消化器科
『消化器疾患』吐出、嘔吐や下痢、食欲不振や体重減少などが認められたら消化器疾患を考えます。消化器とは、口、のど、食道、胃、小腸(十二指腸・空腸・回腸)、大腸、肛門まで続く消化管と、これらにくっついて消化液を分泌する肝臓、胆嚢(たんのう)、膵臓(すいぞう)からなります。

食べたものを消化するには様々な臓器がかかわっています。1つの臓器にのみ病気が起こることもあれば複数の臓器に異常が認められる事もあり、しっかりとした診断には入念な検査が必要になります。その一方で一般的な対症療法(吐き気止めや整腸剤)で良くなってしまう場合もあります。下痢や吐き気などで来院された場合には『消化器症状以外に症状がないか』『黄疸や脱水をはじめとした身体検査所見異常がないか』を入念にしらべることが重要です。
消化器疾患に対する検査
消化器症状に対しては様々な検査を使用しアプローチを行っていきます。
◇便検査
消化管内寄生虫や腸内の細菌バランスを顕微鏡で確認をします。肉眼で見つけれない感染症などに関しては専用のキット(パルボウィルスやジステンパー、ジアルジア)を使用し検査を行います。感染症の可能性があり院内の簡易検査キットでは原因がわからない場合、IDEXX社の下痢パネル(PCR)を外注検査することもあります。



◇血液検査
血球計算(Complete Blood Cell)では貧血や白血球の異常を、血液化学検査(では臓器の状態を直接的に反映している酵素(Glu、ALB、肝酵素、LIPA、脂質など)や炎症マーカー(CRP、SAA)を測定していきます。また、消化器障害を生じるような内分泌疾患の検査や肝機能の検査(COR、T4、TBA)も院内で迅速に測定することが可能です。



◇画像診断(腹部・胸部レントゲン検査、腹部エコー検査)
レントゲン検査では食道拡張症や胃拡張胃捻転症候群を検出する事が可能です。また造影検査をおこなう事により正確に機械的・機械的イレウスの診断に役立てることができます。腹部エコー検査では腹腔内の臓器の評価が可能です。例えば胆泥症や胆嚢粘液嚢腫などは超音波検査で診断できる代表的な疾患です。また腹腔内の腫瘤や腸閉塞、急性膵炎、最近では異物などの検出感度も高く、現在当院では日常行う検査の中で一番使用頻度の多い検査となっています。



◇上部及び下部消化管内視鏡検査
消化器障害の原因が上部消化管(胃・小腸)や下部消化管(大腸)である場合で、上記の検査では原因が確定できない場合、また特定の対症療法に治療反応を示さない場合には麻酔下で内視鏡検査を行います。内視鏡検査では消化管内腔から粘膜の肉眼初見を確認し、内視鏡下生検法により病理検査を行う事でその病変を構成する組織の状態を把握する事ができます。


内視鏡検査は人の方では健康診断でも行われる検査になりますが、動物医療では麻酔が必須になるため少しハードルが高くなるイメージがあります。しかし比較的安全性が高く、診断精度も高い検査になるため必要以上に内視鏡検査を恐れる必要はありません。一般状態のいい子ではその日に帰ることが可能です。
慢性腸症~治らない消化器症状の原因を探る~
『3週間以上の慢性的な消化器症状を呈し、かつスクリーニング検査において原因の特定に至らない消化器疾患』を慢性腸症といいます。いわゆる一般的な難治性の消化器疾患のことを指しています。当院では消化器疾患に対して体系的な診断を心かけており、この慢性腸症の診断にも力を入れております。慢性的な下痢や嘔吐、体重減少などでお困りの方は気軽にご相談ください。慢性腸症に関しては他頁にて紹介しておりますのでそちらもご覧ください。
その他の記事
-
犬の外傷性股関節脱臼
犬の起こりやすい外科疾患の中に股関節脱臼というものがあります。股関節脱臼は全ての外傷性脱臼の中でも最も発生が多く、全ての年齢に起こり、犬種や性差に関係なく発生します。主に…
6か月前 -
全耳道切除・鼓室法切開
慢性外耳炎・中耳炎 慢性外耳炎は、日常の診療でよく遭遇する疾患です。この疾患はどの犬種にも生じますが、特にアメリカン・コッカー・スパニエルやシーズーなど原発性脂漏症…
3年前
-
尿石症
尿石症とは、尿路のいずれかの部位で、尿中の溶解性の低い晶質から結石形成に至り、これが停留し成長することによって尿路の炎症・頻尿・乏尿・閉塞などの徴候を引き起こす疾患です。そ…
5年前 -
猫の尿管結石の症例
猫の尿管結石は比較的若齢でも発生する泌尿器系の疾患です。腎臓と膀胱をつなぐ尿管に結石が閉塞することで、腎臓で産生された尿が膀胱に流れず、腎臓に貯まってしまいます(水腎症)…
3年前 -
総合診療科
例えば、嘔吐や下痢が認められれば、何となく消化器が悪いのかな?と考えることができますし、咳をしていれば呼吸器かな?と予測することができます。しかし、「なんかいつもと様子が違…
2年前 -
肋間開胸術による犬の肺腫瘍切除
今回は他院にてレントゲン撮影をした際に肺腫瘍が見つかり、セカンドオピニオンとして当院を受診し、CT検査及び肺葉切除によって腫瘍を摘出した一例を紹介します。 a …
4か月前 -
2024年の春の健康診断まとめ
今年も春の予防シーズンが落ち着き、夏本番が近づいてきていますね。今年は早い時期から猛暑が続いているので、熱中症には十分気をつけて下さい。 ここからは、今年度の4~6月…
9か月前 -
「目が見えていないかも…」考えられる原因とは?
犬は人よりも年を取るスピードが速く、7歳を超えるとシニア期に入ります。 年を取れば取るほど病気も増えていきますが、目もその一つです。 「最近物によくぶつかるよう…
11か月前 -
糖尿病性ケトアシドーシス
糖尿病性ケトアシドーシスとは内科エマージェンシーの1つであり、糖尿病が進行して発症します。発症メカニズムとしては、インスリン不足によりブドウ糖の細胞内への取り込みが減り、代…
5年前 -
狂犬病予防
”狂犬病予防接種”、皆さんは毎年きちんと接種されていますか?どうして毎年接種しないといけないの?接種の必要はあるの?と思う方もいるかもしれません。狂犬病は皆さんが思…
2年前