ご予約はこちら
045-932-5151
2025年2月26日

食道バルーン拡張術にて治療した食道狭窄の猫の1例

食道狭窄とは食道内腔が異常に狭くなることで嚥下障害が生じる病態のことを言います。

主な原因としては、薬物や化学物質による化学的な粘膜傷害、過度な嘔吐や胃酸の逆流(逆流性食道炎)、食道内異物による外傷、腫瘤性病変などにより食道炎が発生し、この食道炎が重度な場合や悪化することによって、食道狭窄が発生するとされています。他にも、血管輪異常と言われる先天的な疾患での発生もあり原因は様々です。

症状としては、吐出や流涎が一般的であり、食欲はあるのに食後に吐出するという主訴で来院されることが多いです。狭窄の程度によりますが、飲水や流動食では症状を示さないこともありますが、重症例では食欲不振や体重減少、誤嚥性肺炎を併発した場合には発咳や呼吸困難などが見られることがあります。

 

今回は食道狭窄に対してバルーン拡張術を実施した猫の一例を紹介いたします。

 


症例は0歳5か月の雑種の女の子です。

最近嘔吐の頻度が増え、ご飯を食べるとすぐに吐いてしまうという主訴で来院しました。

レントゲン検査を実施したところ、頸部食道および胸郭内食道の食道拡張が認められました。

 

CT検査も併せて実施したところ遠位食道部に狭窄が認められました。

 

内視鏡にて食道内を観察したところ噴門手前に重度の狭窄部が認められました。

 

以上の検査結果から、遠位食道狭窄と診断しました。

 


食道狭窄の治療法には

・バルーン拡張術

・食道内ステント

・ブジー拡張術

・外科的切除

             などがあげられます。

 

食道狭窄に対しての治療法としては、バルーン拡張術が第一選択となります。バルーン拡張術の利点として、内視鏡下での実施が可能なため低侵襲に行うことができます。しかし、狭窄部が拡張しきるまでには平均で2~4回程度繰り返す必要がある場合があるため、回数を重ねる必要があるのが難点です。

また、食道が完全に閉塞していた場合や、拡張処置の場合に食道穿孔が起こった場合には、外科的処置が必要となる場合があります。

 

使用したバルーン(オリンパスメディカルシステムズ株式会社)

 

バルーン拡張術では、このように狭窄部にバルーンを挿入し、規定の圧を加えながら一定時間維持することで、徐々に拡張させていきます。

 

 

今回の症例では、バルーン拡張術を実施したところ、狭窄はある程度改善され、補助的なチューブがなくても食事が通るようになり、自力摂食が可能となっています。

食道狭窄は再狭窄する場合もあるため、今後の経過にも注意が必要となります。

 

長毛種の猫さんでは毛玉による頻回の嘔吐の後に、食道狭窄が起こってしまう場合もあります。頻回嘔吐の後にご飯を吐きだしたりするのであれば食道狭窄などの可能性もありますので、お近くの獣医師さんにご相談下さい。

※他の消化器疾患についてはこちらをご覧ください。

その他の記事

  • 炎症性腸疾患<IBD>、慢性腸症

    炎症性腸疾患<inflammation Bowel disease:IBD>
    慢性腸症<chronic entropathy:CE> 小腸または大腸の粘膜固…

    6年前
  • 内視鏡で誤食した釣り針を摘出

    釣り針を食べてしまったとの事で来院した7カ月のワンちゃん。 X線検査を実施すると胃の中に釣り針が・・・。 釣り針のような尖ったものは…

    3年前
  • 犬の脱毛|加齢によるもの?病気?

    わんちゃんも人と同じように、高齢になると毛の色が変化したり薄くなったりします。これは生理的なものですが、中には病的に脱毛が起こってしまうことがあります。 今回は病的な…

    8か月前
  • 2024年の春の健康診断まとめ

    今年も春の予防シーズンが落ち着き、夏本番が近づいてきていますね。今年は早い時期から猛暑が続いているので、熱中症には十分気をつけて下さい。 ここからは、今年度の4~6月…

    1年前
  • 消化管穿孔

    消化管穿孔は外傷、異物、腫瘍など様々理由で生じます。今回は消化管の穿孔により細菌性腹膜炎を生じた猫を紹介いたします。 雑種猫 2歳9カ月 去勢雄 数日前から食欲…

    3年前
  • 糖尿病性ケトアシドーシス

    糖尿病性ケトアシドーシスとは内科エマージェンシーの1つであり、糖尿病が進行して発症します。発症メカニズムとしては、インスリン不足によりブドウ糖の細胞内への取り込みが減り、代…

    6年前
  • フィラリア予防

    毎年春になるとフィラリア予防という言葉を耳にすると思います。なんとなくわんちゃんに害がありそうだから、健康診断のついでにやっておこうかな?本当にフィラリアの検査って必要なの…

    2年前
  • 整形外科

     整形疾患というと骨折が思い浮かぶと思いますが、その他にもワンちゃんネコちゃんで起こりやすい整形疾患があります。このページでは代表的な整形疾患に関してご紹介していきます。 …

    2年前
  • 副腎皮質機能低下症(アジソン病)について解説 | 最近いつもより元気や食欲がないは病気のサインかも?~治療編~

    こちらの記事では副腎皮質機能低下症(アジソン病)の症例で必要な治療について解説していきます。 副腎皮質機能低下症(アジソン病)は、生涯にわたる投薬が必要になりますが…

    3週間前
  • 犬・猫の混合ワクチン

    コロナの影響によって”ワクチン”という言葉をよく耳にするかと思います。わんちゃん、ねこちゃんと一緒にいると、はがきなどによって混合ワクチンのお知らせが届くと思います…

    2年前