食道バルーン拡張術にて治療した食道狭窄の猫の1例
食道狭窄とは食道内腔が異常に狭くなることで嚥下障害が生じる病態のことを言います。
主な原因としては、薬物や化学物質による化学的な粘膜傷害、過度な嘔吐や胃酸の逆流(逆流性食道炎)、食道内異物による外傷、腫瘤性病変などにより食道炎が発生し、この食道炎が重度な場合や悪化することによって、食道狭窄が発生するとされています。他にも、血管輪異常と言われる先天的な疾患での発生もあり原因は様々です。
症状としては、吐出や流涎が一般的であり、食欲はあるのに食後に吐出するという主訴で来院されることが多いです。狭窄の程度によりますが、飲水や流動食では症状を示さないこともありますが、重症例では食欲不振や体重減少、誤嚥性肺炎を併発した場合には発咳や呼吸困難などが見られることがあります。
今回は食道狭窄に対してバルーン拡張術を実施した猫の一例を紹介いたします。
症例は0歳5か月の雑種の女の子です。
最近嘔吐の頻度が増え、ご飯を食べるとすぐに吐いてしまうという主訴で来院しました。
レントゲン検査を実施したところ、頸部食道および胸郭内食道の食道拡張が認められました。

CT検査も併せて実施したところ遠位食道部に狭窄が認められました。

内視鏡にて食道内を観察したところ噴門手前に重度の狭窄部が認められました。

以上の検査結果から、遠位食道狭窄と診断されました。
食道狭窄の治療法には
・バルーン拡張術
・食道内ステント
・ブジー拡張術
・外科的切除
などがあげられます。
食道狭窄に対しての治療法としては、バルーン拡張術が第一選択となります。バルーン拡張術の利点として、内視鏡下での実施が可能なため低侵襲に行うことができます。しかし、狭窄部が拡張しきるまでには平均で2~4回程度繰り返す必要がある場合があるため、回数を重ねる必要があるのが難点です。
また、食道が完全に閉塞していた場合や、拡張処置の場合に食道穿孔が起こった場合には、外科的処置が必要となる場合があります。


使用したバルーン(オリンパスメディカルシステムズ株式会社)
バルーン拡張術では、このように狭窄部にバルーンを挿入し、規定の圧を加えながら一定時間維持することで、徐々に拡張させていきます。

今回の症例では、バルーン拡張術を実施したところ、狭窄はある程度改善され、補助的なチューブがなくても食事が通るようになり、自力摂食が可能となっています。
食道狭窄は再狭窄する場合もあるため、今後の経過にも注意が必要となります。
長毛種の猫さんでは毛玉による頻回の嘔吐の後に、食道狭窄が起こってしまう場合もあります。頻回嘔吐の後にご飯を吐きだしたりするのであれば食道狭窄などの疾患の可能性もありますので、お近くの獣医師さんとご相談下さい。
※他の消化器疾患についてはこちら
をご覧ください。
その他の記事
-
うっ血性心不全/心原性肺水腫(犬)
心源性肺水腫とは、僧帽弁閉鎖不全症や肥大型心筋症などの心臓病によって心臓内の血液の鬱滞が悪化する事により、肺に血液中の水が押し出され呼吸困難を生じる二次的な病態で…
6年前 -
猫の子宮蓄膿症は若い子でも発症する?原因と治療について。
「子宮蓄膿症」とは、避妊手術をしていない女の子の犬/猫ちゃんの子宮に細菌が感染し、膿が溜まってしまう病気です。 今回は猫の子宮蓄膿症について詳しく解説します。 …
11か月前
-
発作重責・脳炎
犬によく見られる特発性髄膜脳脊髄炎の一種で、多因性の疾患であり、明確な原因は不明です。臨床症状は大脳病変の部位によって異なり、発作や虚弱、旋回運動、視覚障害などを呈し、最終…
6年前 -
鼻梁にできた多小葉性骨腫瘍
多小葉性骨腫瘍は犬の頭蓋骨にできることの多い骨の腫瘍です。局所で拡大し脳を圧迫することで神経症状を示すことも少なくありません。今回は鼻梁部(鼻と頭蓋骨の間)にできた多小葉性…
2年前 -
犬の口腔内無顆粒性悪性黒色腫
犬の口腔内腫瘍には悪性黒色腫、扁平上皮癌、線維肉腫など様々な種類の腫瘍が発生することが報告されています。この中でも悪性黒色腫は口腔内腫瘍の中で最も発生率の高い腫瘍とされ、半…
12か月前 -
消化管穿孔
消化管穿孔は外傷、異物、腫瘍など様々理由で生じます。今回は消化管の穿孔により細菌性腹膜炎を生じた猫を紹介いたします。 雑種猫 2歳9カ月 去勢雄 数日前から食欲…
2年前 -
腹腔鏡補助下で実施した潜在精巣摘出術
潜在精巣とは片側または両側の精巣が陰嚢内に下降していない状態をいいます。ビーグルや雑種犬における精巣下行のタイミングは生後30~40日と言われており、2ヶ月齢の時点で精巣…
1年前 -
胆嚢摘出術および総胆管ステント設置を実施した犬の1例
胆嚢粘液嚢腫とは、胆嚢内に可動性の乏しい胆汁由来の粘液状物質が過剰に貯留した状態であり、この粘液状物質が過剰に貯留してしまうと胆嚢拡張を起こしたり、胆汁に流れ出る通り道であ…
5日前 -
犬の股関節脱臼の外科的整復(大腿骨頭切除)
犬の起こりやすい外科疾患の中に股関節脱臼というものがあります。股関節脱臼は全ての外傷性脱臼の中でも最も発生が多く、全ての年齢に起こり、犬種や性差に関係なく発生します。主…
6か月前 -
高悪性度消化器型リンパ腫を外科摘出後、抗がん剤を行なった猫
消化器型リンパ腫は猫のリンパ腫のうち最も多くの割合を占めるものであるのと同時に、猫の消化管において最も発生率の高い腫瘍としても知られています。 症例 猫 雑…
12か月前