ノミ・ダニ予防
ノミやダニと聞くと、痒いというイメージを持たれる方が多いと思います。しかし、ノミやダニは痒みを引き起こすだけでなく、わんちゃんや猫ちゃん、さらには人にも様々な病気を引き起こす可能性があるのです。
今回はそんなノミ・ダニについてご説明していきたいと思います。
<ノミ・ダニとは?>
ノミ:日本国内には70種類ほどのノミが分布するとされていますが、この中でもわんちゃん猫ちゃんに寄生するのは主にネコノミとイヌノミと言われる種類になります。
感染の原因としては、ノミに汚染された環境に立ち入ってしまうことによることがほとんどですが、ノミ感染動物との接触による感染も起こります。
野良猫さんなどは、無症状のままノミによる寄生を受けていることが多く、野良猫さんの行動圏内には卵が撤布されている可能性が高いです。また、室内で飼われている場合でも、お外で遊んでいる時や、お散歩中に偶発的に感染を受けている可能性があり、屋内にノミを持ち込んでしまうことがあります。
ノミは卵、幼中、さなぎを経て成虫になりますが、ノミの成虫は環境中に、たった5%程度しかいないとされ、卵やさなぎ、幼虫はカーペットや畳の隙間に潜んでいます。これらは13℃を超えると活動を開始します。わんちゃんに主に寄生するネコノミは、いったん寄生に成功すると1匹あたり1日に最大約30個もの卵を産むとされ、たった1匹だけであっても大量のノミが発生する可能性があります。
ノミの生活環
ダニ(マダニ):日本国内ではタカサゴキチマダニ、キチマダニ、オオトゲチマダニ、ヤマトチマダニ、クリイロコイタマダニなど地域によって異なりますが、様々な種類のマダニが存在します。
マダニの第1脚には二酸化炭素などを感知するハーラー器官と呼ばれるものがあります。普段、日陰にある草木の葉の裏などで待ち伏せをしていて、この感覚器官を用いて動物の接近を感知し、動物の体表に寄生します。
マダニには、卵、幼ダニ、若ダニ、成ダニの4つのステージがあり、卵以外のすべての発育期で吸血を行います。マダニは、徐々に吸血するのではなく、1、2日で急激に膨大して吸血を完了させます。また、吸血する際に、宿主に固着するために、セメント様物質を唾液腺より分泌し、その後、抗凝固物質などを皮下に注入することで吸血をしやすくしています。この、唾液腺物質とともに病原体が体内に注入されることで感染やアレルギーなどが引き起こされます。
ダニ(マダニ)の生活環
<ノミ・ダニによる感染症とは?>
ノミやダニによって引き起こされる病気は多く存在します。ここでは、この中でも代表的な病気をいくつかご紹介したいと思います。
・アレルギー性皮膚炎
わんちゃん、猫ちゃんの最も一般的な搔痒性皮膚炎とされています。
わんちゃんでは、紅斑や丘疹、痒みによる自傷による脱毛、表皮剥離などが認められます。慢性化してしまうと、色素沈着や苔癬化なども認められます。
猫ちゃんでは、多様な皮疹が現れ、皮膚炎や肉芽腫が形成されることがあります。
<獣医内科学 第3版より>
・瓜実条虫症
わんちゃん猫ちゃんともに軽度の感染では無症状となることが多いですが、重度になると削瘦、嘔吐、下痢、食欲の異常亢進、けいれん、てんかん様発作、腸炎などが認められることがあります。多くは肛門から出てきた片節が肛門周囲や会陰部に付着することで、搔痒を引き起こす事で肛門の擦り付け行動や、脱毛が見られたりします。
<寄生虫病学 改訂版より>
・ヘモプラズマ症
マイコプラズマと呼ばれる細菌が、主にノミやマダニなどによって媒介されることで感染してしまいます。体内の赤血球に感染することで、貧血を引き起こします。元気消失、食欲不振、発熱、黄疸、呼吸促拍、頻脈などの症状が現れることがあります。
・バベシア症
マダニによって媒介される感染症になります。急性発症している場合では、血小板減少症や溶血性貧血が認められることがあり、症状としては元気消失、食欲低下、運動不耐性、尿の色調の変化などが認められることがあります。
・ライム病
マダニによって媒介される感染症の一つで、わんちゃん猫ちゃんでは臨床症状を示すことは稀とされていますが、この感染症は人にも感染する可能性があります。発症すると、発熱、活動性や食欲の低下、けいれん、神経過敏、起立不能、跛行といった神経兆候が比較的効率に認められています。
日本ではワクチンがないため、マダニに対する予防が大切となります。
・重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
人と猫ちゃんは感受性が高く、重症化する可能性があるとされています。わんちゃんは感染しても不顕性であることも多いですが、一部では重症化することもあるとされています。重症化してしまうと、猫ちゃんでは致死率60%程度、わんちゃんでは40%程度とされている程の恐ろしい病気になります。
有効な治療法はなく、約50~60%が発症から7日以内に致死的経過を辿るとされています。
このように、ノミやダニによって引き起こされる病気は様々であり、ここで紹介した病気以外にも、ノミ・ダニによって引き起こされる多く存在します。
この中でも重症熱性血小板減少症候群(SFTS)と言われる感染症は、わんちゃんだけでなく人にも感染する人獣共通感染症と言われるもので、発症したわんちゃんや猫ちゃんからも人に感染すると言われています。死亡率は、人では14%、わんちゃんでは20~40%、猫ちゃんでは致命率が高く60~70%となる程の恐ろしい病気です。人では、2013年に感染症法で、感染したらすぐに届出をしなくてはならない4類感染症に指定されていて、発生件数は年々増加傾向となっています。今までは西日本を中心に発生していましが、近年静岡県や千葉県での発生も報告されていて、好発地域以外でも注意が必要となります。
<国立感染症研究所より>
<日頃から注意できること>
ノミの幼虫の発育には、一定以上の湿度が必須とされています。そのため、適度な換気や乾燥を心がけてあげることでノミの発育を抑えることが出来る場合があります。また、成虫以外の発育期では、カーペットや畳などに潜んでいることがあるため、適度な掃除を行うことも大切になってきます。
マダニでは、野山などに行った場合だけでなく、普段の散歩コースや公園などでもマダニに寄生される可能性はあります。そのため、マダニが多い茂みにできるだけわんちゃん、猫ちゃんを立ち入らせないことや、散歩の後のブラッシングなども有効となります。
しかし、どんなに日頃から注意をしていても感染するリスクは完全には回避できません。そのため、日頃の注意だけでなくきちんと予防をしてあげることがわんちゃん、猫ちゃんを感染から守るために重要となってきます。
<ノミ・ダニの予防について>
ノミやダニは地域によって異なりますが、寒い気温であっても発育が可能なものもいますので、基本的には通年予防が重要となってきます。
予防薬の種類には、様々な種類があり
予防薬の剤形
・錠剤タイプ
・スポットタイプ
・チュアブル・タブレットタイプ
駆虫対象の種類
・フィラリア・ノミ・ダニに効くオールインワンタイプ
・ノミ・ダニに効く駆虫薬
・ノミだけに効く駆虫薬
などがあります。
獣医師と相談して、わんちゃん猫ちゃんに合った種類をお選びください。
<おわりに>
ノミやダニに感染してしまったら、単純に痒みが出てくるだけではなく、重篤な感染症を引き起こしてしまう可能性があったり、最悪の場合には死に至る可能性もあります。さらには、SFTSのようにわんちゃん猫ちゃんだけではなく、人にも感染してしまう感染症も確認されています。
大切なわんちゃん、猫ちゃんを守るためだけでなく、自分自身や周りの人へ感染を極力起こさないようにするためにも、きちんとした予防が重要となります。
※各種予防についてはこちらから
その他の記事
-
犬・猫の混合ワクチン
コロナの影響によって”ワクチン”という言葉をよく耳にするかと思います。わんちゃん、ねこちゃんと一緒にいると、はがきなどによって混合ワクチンのお知らせが届くと思います…
1年前 -
犬の弁膜症:僧帽弁閉鎖不全症(MMVD)
犬の弁膜症:僧帽弁閉鎖不全症(MMVD) 僧帽弁閉鎖不全症(以下 MMVD)は犬の心臓病の代表的な疾患です。犬の心臓の構造は人と類似しており、2心房2心室で…
1年前
-
高カルシウム血症
普段血中のカルシウム濃度は厳密に調整されていますが、恒常性が破綻してしまうと高カルシウム血症が生じてしまいます。軽度の高カルシウム血症の場合は無症状のことが多く、偶発的に見…
7か月前 -
猫の子宮蓄膿症は若い子でも発症する?原因と治療について。
「子宮蓄膿症」とは、避妊手術をしていない女の子の犬/猫ちゃんの子宮に細菌が感染し、膿が溜まってしまう病気です。 今回は猫の子宮蓄膿症について詳しく解説します。 …
2か月前 -
猫の盲腸腺癌
猫の体重減少には様々な原因があります。甲状腺機能亢進症や慢性腎不全、糖尿病や腫瘍などが代表的な疾患です。特に、このような病気は急激に体調に変化をもたらすわけではなく、ゆっく…
2年前 -
肥満細胞腫
肥満細胞腫は、犬の皮膚腫瘍のうち20%前後を占めるため、犬の腫瘍では遭遇することの多い疾患にあたります。主にしこりの付近のリンパ節、続いて肝臓、脾臓へ転移することも多いため…
2年前 -
狂犬病予防
”狂犬病予防接種”、皆さんは毎年きちんと接種されていますか?どうして毎年接種しないといけないの?接種の必要はあるの?と思う方もいるかもしれません。狂犬病は皆さんが思…
1年前 -
胆泥症・胆嚢粘液嚢腫
胆嚢とは、肝臓で作られた胆汁の貯留を行う臓器で、方形葉と内側右葉に埋まるように位置しています。胆嚢から発生する疾患には胆石、胆泥、胆嚢粘液嚢腫および胆嚢炎などがあります。…
2年前 -
尾状葉乳頭突起の肝葉切除(肝細胞癌)
犬の肝臓の腫瘍性疾患において一番多く発生する腫瘍は肝細胞癌です。日常の臨床的にもよく遭遇する腫瘍で、発生の形態によって孤立性、多発性、び慢性に分けられます。経過としては徐々…
3か月前 -
皮膚科
皮膚疾患はワンちゃんや猫ちゃんが予防以外で動物病院を受診する理由としてTOP3に入り、当院でも皮膚疾患で受診される方が多くいらっしゃいます。「痒がっている」、「皮膚が赤く…
1年前