気管支鏡を実施した猫の症例
呼吸器疾患に対する検査にはX線検査やCT検査等の画像診断に加えて、血液検査(動脈血液ガス分析)や気管支鏡検査、肺生検(病理検査)などが挙げられます。消化管や肝臓などの他の臓器と比較して肺生検は大きな侵襲を伴うため、獣医療では病理検査を実施する機会は限られています。シグナルメントや症状、経過などから各種検査を組み合わせて診断を導き出す必要があります。
当院では以前から動脈血液ガス分析を実施し酸素化能や換気能を評価してきましたが、新たに細径内視鏡を導入し、気管支鏡検査の実施が可能になりました。今回、発咳と呼吸促拍が続く猫ちゃんに気管支鏡検査を実施したため、報告致します。

症例は14歳の猫ちゃん(MIX、去勢雄、既往歴なし)で、完全室内飼育。食欲はあるが、運動不耐性があり、咳をしているとの事。
血液検査では白血球やSAAの上昇はなく、動脈血液ガス分析ではPaO2=55.6Torr,
PaCO2=25.8Torrと低酸素血症とAaDO2の重度な開大が認められました。心臓の超音波検査では明らかな異常は認められませんでした。X線検査では肺野はびまん性に不透過性が亢進していました。


X線検査と血液ガス分析からは間質性の肺疾患が疑われました。1,2週間対症療法として気管支拡張剤やステロイドの吸入等を実施しましたが、改善傾向になかったため精査を目的に気管支鏡検査を実施いたしました。


気管支鏡検査では気管支の粘膜が荒れているのが確認できました。気管支の粘膜をブラシでこすり、細菌の培養検査、ウイルス等のPCR検査、細胞診検査を実施しました。
細菌やウイルスは検出されず、細胞診検査では慢性化膿性気管支炎と診断されました。本来であれば気管支肺胞洗浄や肺生検を実施するのが理想ですが、リスクや侵襲を考慮して今回は実施しませんでした。
各種検査結果から感染症の可能性が低いと判断したため、化膿性気管支炎・間質性肺疾患に対して全身性のステロイドの投与を開始しました。投与後は発咳がなくなり、呼吸回数も落ち着いてきました。


上記X線検査においても肺野の改善が認められました。今後も治療経過には注視していきますが、気管支鏡検査により治療方針が絞れた症例といえます。
同じように慢性的な咳やいびきなどの症状にお困りの方はご相談いただければと思います。呼吸器疾患は進行してしまうと息苦しさからQOLが大きく低下してしまうことがありますので早の受診をおすすめ致します。
その他の記事
-
犬・猫の去勢手術
【去勢手術のタイミングは?】 去勢手術をするにあたって、この時期・この年齢に必ず受けないといけないというものはございません。しかし、子犬・子猫ちゃんの場合は、性成熟を…
2年前 -
狂犬病予防
”狂犬病予防接種”、皆さんは毎年きちんと接種されていますか?どうして毎年接種しないといけないの?接種の必要はあるの?と思う方もいるかもしれません。狂犬病は皆さんが思…
2年前
-
肋間開胸術による犬の肺腫瘍切除
今回は他院にてレントゲン撮影をした際に肺腫瘍が見つかり、セカンドオピニオンとして当院を受診し、CT検査及び肺葉切除によって腫瘍を摘出した一例を紹介します。 a …
8か月前 -
腎瘻チューブの設置により尿管が疎通した腎盂腎炎の症例
腎孟腎炎は腎孟および腎実質の炎症で,原因としてもっともよくみられるのは細菌感染です。 今回は腎盂腎炎に伴い尿管閉塞を起こした猫に対して、経皮的に腎瘻チューブを設置し、…
3年前 -
高カルシウム血症
普段血中のカルシウム濃度は厳密に調整されていますが、恒常性が破綻してしまうと高カルシウム血症が生じてしまいます。軽度の高カルシウム血症の場合は無症状のことが多く、偶発的に見…
1年前 -
熱中症
熱中症とは? 熱中症は高温多湿環境下や過度な運動によって、体内に熱が…
4週間前 -
犬と猫の予防接種の重要性について
愛犬や愛猫の健康を守るために、予防接種はとても大切です。 予防接種は、犬や猫の健康を守るだけでなく人にも影響を及ぼす感染症を防ぐ重要な役割を果たします。 …
5か月前 -
べトスキャン イマジストが導入されました!
この度、国内初のAI技術を応用した検査と専門医による診断サービスが可能な"べトスキャン イマジスト"という検査機器が当院に導入されました! …
10か月前 -
犬の股関節脱臼の外科的整復(大腿骨頭切除)
犬の起こりやすい外科疾患の中に股関節脱臼というものがあります。股関節脱臼は全ての外傷性脱臼の中でも最も発生が多く、全ての年齢に起こり、犬種や性差に関係なく発生します。主…
7か月前 -
内視鏡 異物除去
内視鏡症例をご紹介いたします。 果物の種を飲み込んでしまったワンちゃんで内視鏡によって摘出を行いました。 異物、誤食の中で桃の種など果物の種は高確率に腸…
5年前