ご予約はこちら
045-932-5151
2024年11月5日

新しい「がん」の血液検査:血中ヌクレオソームの測定

 

 獣医療の発展に伴いペットの長寿化は進んでいますが、その中でも死因の上位にあげられるのが悪性腫瘍、いわゆる「がん」です。特にワンちゃんの死因では「がん」が第1位になっています。がんを早期に見つけることでがんを根治させたり、がんとうまく付き合いながら寿命を全うすることができないでしょうか?今回はがんの早期発見に役立つ新しい検査を紹介します。

  

「がん」の原因は?

 

 

 がん細胞は健康な動物の身体の中でも毎日つくられています。通常は正常な細胞が放射線や化学物質、感染症ならびに慢性炎症などの刺激により、遺伝子(DNA)にダメージを受けるとダメージを受けた異常な細胞はさまざまな生体防御機構により、処理されるようにプログラムされています。しかし、この生体防御機能が破綻することで「がん」が発生します。

 動物では特定の犬種(特に大型犬)にがんの発生率が高かったりと遺伝的な要因も示唆されています。人では喫煙(受動喫煙を含む)、過度の飲酒、塩分や塩辛い食品をとりすぎる・野菜や果物をとらない・熱すぎる飲み物や食べ物をとるなどの食生活、太りすぎ、痩せすぎ、運動不足、ウイルスや細菌への感染ががんの要因になるとされています。

 

「がん」を見つけるには?

 

 

 従来の方法では、「がん」を見つけるには定期的な健康診断を受ける必要があります。人と違って動物では特定の腫瘍に対するがんマーカーが確立されていないため、特に画像検査(X線検査や超音波検査、CT検査など)を受けることが重要です。

 一般的にがん細胞が108~9個になると「がん」の直径が1cmほどになり臨床的に検出できるようになると言われています。しかし、大きさ1cmほどの「がん」では発生した場所にもよりますが、見つけるのが困難な場合もあります。身体の大きなワンちゃんやじっとしているのが苦手なネコちゃんではX線検査や超音波検査でも麻酔や鎮静が必要になってしまうこともあります。

 

新しい「がん」の検査

 

①染色体 ②ヌクレオソーム ③DNA鎖 https://www.fujifilm.com/jp/ja/healthcare/veterinary/examination/cancer-testより引用

 新しい「がん」の検査では血液中のヌクレオソームを測定します。DNAはヒストンと呼ばれるタンパク質に巻き付く形で存在し、この1単位をヌクレオソームと呼びます。「がん」が存在する場合はがん細胞由来のヌクレオソームが血中に放出されます。この血中のヌクレオソームを測定することによって「がん」のリスクを評価します。特定の「がん」を見つける検査ではないですが、身体の中に潜んでいるがん細胞が多いほど高い数値が出るため、スクリーニング検査として優れています。

 特に見つかりやすい「がん」の種類としてはリンパ腫や血管肉腫、組織球性肉腫、骨肉腫、肥満細胞腫、悪性黒色腫、軟部組織肉腫とされています。もちろん100%の検査ではないので結果の解釈には注意が必要ですが、健康診断的なスクリーニング検査として実施し、高い数値が出るようであれば画像検査を検討するという使い方ができるので、特に「がん」の発生の多い大型犬では有用な検査になりそうです。

 

画像クリックで富士フィルムVETシステムズの「がん」に対する血液検査のページへ

 

 

 検査を受けるにあたって注意事項もあります。新しい「がん」の検査を希望される方は獣医師にお尋ねください。

その他の記事

  • 犬アトピー性皮膚炎|病態について

    アトピー性皮膚炎とは、 「遺伝的素因を有した、痒みを伴うT細胞(炎症細胞の一種)を主体とした炎症性皮膚疾患」 と定義されています。 「遺伝的素因」を有して…

    10か月前
  • 泌尿器科

     泌尿器とは泌尿器とは、腎臓、尿管、膀胱、尿道などからなる器官の総称で、血液をろ過して尿を作り、体内の水分や塩分のバランスを調整する働きをします。  高齢になると腎臓…

    2年前
  • 気管支鏡を実施した猫の症例

     呼吸器疾患に対する検査にはX線検査やCT検査等の画像診断に加えて、血液検査(動脈血液ガス分析)や気管支鏡検査、肺生検(病理検査)などが挙げられます。消化管や肝臓などの他の…

    3年前
  • 犬の尿石症について ~症状や治療法について説明します~ 

    尿石症とは?

    尿石症とは、腎臓や尿管、膀胱、尿道などの尿路のいずれかの部位に結石ができる病気です。結石が存在する部位によって、…

    4週間前
  • 低侵襲手術(内視鏡を用いた膀胱結石の摘出)

     膀胱結石は犬、猫ともに発生頻度の多い泌尿器疾患です。体質により再発を繰り返すことが多いですが、手術時に細かな結石を取り残してしまうことによって術後早期に膀胱内に結石が確認…

    2年前
  • 紐状異物

    紐状異物は危険な異物の一つで、特に猫に多く見られます。 消化管は食べ物を消化・吸収するために蠕動運動をしています。紐によって手繰り寄せられた消化管は、蠕動運動によって…

    2年前
  • 循環器科

    循環器疾患とは血液を全身に循環させる臓器(心臓や血管など)が正常に働かなくなる疾患のことです。代表的な疾患としては、心臓病(弁膜症、心筋症)、高血圧、脳血管障害などがありま…

    2年前
  • 2025年 春の健康診断の結果をまとめました!

    こんにちは!春のフィラリア検査・健康診断シーズンが終わり、すっかり真夏の暑さが到来しています。
    今年もたくさんのわんちゃん・ねこちゃん達が健康診断のために来院してくれ…

    3週間前
  • 心タンポナーデ

     心タンポナーデとは心膜腔(心臓の外側)に液体(心嚢水)が貯留し、心臓を圧迫することで心臓の動きが制限され、機能不全を起こした状態です。全身に血液を送ることが出来なくなり、…

    2年前
  • ノミ・ダニ予防

    ノミやダニと聞くと、痒いというイメージを持たれる方が多いと思います。しかし、ノミやダニは痒みを引き起こすだけでなく、わんちゃんや猫ちゃん、さらには人にも様々な病気を引き起こ…

    2年前