犬と猫の高カルシウム血症について
普段血中のカルシウム濃度は厳密に調整されていますが、恒常性が破綻してしまうと高カルシウム血症が生じてしまいます。軽度の高カルシウム血症の場合は無症状のことが多く、偶発的に見つかることが多いですが、重度になると、食欲不振や嘔吐といった消化器症状、多飲多尿や尿路結石といった泌尿器系の異常、不整脈などの心筋の異常や神経症状といった様々な症状を示す場合があり、重度になる程危険なものとなります。
よくみられる原因
✔原発性上皮小体機能亢進症
✔悪性腫瘍随伴高カルシウム血症
✔アジソン病(副腎皮質機能低下症)
✔骨破壊
✔猫の特発性高カルシウム血症(原因が不明)
✔ビタミンD過剰症
治療
基本的には原因となる疾患の治療を行っていきます。ただし、すでに高カルシウム血症による症状が出ていたり、重度の高カルシウム血症になっている場合には早期の治療が必要な場合があります。
✔点滴治療
✔内科治療(利尿剤、ステロイドなど)
今回は高カルシウム血症を呈した症例を紹介します。
3歳の犬MIXの女の子、頻回の嘔吐、震え、多飲多尿の主訴で来院されました。HDでの血液検査にて高カルシウム血症が見つかり、本院での再検査においても高カルシウム血症(血清カルシウムおよびイオン化カルシウム)が認められました。


※左:他院結果 右:本院結果
超音波検査では、上皮小体の明らかな腫脹や副腎の萎縮などは認められず、膀胱結石がある程度で大きな異常は認められませんでした。
外注検査の結果、上皮小体ホルモン(PTH)や上皮小体ホルモン関連ペプチド(PTH-rp)は正常値、intactPTHが低値との結果でした。

これらの結果より、原因として下記の3つが鑑別として考えられました。
✔骨破壊
✔ビタミンD過剰症
✔アジソン病
そのため、ビタミンD過剰症を疑い、食事変更から開始しました。
現在、このわんちゃんは食事の変更によって症状は改善し、高カルシウム血症は認められなくなりました。膀胱結石はまだ改善されていないため、サプリメントによる内科治療を行っています。
過去には、農林水産省からビタミンD過剰の可能性のあるペットフードについての注意喚起が報告され、米国では特定のペットフード摂取によりビタミンD過剰症の症状(嘔吐、食欲減退、口渇、尿量増加、よだれの増加、体重減少など)を示すことや、腎不全または死亡につながる恐れのある濃度のビタミンDが検出されたペットフードもあるとされ、自主回収している事例もあります。
※記事はこちら

これからの季節熱さが増してくることで飲水量が増えてくることがありますが、異常に飲水量が増える場合は高カルシウム血症など、病気の可能性もありますので症状が出る場合はお気軽にご相談下さい。
※泌尿器科はこちら
その他の記事
-
腹腔鏡補助下で実施した潜在精巣摘出術
潜在精巣とは片側または両側の精巣が陰嚢内に下降していない状態をいいます。ビーグルや雑種犬における精巣下行のタイミングは生後30~40日と言われており、2ヶ月齢の時点で精巣…
2年前 -
犬の弁膜症:僧帽弁閉鎖不全症(MMVD)
犬の弁膜症:僧帽弁閉鎖不全症(MMVD) 僧帽弁閉鎖不全症(以下 MMVD)は犬の心臓病の代表的な疾患です。犬の心臓の構造は人と類似しており、2心房2心室で…
3年前
-
腹腔鏡補助下で実施した潜在精巣摘出術
潜在精巣とは片側または両側の精巣が陰嚢内に下降していない状態をいいます。ビーグルや雑種犬における精巣下行のタイミングは生後30~40日と言われており、2ヶ月齢の時点で精巣…
2年前 -
最新の論文から考える〜犬の避妊手術、いつやるの?〜
はじめに 犬の避妊手術の適期は、犬種や性別によって大きく異なります。一般的なガイドラインを全ての犬に適用することはできず、個々の犬の健康状態や生活状況を考慮した個別化…
11か月前 -
犬・猫の避妊・去勢手術におけるメリット・デメリット
新しい家族を迎えた時、避妊・去勢手術の実施を考える方は多いかと思います。 みんな手術をしているから家の子もやっておこうといった考えではなく、大切な家族のために手術には…
3年前 -
新しい「がん」の血液検査:血中ヌクレオソームの測定
獣医療の発展に伴いペットの長寿化は進んでいますが、その中でも死因の上位にあげられるのが悪性腫瘍、いわゆる「がん」です。特にワンちゃんの死因では「がん」が第1位に…
2年前 -
犬の急性膵炎について解説 | 実は重症化すると命に関わる可能性のある恐ろしい病気です
”急にお腹を痛がりだした”、”ぐったりしてなにもご飯をたべない”などの症状が見られることはありませんか?このような症状が見られる場合は急性膵炎の可能性があります。 …
2週間前 -
腎瘻チューブの設置により尿管が疎通した腎盂腎炎の症例
腎孟腎炎は腎孟および腎実質の炎症で,原因としてもっともよくみられるのは細菌感染です。 今回は腎盂腎炎に伴い尿管閉塞を起こした猫に対して、経皮的に腎瘻チューブを設置し、…
4年前 -
呼吸器科
『当院では、様々な呼吸器疾患に対し質の高い診断や治療が可能にするために血液検査機器、血液ガス検査機器、胸部レントゲン検査、気管支鏡検査、ICU(集中治療室)、およ…
3年前 -
紐状異物
紐状異物は危険な異物の一つで、特に猫に多く見られます。 消化管は食べ物を消化・吸収するために蠕動運動をしています。紐によって手繰り寄せられた消化管は、蠕動運動によって…
3年前
