ご予約はこちら
045-932-5151
2023年8月29日

犬の椎間板ヘルニア

 椎間板ヘルニアは、犬において最も遭遇する頻度の高い神経疾患の一つです。椎間板は椎骨間(背骨と背骨の間)の緩衝材として存在しています。この椎間板が変性し、脊髄を圧迫することで痛みや麻痺などの症状を引き起こします。

 ミニチュア・ダックスフントやコーギーなどの犬種では椎間板の変性が起きやすいため、椎間板ヘルニアの発症が多いとされています。最近ではフレンチ・ブルドッグの症例も増えています。

 椎間板ヘルニアはハンセンⅠ型とハンセンⅡ型に分けられ、ハンセンⅠ型は急性発症が多く、ハンセンⅡ型では数週間から数カ月かけて徐々に進行することが多いとされています。

 

 

 

 

 臨床徴候や身体検査などで椎間板ヘルニアを疑うことはできますが、確定診断には脊髄造影検査やCT・MRI検査等が必要になります。

 

CT検査(黄色丸:椎間板の突出により脊髄が圧迫)

MRI検査(黄色丸:CT同様に脊髄が圧迫されている)

 治療法は重症度(グレード)と臨床経過によって異なりますが、一般的に臨床徴候が軽度な胸腰部のグレード1や2、頚部のグレード1などでは内科治療による保存療法を実施することが多いです。

 

 内科治療としては自宅もしくは入院下で安静に過ごしていただくケージレストや痛みや炎症を抑える目的で「Nsaids」や「ステロイド」の薬を使います。また、痛みがひどい場合には神経疼痛に効果があるとされている「ガバペンチン」などの鎮痛薬を併用することもあります。その他には温熱療法やサプリメントなども選択肢に入ります。

 外科治療としては椎骨に穴をあけて神経の圧迫を取り除いてあげる片側椎弓切除やレーザーで椎間板を蒸散させる経皮的椎間板レーザー減圧術(PLDD)などが挙げられます。

SMALL ANIMAL SURGERY 5th edition

 実際の手術の様子

 当院での治療の流れとしては、臨床徴候からヘルニアが疑わしい場合はグレードが軽ければ内科治療で経過をみていきます。内科治療への反応が乏しく、痛みや麻痺が続く場合やグレードが重い場合はCT・MRI検査に進み、確定診断の後に外科手術を実施しています。手術後にはリハビリをすることで足の機能がしっかり戻る子が多いです。また、重度の麻痺で足の動きがなかなか戻らない症例でも、再生医療(脂肪肝細胞の投与)を併用することもできますので、お困りの方はお問い合わせください。

その他の記事

  • 肺高血圧症

    今回の症例は『肺高血圧症(pulmonary hypertension: PH)』です。
    肺高血圧症は肺動脈圧の上昇を主として、様々な疾患から2次的に生じることの多い…

    5年前
  • 副腎腫瘍

    副腎腫瘍にはいくつか分類があり、その由来として副腎皮質由来か副腎髄質由来かで分けられ、ホルモンを実際に産生・分泌するかどうかで機能性のものと非機能性のものに分けられます。副…

    5年前
  • 副腎腫瘍・副腎腺腫摘出

    副腎腫瘍は当院で手術が可能な腫瘍です。この腫瘍はその特性上   ①腫瘍の分類 ②副腎皮質機能亢進症の有無 ③血管への浸潤や位置関係   …

    1年前
  • 心タンポナーデ

     心タンポナーデとは心膜腔(心臓の外側)に液体(心嚢水)が貯留し、心臓を圧迫することで心臓の動きが制限され、機能不全を起こした状態です。全身に血液を送ることが出来なくなり、…

    2年前
  • 低侵襲手術(内視鏡を用いた膀胱結石の摘出)

     膀胱結石は犬、猫ともに発生頻度の多い泌尿器疾患です。体質により再発を繰り返すことが多いですが、手術時に細かな結石を取り残してしまうことによって術後早期に膀胱内に結石が確認…

    2年前
  • 新しい「がん」の血液検査:血中ヌクレオソームの測定

       獣医療の発展に伴いペットの長寿化は進んでいますが、その中でも死因の上位にあげられるのが悪性腫瘍、いわゆる「がん」です。特にワンちゃんの死因では「がん」が第1位に…

    10か月前
  • 犬・猫の混合ワクチン

    コロナの影響によって”ワクチン”という言葉をよく耳にするかと思います。わんちゃん、ねこちゃんと一緒にいると、はがきなどによって混合ワクチンのお知らせが届くと思います…

    2年前
  • 犬の瞬膜腺脱出(チェリーアイ)

    瞬膜腺とは内眼角側にあるT字型の軟骨を支えに存在しています。この瞬膜は眼球の物理的な保護、眼脂の除去、涙を眼球に広げてくれるなどの働きがあります。この瞬膜の裏側に存在するの…

    3か月前
  • 内視鏡で誤食した釣り針を摘出

    釣り針を食べてしまったとの事で来院した7カ月のワンちゃん。 X線検査を実施すると胃の中に釣り針が・・・。 釣り針のような尖ったものは…

    3年前
  • 犬の乳腺腫瘍

     犬の乳腺腫瘍とは、雌犬で一般的に認められる腫瘍であり、雌犬の全腫瘍中52%を占め、約半数が悪性です。臨床徴候としては乳腺内に単一または多発性に結節を認め、悪性の場合は急速…

    2年前