ご予約はこちら
045-932-5151
2022年9月15日

胆泥症・胆嚢粘液嚢腫

 胆嚢とは、肝臓で作られた胆汁の貯留を行う臓器で、方形葉と内側右葉に埋まるように位置しています。胆嚢から発生する疾患には胆石、胆泥、胆嚢粘液嚢腫および胆嚢炎などがあります。最近では超音波(エコー)検査が著しく発達し、人医療でも使用されているような精度の機器が導入されるようになり、この胆嚢疾患の診断率は格段に向上しました。胆嚢疾患の多くは基本的には無症状のまま推移していくため早期にエコー検査で診断することが最重要課題となります。閉塞や破裂を生じた重症例では、血色素尿や黄疸、胆汁性腹膜炎などを呈し命に関わる事もあります。

本症例は、胆嚢粘液嚢腫が破裂し腹膜炎を生じていたため胆嚢摘出術を行った1例です。

【症例】

急性の嘔吐、下痢、食欲不振で来院し、血液検査では肝酵素の上昇と高ビリルビン血症が認められました。腹部超音波検査にて胆嚢壁の不整と総胆管の拡張、胆嚢周囲に炎症所見を認めました。

胆嚢のエコー写真 
総胆管の拡張

上記エコー検査にて確認された異常です。左側の写真は典型的な胆嚢粘液嚢腫のエコー画像であり胆嚢周囲に炎症所見も確認されます。右の写真は胆嚢のうっ滞により拡張した総胆管です。この症例は〈胆嚢粘液嚢腫による閉塞性黄疸、および腹膜炎の合併〉と診断し、胆嚢切除術を行いました。

以下は実際の手術写真です。開腹し、異常な胆嚢を切除するまでの手術過程を記載しておりますのでご覧ください。

肝臓に癒着している胆嚢
胆嚢を肝臓から剥離

 

胆嚢頚部を結紮し切除
総胆管の開口部
洗浄後開口部をクリップで止めます
アクティブドレーンを設置し閉腹

実際に胆嚢粘液嚢腫や重度胆泥症の症例に遭遇する可能性は比較的多く、時にはなくなって運ばれてきたこの死後エコー検査で胆嚢疾患であったことが判明することも少なくありません。手術をすることに関しても、どのタイミングで手術をするのか? まだ明確なエビデンスは存在しませんが、【破裂する前にしっかりとした処置をしてあげる】が正しいことは間違いないように思います。

また、一部 『春の健康診断』 の項目で取り上げさせていただいておりますが、『肝酵素上昇』は健康診断で比較的多く見られる異常です。健診で肝酵素が上昇しているわんちゃん、7歳を過ぎていて今後の健康が気になる飼い主様!目に見えないものを可視化するという意味で、健康診断に腹部エコー検査を追加してみてはいかがでしょうか?

その他の記事

  • 尿管結石摘出術

      尿管結石は文字通り腎臓と膀胱をつなぐ『尿管』に結石が詰まってしまい、二次的に腎臓に損傷が生じる疾患です。片方の尿管に閉塞しただけでは主だった症状は認められませんが…

    2年前
  • 犬と猫の予防接種の重要性について

    愛犬や愛猫の健康を守るために、予防接種はとても大切です。 予防接種は、犬や猫の健康を守るだけでなく人にも影響を及ぼす感染症を防ぐ重要な役割を果たします。 …

    6か月前
  • 犬の外傷性股関節脱臼

    犬の起こりやすい外科疾患の中に股関節脱臼というものがあります。股関節脱臼は全ての外傷性脱臼の中でも最も発生が多く、全ての年齢に起こり、犬種や性差に関係なく発生します。主に…

    11か月前
  • 消化管穿孔

    消化管穿孔は外傷、異物、腫瘍など様々理由で生じます。今回は消化管の穿孔により細菌性腹膜炎を生じた猫を紹介いたします。 雑種猫 2歳9カ月 去勢雄 数日前から食欲…

    2年前
  • べトスキャン イマジストが導入されました!

    この度、国内初のAI技術を応用した検査と専門医による診断サービスが可能な"べトスキャン イマジスト"という検査機器が当院に導入されました!     …

    11か月前
  • 皮膚科

     皮膚疾患はワンちゃんや猫ちゃんが予防以外で動物病院を受診する理由としてTOP3に入り、当院でも皮膚疾患で受診される方が多くいらっしゃいます。「痒がっている」、「皮膚が赤く…

    2年前
  • 高悪性度消化器型リンパ腫を外科摘出後、抗がん剤を行なった猫

    消化器型リンパ腫は猫のリンパ腫のうち最も多くの割合を占めるものであるのと同時に、猫の消化管において最も発生率の高い腫瘍としても知られています。   症例 猫 雑…

    1年前
  • 犬アトピー性皮膚炎|病態について

    アトピー性皮膚炎とは、 「遺伝的素因を有した、痒みを伴うT細胞(炎症細胞の一種)を主体とした炎症性皮膚疾患」 と定義されています。 「遺伝的素因」を有して…

    12か月前
  • 犬の乳腺腫瘍

     犬の乳腺腫瘍とは、雌犬で一般的に認められる腫瘍であり、雌犬の全腫瘍中52%を占め、約半数が悪性です。臨床徴候としては乳腺内に単一または多発性に結節を認め、悪性の場合は急速…

    2年前
  • 2024年の春の健康診断まとめ

    今年も春の予防シーズンが落ち着き、夏本番が近づいてきていますね。今年は早い時期から猛暑が続いているので、熱中症には十分気をつけて下さい。 ここからは、今年度の4~6月…

    1年前