犬の口腔内無顆粒性悪性黒色腫
犬の口腔内腫瘍には悪性黒色腫、扁平上皮癌、線維肉腫など様々な種類の腫瘍が発生することが報告されています。この中でも悪性黒色腫は口腔内腫瘍の中で最も発生率の高い腫瘍とされ、半数以上を占めているとの報告もあります。また、転移率や再発率も高く、基本的には外科治療が必要になってきます。

口腔内腫瘍ではTNM分類といった、T:腫瘍の大きさ、N:局所リンパ節への転移の有無、M:遠隔転移の有無の3項目から臨床ステージが決められます。

ステージが低い程生存期間も長くなり、口腔内腫瘍は早期の発見が重要となります。
今回は早期に口腔内腫瘍が発見され、外科治療を実施した症例をご紹介します。
症例情報
14歳のラブラドール・レトリーバーの女の子です。口腔内に出来物があるとの主訴で来院。院内での細胞診で腫瘍を疑う細胞が認められたため、精査を実施しました。

血液検査

血液検査上は大きな異常は認められませんでした。
病理組織学的検査

腫瘤の一部を切除し、病理組織学的検査に提出しました。
結果は悪性黒色腫疑い、免疫組織学的検査の結果と併せて無顆粒性悪性黒色腫と診断されました。
CT検査

右下顎後臼歯外側の歯肉に境界不明瞭な造影増強領域が認められました。
病変周囲の歯槽骨には明らかな骨浸潤は認められませんでした。
両側の下顎リンパ節は軽度の腫大は認められるが、内部構造に明らかな異常は認められませんでした。
手術写真
術前検査にて合併症や麻酔のリスクが低いと判断したため、下顎部分切除および下顎リンパ摘出術を実施しました。ここからは手術写真と簡単な説明を交えながら手術内容を紹介していきます。






摘出病理

病理組織学的検査結果では下顎腫瘍は悪性黒色腫と診断されました。
腫瘍のマージンはきちんと確保でき、下顎リンパ節への明らかな転移は認められませんでした。
術後

下顎の一部分を切除したため、切除部分から少し舌が出てしまうようにはなりましたが、食事も問題なく、生活の質は維持できています。このように、わんちゃんでは顎骨切除をしても摂食障害は少ないことが多いです。
腫瘍の種類によっては、たった1週間という短い期間でどんどん大きくなってしまいます。早期の段階では、腫瘍のマージンも確保しやすく予後が長いこともありますが、時間が経つにつれて腫瘍が大きくなり外科治療が困難になる場合があります。そのため、口腔内腫瘍は早期発見・早期治療が重要となってきます。
※腫瘍科に関してはこちらからご覧ください
その他の記事
-
べトスキャン イマジストが導入されました!
この度、国内初のAI技術を応用した検査と専門医による診断サービスが可能な"べトスキャン イマジスト"という検査機器が当院に導入されました! …
11か月前 -
整形外科
整形疾患というと骨折が思い浮かぶと思いますが、その他にもワンちゃんネコちゃんで起こりやすい整形疾患があります。このページでは代表的な整形疾患に関してご紹介していきます。 …
2年前
-
2023年度 春の健康診断 結果報告🌸
こんにちは、しょう動物病院です。 今年もあっという間で、残すところ後2か月となりました。急に冷え込み体調を崩してしまう子が増えたように感じます。 例年通り、今年…
2年前 -
「たくさん水を飲む」「たくさんおしっこする」は病気のサインかもしれません!
こんにちは!最近は日ごとに気温があがり、夏の暑さが本格的に到来しつつあります。 私たちヒトと同じように、動物も暑くなるとのどが渇いてたくさん水を飲むようになり…
3か月前 -
膝蓋骨脱臼の整復
膝蓋骨脱臼は小型犬に多い整形疾患です。膝蓋骨が大腿骨の滑車溝から外れてしまうことで膝関節伸展機構が正常に機能せず、膝をうまく伸ばせない状態になってしまいます。典型的な臨床…
2年前 -
腹腔鏡下避妊手術
開腹手術では上からの視点のみで、傷口を大きく開かない限り腹腔内をよく観察することは難しいです。 胆嚢や肝臓 膀胱 …
1年前 -
胆嚢摘出術および総胆管ステント設置を実施した犬の1例
胆嚢粘液嚢腫とは、胆嚢内に可動性の乏しい胆汁由来の粘液状物質が過剰に貯留した状態です。この粘液状物質が過剰に貯留してしまうと胆嚢拡張を起こしたり、胆汁の流れ出る通り道である…
1か月前 -
高悪性度消化器型リンパ腫を外科摘出後、抗がん剤を行なった猫
消化器型リンパ腫は猫のリンパ腫のうち最も多くの割合を占めるものであるのと同時に、猫の消化管において最も発生率の高い腫瘍としても知られています。 症例 猫 雑…
1年前 -
犬・猫の避妊・去勢手術におけるメリット・デメリット
新しい家族を迎えた時、避妊・去勢手術の実施を考える方は多いかと思います。 みんな手術をしているから家の子もやっておこうといった考えではなく、大切な家族のために手術には…
2年前 -
犬・猫の混合ワクチン
コロナの影響によって”ワクチン”という言葉をよく耳にするかと思います。わんちゃん、ねこちゃんと一緒にいると、はがきなどによって混合ワクチンのお知らせが届くと思います…
2年前