- ホーム
- 症例
- 神経科/眼科/整形外科
- 犬の外傷性股関節脱臼
犬の外傷性股関節脱臼
犬の起こりやすい外科疾患の中に股関節脱臼というものがあります。股関節脱臼は全ての外傷性脱臼の中でも最も発生が多く、全ての年齢に起こり、犬種や性差に関係なく発生します。主に外的な要因(交通事故や落下など)や老化による筋力低下などが原因で起こり、片側性での発生が多いです。
股関節脱臼は特定の犬種(トイ・プードル、ポメラニアン、柴犬など)で発生が多く認められ、上位3犬種だけで半数以上の発生率を占めています。

また、脱臼してしまう方向は頭背側での発生が最も多いですが、犬種によって脱臼方向の発生率が異なります。


今回は頭背側方向に股関節脱臼を起こしてしまった犬の症例を紹介いたします。
症例はトイプードルの女の子です。
痛そうに縮こまって震えているとの主訴で来院されました。
身体検査にて、患肢側の股関節の外旋および肢端の内旋が認められたため、股関節脱臼を疑い、レントゲン検査を実施しました。

この症例では、頭背側方向に股関節が脱臼していました。
股関節脱臼が認められた場合の治療法には
1.非観血的整復:用手での整復、ギプス固定など
2.観血的整復:ピン固定、大腿骨頭切除、人工関節など
の大きく2つに分かれます。
観血的整復というのは簡単に行ってしまえば外科的治療(外科手術)のことで、非観血的整復は用手での整復およびバンテージなどを用いた固定を実施するものになります。
非観血的整復では痛みが伴うため鎮静処置が必要になる場合はありますが、観血的整復程の長い麻酔処置は必要でない場合が多く、費用面も手術程はかかりません。しかし、非観血的整復では再発率の高さや固定中の皮膚荒れ、長期のギプス生活などの様々なデメリットも存在します。中でも再発率は非常に高く、うまく整復出来たとしてもおよそ60-70%程は再発してしまいます。
非観血的整復を実施する場合は
◇初めての発症であること
◇受傷後まもないこと(理想は72時間以内)
◇関節内骨折や股関節形成不全がないこと
が重要となってきます。
今回の症例では非観血的整復を望まれたので、外固定を実施しました。

この症例では1か月程は再脱臼なく過ごせていましたが、その後再発が認められてしまいました。
2-3週間という長い外固定を行ったとしても、このように再発してしまう可能性があるのが非観血的整復の怖いところになります。
わんちゃんのびっことして骨折や膝蓋骨脱臼などの疾患がメジャーと思われますが、外的要因の中では股関節脱臼が最も多いのです。今回は非観血的整復について述べましたが、何度も再発を繰り返してしまう場合や関節の構造に異常がある場合には観血的整復の実施をお勧めします。
関節疾患の症状緩和にはサプリメントが有効な場合もありますので、サプリメントも併せておすすめいたします。詳しくは獣医師と相談してください。
※整形外科についてはこちらからご覧ください。
その他の記事
-
内視鏡で誤食した釣り針を摘出
釣り針を食べてしまったとの事で来院した7カ月のワンちゃん。 X線検査を実施すると胃の中に釣り針が・・・。 釣り針のような尖ったものは…
2年前 -
腎瘻チューブの設置により尿管が疎通した腎盂腎炎の症例
腎孟腎炎は腎孟および腎実質の炎症で,原因としてもっともよくみられるのは細菌感染です。 今回は腎盂腎炎に伴い尿管閉塞を起こした猫に対して、経皮的に腎瘻チューブを設置し、…
2年前
-
腎瘻チューブの設置により尿管が疎通した腎盂腎炎の症例
腎孟腎炎は腎孟および腎実質の炎症で,原因としてもっともよくみられるのは細菌感染です。 今回は腎盂腎炎に伴い尿管閉塞を起こした猫に対して、経皮的に腎瘻チューブを設置し、…
2年前 -
猫の尿管結石の症例
猫の尿管結石は比較的若齢でも発生する泌尿器系の疾患です。腎臓と膀胱をつなぐ尿管に結石が閉塞することで、腎臓で産生された尿が膀胱に流れず、腎臓に貯まってしまいます(水腎症)…
3年前 -
犬・猫の去勢手術
【去勢手術のタイミングは?】 去勢手術をするにあたって、この時期・この年齢に必ず受けないといけないというものはございません。しかし、子犬・子猫ちゃんの場合は、性成熟を…
1年前 -
「目が見えていないかも…」考えられる原因とは?
犬は人よりも年を取るスピードが速く、7歳を超えるとシニア期に入ります。 年を取れば取るほど病気も増えていきますが、目もその一つです。 「最近物によくぶつかるよう…
10か月前 -
心室中隔欠損症(VSD)
心臓は、様々な臓器に酸素を供給するために血液を送り出す器官です。 全身に酸素を供給した血液(=酸素が少ない血液。青い部分)を取り込んで、肺で酸素を取り込んだ血液(…
12か月前 -
犬の弁膜症:僧帽弁閉鎖不全症(MMVD)
犬の弁膜症:僧帽弁閉鎖不全症(MMVD) 僧帽弁閉鎖不全症(以下 MMVD)は犬の心臓病の代表的な疾患です。犬の心臓の構造は人と類似しており、2心房2心室で…
2年前 -
2023年度 春の健康診断 結果報告🌸
こんにちは、しょう動物病院です。 今年もあっという間で、残すところ後2か月となりました。急に冷え込み体調を崩してしまう子が増えたように感じます。 例年通り、今年…
1年前 -
食道バルーン拡張術にて治療した食道狭窄の猫の1例
食道狭窄とは食道内腔が異常に狭くなることで嚥下障害が生じる病態のことを言います。 主な原因としては、薬物や化学物質による化学的な粘膜傷害、過度な嘔吐や胃酸の逆流(逆流…
2週間前