ご予約はこちら
045-932-5151
2022年9月26日

腎瘻チューブの設置により尿管が疎通した腎盂腎炎の症例

腎孟腎炎は腎孟および腎実質の炎症で,原因としてもっともよくみられるのは細菌感染です。

今回は腎盂腎炎に伴い尿管閉塞を起こした猫に対して、経皮的に腎瘻チューブを設置し、内科治療により尿管が疎通した症例を経験したのでご紹介します。

症例は15歳の猫、避妊雌、嘔吐と元気食欲の消失で来院されました。

血液検査では白血球の上昇(WBC=40580/µl:基準値〈5500~19500〉)、腎数値の上昇(CRE=12.4 mg/dl:基準値〈0.8~1.8〉)が認められ、超音波検査では右腎臓の重度萎縮と左腎臓の水腎症が認められました。左側の尿管は拡張しており、腎臓から出てすぐの場所に高エコーの閉塞物が認められました。X線検査上は腎結石が認められましたが、尿管には結石の陰影は認められませんでした。

右側の委縮した腎臓
左側の腎臓:腎盂が重度に拡張
尿管は拡張している
尿管内の閉塞物

尿管閉塞により重度の腎障害が起きていたため、緊急的に超音波ガイド下で経皮的に腎瘻チューブを設置しました。腎瘻チューブ設置時に腎盂内の尿を抜去したところ、尿に混ざって膿のようなものが採取されました。採取した尿を細菌培養検査に提出し、腎瘻チューブを固定して尿路を確保、静脈点滴と抗生剤による治療を実施しました。

左の腎臓内に結石が確認できる

腎瘻チューブから尿が排泄され、腎臓の数値は徐々に下がっていきましたCRE=2.78 mg/dl。超音波検査では閉塞物が確認できなくなったため、腎瘻チューブから尿管の造影検査を実施したところ、尿管の疎通性が確認されました。これにより尿管切開やSUBsystem設置などの外科手術は必要ないと判断し、数日経過を見た後に退院となりました。

尿管造影前
尿管造影後

今回は閉塞物が結石なのか、炎症により出てきた膿なのか超音波検査では判断できませんでしたが、腎盂穿刺により腎盂内の尿を採取したことで、膿による閉塞の可能性が高いと判断できました。また腎瘻チューブを設置したことで尿路の確保ができ、腎臓の数値を下げることが可能でした。最終的に尿管造影を実施し、尿管が疎通していなければ外科手術に進む予定でしたが、内科治療に反応して閉塞が解除されたため手術を回避することができました。

このように水腎症が認められた時に重度の腎障害が併発している状態では腎瘻チューブを設置することで手術を回避、もしくは麻酔リスクを下げた状態での手術が可能になるかもしれません。

その他の記事

  • 胆嚢破裂を起こした胆嚢粘液嚢腫の犬

    胆嚢粘液嚢腫は犬の代表的な緊急疾患の一つです。以前にも当院で胆嚢摘出術は数例行っておりますが、今回は胆嚢が合破裂し胆嚢内要物が腹腔内に播種した症例をご報告いたします。 …

    3年前
  • 腹腔鏡下避妊手術

    開腹手術では上からの視点のみで、傷口を大きく開かない限り腹腔内をよく観察することは難しいです。 胆嚢や肝臓 膀胱 …

    1年前
  • 犬アトピー性皮膚炎|治療の2本柱

    今回は犬アトピー性皮膚炎の治療方法について詳しくお話していきます。 犬アトピー性皮膚炎の病態についてはこちらで解説しているので合わせてご覧ください。 =====…

    8か月前
  • 消化管穿孔

    消化管穿孔は外傷、異物、腫瘍など様々理由で生じます。今回は消化管の穿孔により細菌性腹膜炎を生じた猫を紹介いたします。 雑種猫 2歳9カ月 去勢雄 数日前から食欲…

    2年前
  • 尿管結石摘出術

      尿管結石は文字通り腎臓と膀胱をつなぐ『尿管』に結石が詰まってしまい、二次的に腎臓に損傷が生じる疾患です。片方の尿管に閉塞しただけでは主だった症状は認められませんが…

    2年前
  • 肺高血圧症

    今回の症例は『肺高血圧症(pulmonary hypertension: PH)』です。
    肺高血圧症は肺動脈圧の上昇を主として、様々な疾患から2次的に生じることの多い…

    5年前
  • 胆泥症・胆嚢粘液嚢腫

     胆嚢とは、肝臓で作られた胆汁の貯留を行う臓器で、方形葉と内側右葉に埋まるように位置しています。胆嚢から発生する疾患には胆石、胆泥、胆嚢粘液嚢腫および胆嚢炎などがあります。…

    3年前
  • 胆嚢破裂を起こした胆嚢粘液嚢腫の犬

    胆嚢粘液嚢腫は犬の代表的な緊急疾患の一つです。以前にも当院で胆嚢摘出術は数例行っておりますが、今回は胆嚢が合破裂し胆嚢内要物が腹腔内に播種した症例をご報告いたします。 …

    3年前
  • 全耳道切除・鼓室法切開

    慢性外耳炎・中耳炎  慢性外耳炎は、日常の診療でよく遭遇する疾患です。この疾患はどの犬種にも生じますが、特にアメリカン・コッカー・スパニエルやシーズーなど原発性脂漏症…

    3年前
  • 先天性疾患 心膜横隔膜ヘルニア整復

    腹膜心膜横隔膜ヘルニア(Peritoneopericardial Diaphragmatic Hernia;PPDH)は、「心膜横隔膜ヘルニア」とも呼ばれる、先天的に発生す…

    4週間前