ご予約はこちら
045-932-5151
2025年7月31日

胆嚢摘出術および総胆管ステント設置を実施した犬の1例

胆嚢粘液嚢腫とは、胆嚢内に可動性の乏しい胆汁由来の粘液状物質が過剰に貯留した状態です。この粘液状物質が過剰に貯留してしまうと胆嚢拡張を起こしたり、胆汁の流れ出る通り道である”総胆管”という管を閉塞してしまう恐れがあります。総胆管の不完全閉塞や完全閉塞を起こすと、しだいに可視粘膜や皮膚が黄色に変化してくる黄疸というものがでてくる恐れがあります。また、胆嚢拡張が重度になると、胆嚢壁が壊死したりすることにより、胆嚢破裂を起こしたり、そのまま胆汁が漏れることにより胆汁性腹膜炎を引き起こす可能性もあります。

黄疸に伴う症状

今回は胆嚢粘液嚢腫および総胆管の完全閉塞を起こした症例をご紹介します。

※他の胆嚢粘液嚢腫の記事についてはこちら

 

症例 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

症例は13歳のミニチュア・ダックスフンド、避妊済みの女の子です。

食欲不振および嘔吐、吐血を主訴に来院しました。

身体検査では、可視粘膜が黄色に変色し黄疸が認められていました。

 

検査 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

手術前の血液検査
総胆管閉塞の超音波画像

血液検査では、T-Bilおよび肝数値の上昇が認められました。

超音波検査では、胆嚢内に可動性の乏しい胆泥の貯留および総胆管の拡張を認め、大十二指腸乳頭部には閉塞物と思われる構造物が認められました。

 

診断 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

検査の結果、胆嚢粘液嚢腫および総胆管完全閉塞と診断しました。

数日は内科治療にて総胆管の拡張度合いや、状態の改善を目指しましたが、入院3日目に胆嚢破裂を認め、状態の改善が乏しいため外科手術を実施することとなりました。

胆嚢破裂の超音波画像

 

手術 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

外科手術では

・胆嚢摘出術

・総胆管ステント設置

・腹腔内ドレーン設置

を実施しました。

下記では実際の手術写真を載せていきます。

 

胆嚢および総胆管

胆嚢および総胆管の閉塞物

 

胆嚢摘出術

胆嚢摘出術の実際の手術写真

 

総胆管ステント設置術

総胆管ステント設置術の実際の手術写真

 

摘出後および創部

胆嚢摘出術の術後

 

経過 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

手術後は黄疸も改善し、肝臓の数値もほとんど正常値まで改善してきています。食べムラはありますが、本人も元気にしています。

術後の血液検査

術後は定期的な検査が必要ではありますが、胆嚢粘液嚢腫では無事に手術が終われば長期的な生存が可能な場合ことも多いです。お家の子がぐったりしている、粘膜や皮膚が黄色の場合は緊急疾患の可能性もありますので、獣医師にすぐご相談下さい。

その他の記事

  • 2022年の健康診断のまとめ

    季節が過ぎるのは早いもので、あっという間に新年度を迎えました。 今年もワンちゃんのフィラリアの検査・予防が始まる時期になりました。 当院ではフィラリアの予防を始…

    3年前
  • 副腎腫瘍について解説 | よくお水を飲む、尿が薄くて多いは病気の初期症状かも!? ~症状編~

    こちらの記事では副腎腫瘍の症例で良く認められる症状について解説していきます。 副腎腫瘍の性質や種類によって出てくる症状は様々になります。 ぜひ最後までお読みいた…

    3週間前
  • 若い犬や猫に見られる皮膚糸状菌症(真菌感染症)とは

    皮膚糸状菌症とは、皮膚糸状菌と呼ばれる真菌(カビの仲間)による感染症であり、人にも感染するため人獣共通感染症とされています。猫ちゃんでは原因菌として20種ほどが報告されてい…

    5か月前
  • べトスキャン イマジストが導入されました!

    この度、国内初のAI技術を応用した検査と専門医による診断サービスが可能な"べトスキャン イマジスト"という検査機器が当院に導入されました!     …

    1年前
  • 高悪性度消化器型リンパ腫を外科摘出後、抗がん剤を行なった猫

    消化器型リンパ腫は猫のリンパ腫のうち最も多くの割合を占めるものであるのと同時に、猫の消化管において最も発生率の高い腫瘍としても知られています。   症例 猫 雑…

    1年前
  • 鼻梁にできた多小葉性骨腫瘍

    多小葉性骨腫瘍は犬の頭蓋骨にできることの多い骨の腫瘍です。局所で拡大し脳を圧迫することで神経症状を示すことも少なくありません。今回は鼻梁部(鼻と頭蓋骨の間)にできた多小葉性…

    2年前
  • 肝生検

    健康診断で『肝臓の数値が高いですね』と言われたことや過去に『黄疸があり大変厳しい病気です』と動物病院で診断されたことはありませんか? 猫ちゃんの肝臓の病気は栄養性、感…

    5年前
  • 胆泥症・胆嚢粘液嚢腫

     胆嚢とは、肝臓で作られた胆汁の貯留を行う臓器で、方形葉と内側右葉に埋まるように位置しています。胆嚢から発生する疾患には胆石、胆泥、胆嚢粘液嚢腫および胆嚢炎などがあります。…

    3年前
  • 短頭種気道症候群

    短頭種気道症候群とは多くが先天性で、パグやフレンチブルドッグなど短頭種に生じる疾患の総称です。外鼻腔狭窄、軟口蓋過長症、気管低形成を先天的に生じ、持続的な気道抵抗の増加によ…

    2年前
  • 尿管結石摘出術

      尿管結石は文字通り腎臓と膀胱をつなぐ『尿管』に結石が詰まってしまい、二次的に腎臓に損傷が生じる疾患です。片方の尿管に閉塞しただけでは主だった症状は認められませんが…

    2年前