンパ節の腫大:本来は直径数mm程度だが、約15*30mmまで腫大している。

腹水や胸水が認められた場合、これを採取し検査することも診断の手助けになります。

感染チェック

①便PCR…FIPウイルス、つまりコロナウイルスは便中に排出されるため、便検査にてコロナウイルスが陽性であれば、他の検査との総合評価でFIPを疑います。

②リンパ節の針生検…腫大している腹腔内リンパ節の針生検を行い、ここにコロナウイルスの出現があればほぼ間違いなくFIPと言えます。しかし侵襲性が高く高い技術が必要なため、これ以外の検査で診断を行うことも多いです。

治療法について

FIPは治療できる可能性のある病気になってきています

猫伝染性腹膜炎(FIP)は、以前は致死率が非常に高い病気と考えられていました。
しかし近年では、抗ウイルス薬による治療成績が大きく向上し、多くの猫で寛解(症状が落ち着いた状態)が期待できるようになっています。

現在は、適切な診断と治療を早期に開始できた場合、70〜90%前後の猫で良好な治療反応が得られるという報告もあります。
ただし、神経型や重症例では治療反応が低下することもあります。

<FIPの治療>

 

抗ウイルス薬による治療

現在のFIP治療では、主に「GS-441524」と呼ばれる抗ウイルス薬が中心となります。

GS-441524は、FIPウイルス(猫コロナウイルス変異株)の増殖を抑える薬で、現在のFIP治療において非常に重要な薬剤です。

近年では、

などが使用されています。

海外ではモルヌピラビルが使用されることもありますが、一般的にはGS系薬剤が第一選択となることが多いです。

<治療期間>

一般的な治療期間は 84日間(12週間) が基本とされています。

治療開始後、

  • 数日〜1週間程度で食欲や元気が改善
  • 2〜4週間で血液検査の改善
  • 数か月かけて炎症マーカーや蛋白異常が改善

していくケースが多くみられます。

ただし、

  • 神経型
  • 眼型
  • 重症例

では、より長期間の治療が必要になることがあります。

<投薬方法>

薬剤は猫の状態に応じて、

  • 経口投与(飲み薬)
  • 皮下注射
  • 静脈投与

などを選択します。

近年は経口薬で治療されるケースも増えています。

  • 重度の消化器症状
  • 神経症状
  • 重篤な全身状態

がある場合には、注射薬から開始することもあります。

<治療中に行う検査>

治療中は定期的に血液検査を行い、治療効果や副作用を確認します。

確認する主な項目は、

  • 貧血の有無
  • 白血球数
  • 肝酵素
  • 黄疸
  • 総蛋白
  • グロブリン値
  • A/G比(アルブミン/グロブリン比)

などです。

特にFIPではA/G比の改善が経過判断の参考になります。

必要に応じて、

  • 超音波検査
  • レントゲン検査
  • 胸水・腹水検査

を行うこともあります。

<支持療法について>

FIPでは抗ウイルス治療に加えて、症状を和らげるための支持療法も重要です。

状態に応じて、

  • 点滴
  • 栄養管理
  • 制吐剤
  • 食欲増進剤
  • 貧血への対応
  • 胸水・腹水の管理

などを併用します。

神経型FIPでは、けいれんや歩行異常に対する治療が必要になることもあります。

FIPの予後

FIPは依然として重い病気ですが、治療成績は以前と比較して大きく改善しています。

特に、

  • 早期診断
  • 早期治療
  • 適切な投薬継続

ができた場合には、長期生存が期待できるケースも増えています。

一方で、

  • 重度の神経症状
  • 重度の黄疸
  • 著しい低体重
  • 重度貧血

などを伴う症例では、治療反応が乏しい場合もあります。

また、一度改善しても再発するケースがあるため、治療終了後もしばらくは経過観察が重要です。

まとめ

かつてFIPは根治の見込めない致死的な疾患とされ、治療に難航することが多い病気でした。しかし、上記にも述べたように獣医療の発展により、様々な治療薬が開発されたため、根治の見込めない致死的なものから、治る病気へと変化してきています。

FIPを疑う様な症状が見られた場合には、お近くの動物病院へご相談下さい。

他の症例記事について⇨こちら

Q&A

Q. 猫伝染性腹膜炎(FIP)の原因とは?

A. FIP(猫伝染性腹膜炎)は多くの猫が保有しているFCoV(猫コロナウイルス)が、FCoVに感染した猫の体内で変異することによって発症する病気です。FCoVに感染しても、多くの猫は無症状または軽い消化器症状のみで経過します。しかし、一部の猫ではウイルスが体内で性質を変え、免疫細胞の中で増殖するようになります。その結果、全身に強い炎症が起こり、FIPを発症します。

 

Q. 猫伝染性腹膜炎(FIP)ではどんな症状が出ますか?

A. 主な症状として、元気消失、食欲不振、体重減少、抗菌薬に反応しない発熱、黄疸などがみられます。また、FIPの種類に応じて他の症状が認められる場合があります。

 

Q. 猫伝染性腹膜炎(FIP)ではどんな検査をしますか?

A. 血液検査、画像検査、遺伝子検査など様々な検査を組み合わせることで診断します。

 

Q. 猫伝染性腹膜炎(FIP)ではどんな治療法がありますか?

A. モルヌピラビル、GS製剤、レムデシビルなど抗ウイルス薬を使った治療が実施されています。しかし、薬の種類によって費用が大きく異なるため、使用する薬については獣医師とご相談下さい。

 

Q. 猫伝染性腹膜炎(FIP)はどれくらい治りますか?

A. 報告では8~9割程の猫が寛解したとされています。早期に気づいて治療を始められるかどうかが治療の鍵となります。

 

Q. 猫伝染性腹膜炎(FIP)は再発することがありますか?

A. はい、あります。一般的には10%程度は再発する可能性のある病気とされています。

その他の記事

  • 腹腔鏡下肝生検

     ワンちゃんやネコちゃんでも健康診断で肝臓の数値が高い子を多くみかけます。一般的には症状がなく、元気そうにみえる子がほとんどですが、重病が隠れていることもあります。 …

    2年前
  • 猫の会陰尿道造瘻術

     尿石症(腎結石や尿管結石、膀胱結石など)は若い猫ちゃんでも起こる一般的な病気です。猫ちゃんにできやすい結石はストルバイト結石とシュウ酸カルシウムの2種類です。   …

    3年前
  • 犬の脾臓腫瘍

    犬の脾臓腫瘍は中・高齢で好発し、1/3~1/2が悪性とされています。腫瘍破裂や出血により劇症を呈することもあれば、症状が認められない場合も少なくありません。今回紹介…

    3年前
  • 先天性門脈体循環シャント

     先天性門脈体循環シャントは生まれつき血管に異常のある病気です。なんとなく元気がなかったり、成長が悪かったりと特異的な臨床徴候を出さないこともあり、血液検査をしないとわから…

    2年前
  • 犬の椎間板ヘルニア

     椎間板ヘルニアは、犬において最も遭遇する頻度の高い神経疾患の一つです。椎間板は椎骨間(背骨と背骨の間)の緩衝材として存在しています。この椎間板が変性し、脊髄を圧迫すること…

    3年前
  • 猫の心筋症:肥大型心筋症(HCM)

    心筋症には4つの代表的な分類が存在します。①肥大型心筋症(HCM)、②拘束型心筋症(RCM)、③拡張型心筋症(DCM)、④不整脈源生右室心筋症(ARVC)の4つに分類されて…

    3年前
  • 腎瘻チューブの設置により尿管が疎通した腎盂腎炎の症例

    腎孟腎炎は腎孟および腎実質の炎症で,原因としてもっともよくみられるのは細菌感染です。 今回は腎盂腎炎に伴い尿管閉塞を起こした猫に対して、経皮的に腎瘻チューブを設置し、…

    4年前
  • 副腎皮質機能低下症(アジソン病)について解説 | 最近いつもより元気や食欲がないは病気のサインかも?~検査・診断編~

    こちらの記事では副腎皮質機能低下症(アジソン病)の症状について解説していきます。 副腎皮質機能低下症(アジソン病)は特徴的な外豹の変化がないため、検査が重要となって…

    8か月前
  • 消化器科

    『消化器疾患』吐出、嘔吐や下痢、食欲不振や体重減少などが認められたら消化器疾患を考えます。消化器とは、口、のど、食道、胃、小腸(十二指腸・空腸・回腸)、大腸、肛門まで続く消…

    3年前
  • 最新の論文から考える〜犬の避妊手術、いつやるの?〜

    はじめに 犬の避妊手術の適期は、犬種や性別によって大きく異なります。一般的なガイドラインを全ての犬に適用することはできず、個々の犬の健康状態や生活状況を考慮した個別化…

    7か月前