犬アトピー性皮膚炎|病態について
アトピー性皮膚炎とは、
「遺伝的素因を有した、痒みを伴うT細胞(炎症細胞の一種)を主体とした炎症性皮膚疾患」
と定義されています。
「遺伝的素因」を有している、つまりは「遺伝的に皮膚が弱い」状態ということです。
皮膚が弱いと、細菌や花粉などの外からの様々な刺激を受けやすくなるため、炎症や痒みが出てしまいます。

両親がアトピーだと約65%の子が、片親がアトピーだと約20~50%の子がアトピーを発症してしまうことが分かっています。
======================
「 対策は? 」
ここで注目したいのは、遺伝疾患でも100%発症するわけではないということです。
発症する子と発症しない子の違いに注目すると、解決方法が浮かんできます。
それは、働く免疫細胞の違いです。

アレルギー/アレルギーの主役はT細胞と呼ばれる免疫細胞です。
T細胞の中にはTh1細胞とTh2細胞があり、アレルゲン(例えば花粉)に対してどちらが強く反応するかでアレルギー反応が出るかが決まります。
例を挙げると、自然豊かな環境で育った子は、細菌やウイルスなどの様々な微生物に触れることでTh1細胞が主体として働き、自然免疫が発達することでアレルギー反応が出にくくなります。
整えられた環境で微生物に触れずに育った子は、Th2細胞が主体となってしまい、アレルギー反応が出やすい体になってしまうのです。
この免疫システムは子犬・子猫の時に確立されるもので、大きくなってからは変えることができません。
つまり、体質的にアトピーになってしまうということなのですが、理論上、Th2細胞を抑制すればアレルギー反応は出なくなります。これを担ってくれるのが制御性T細胞(Treg細胞)という細胞です。

Treg細胞は、腸内細菌叢が整っていると活性化(詳しい論文はこちらから)され、効果を発揮しやすくなることが分かっています。
つまり、腸内環境を整えることがアトピー症状を改善させる第一歩となるのです。
腸内環境を整える代表的なものとして「乳酸菌」が挙げられます。
もちろん乳酸菌と言ってもたくさん種類はありますが、その中でもパラカゼイ菌(lactobacillus paracasei)と呼ばれる乳酸菌が特に皮膚の状態改善に効果があるとされており、人の方でもこの菌が含まれている皮膚のサプリメントが多く存在します。
わんちゃんの皮膚のサプリメントの中では「FINAL ANSWER」というサプリメントにこのパラカゼイ菌が豊富に含まれており、当院でも皮膚で悩まれている多くの患者様に使っていただいています。

======================
ここまで、犬アトピー性皮膚炎の病態についてお話ししました。
また別の記事で詳しい治療方法についてお話しようと思いますので、そちらも是非ご覧ください。
⇩こらも是非ご覧ください⇩
その他の記事
-
消化管穿孔
消化管穿孔は外傷、異物、腫瘍など様々理由で生じます。今回は消化管の穿孔により細菌性腹膜炎を生じた猫を紹介いたします。 雑種猫 2歳9カ月 去勢雄 数日前から食欲…
2年前 -
犬の脱毛|加齢によるもの?病気?
わんちゃんも人と同じように、高齢になると毛の色が変化したり薄くなったりします。これは生理的なものですが、中には病的に脱毛が起こってしまうことがあります。 今回は病的な…
4か月前
-
酸素中毒
皆さんは「酸素中毒」というものをご存じでしょうか。スキューバダイビングなどで酸素ボンベを使ったことがある方は耳にされたことがあるかもしれませんが、実は酸素にも中毒…
3年前 -
犬アトピー性皮膚炎|治療の2本柱
今回は犬アトピー性皮膚炎の治療方法について詳しくお話していきます。 犬アトピー性皮膚炎の病態についてはこちらで解説しているので合わせてご覧ください。 =====…
6か月前 -
腎瘻チューブの設置により尿管が疎通した腎盂腎炎の症例
腎孟腎炎は腎孟および腎実質の炎症で,原因としてもっともよくみられるのは細菌感染です。 今回は腎盂腎炎に伴い尿管閉塞を起こした猫に対して、経皮的に腎瘻チューブを設置し、…
3年前 -
ネコちゃんに多い内分泌疾患 甲状腺機能亢進症
甲状腺は喉にあり、甲状腺ホルモンを分泌します。甲状腺から異常にホルモンが分泌されてしまう病気を甲状腺機能亢進症と言います。 診断するにはそれほど複雑…
6か月前 -
腹腔鏡下避妊手術
開腹手術では上からの視点のみで、傷口を大きく開かない限り腹腔内をよく観察することは難しいです。 胆嚢や肝臓 膀胱 …
1年前 -
先天性門脈体循環シャント
先天性門脈体循環シャントは生まれつき血管に異常のある病気です。なんとなく元気がなかったり、成長が悪かったりと特異的な臨床徴候を出さないこともあり、血液検査をしないとわから…
2年前 -
心タンポナーデ
心タンポナーデとは心膜腔(心臓の外側)に液体(心嚢水)が貯留し、心臓を圧迫することで心臓の動きが制限され、機能不全を起こした状態です。全身に血液を送ることが出来なくなり、…
2年前 -
猫の乳腺腫瘍
猫の乳腺腫瘍は犬の乳腺腫瘍と比較して悪性度が高く、おおよそ80%が悪性の癌であると言われています。雌猫に発生する腫瘍のうち17%が乳腺腫瘍であり、比較的発生率の多い腫瘍で…
8か月前